[1417] 血流制限下トレーニングを用いた膝前十字靱帯再建術後患者に対する大腿四頭筋筋力増強の効果
キーワード:膝前十字靱帯, 大腿四頭筋, 血流制限下トレーニング
【はじめに,目的】
膝前十字靱帯(以下,ACL)損傷はスポーツ活動時に受傷する主要な外傷のひとつである。受傷後のACL不全による膝不安定性はスポーツ選手の競技復帰に大きな障害となり,手術的治療が必要となる。ACL再建手術後の大腿四頭筋筋力の回復改善はスポーツ復帰に際しての,スポーツパフォーマンスを左右する重要な因子である。ACL再建術後リハビリテーションでは,再建ACLの再断裂リスクを回避し,安全かつ効率的な筋力トレーニングを行うことが重要である。当部では新たな筋力トレーニング方法を検討し,2009年より血流制限下トレーニングを導入した。ACL再建術後リハビリテーションの大腿四頭筋の筋力改善における血流制限下トレーニングの効果について調査したので報告する。
【方法】
対象は,膝屈筋腱を用いたACL再建術後の評価可能であった43例とし,血流制限下トレーニングを施行した19例(男性12例,女性7例),平均年齢33.5±8.6歳を血流制限群,通常の筋力トレーニングを施行した24例(男性15例,女性9例),平均年齢28.5±12.4歳をコントロール群とした。両群において,術前の年齢,大腿四頭筋筋力に有意差は認めなかった。血流制限群は,通常のリハビリテーションの時間中に15分間の血流制限下で筋力トレーニングを術後4週から5ヵ月まで週1回の頻度で施行した。5ヵ月以降はコントロール群と同様の通常のリハビリテーションを施行した。コントロール群は血流制限を行わずに血流制限群と同様のプログラムで筋力トレーニングを施行した。評価は両群の術前と術後1年時における大腿四頭筋筋力を,等速性筋力測定装置BIODEXを用いて角速度60°/秒で膝伸展ピークトルク体重比および膝伸展筋力の健患比を比較検討した。統計学的解析はSPSS(ver.17.0)を使用し,対応のあるt検定を用いて有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はA大学校倫理委員会の承認後,対象者には書面よる十分な説明と同意を得て実施した。
【結果】
術前と術後1年時の大腿四頭筋筋力は,血流制限群では健側が術前64.3±18.4%から術後1年時74.9±18.3%,患側が術前47.4±18.2%から術後66.5±18.2%となり,両側で有意な改善を認めた(P<0.01)。一方,コントロール群は健側が65.3±15.2%から術後1年時69.8%,患側が48.6±16.0%から54.8±18.5%で両側とも有意な改善を認めなかった。また,スポーツ復帰時の目安とされる大腿四頭筋筋力の健患比は,血流制限群,89.4±16.0%,コントロール群,79.5±21.3%で健患比においても血流制限群で良好な結果が得られた。
【考察】
血流制限による筋肥大のメカニズムは,筋サテライト細胞の増殖を抑制しているミオスタチンが,血流制限を行うことで減少し,その結果,筋サテライト細胞の増殖が起こり,筋肥大が得られることを主な機序としている。通常,筋力増強には,65%1RM以上の負荷が必要であるが,血流制限下トレーニングは,20%1RMというほぼ日常生活レベルの負荷でも筋肥大,筋力増強が得られるとされている。靭帯や筋・関節へのメカニカルストレスが少ない血流制限下トレーニングは,強い負荷が掛け難いACL再建術後のリハビリテーションに適していると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後のリハビリテーションは,再建ACLの再断裂リスクを回避し,安全で効率的な筋力トレーニングを行う必要がある。低強度のトレーニングで筋力増強が得られる血流制限下トレーニングは,筋力トレーニング時の再建靱帯に加わる負荷を増やすことなく筋力の改善が得られる可能性があり,ACL再建術後リハビリテーションへの有効性が示唆される。
膝前十字靱帯(以下,ACL)損傷はスポーツ活動時に受傷する主要な外傷のひとつである。受傷後のACL不全による膝不安定性はスポーツ選手の競技復帰に大きな障害となり,手術的治療が必要となる。ACL再建手術後の大腿四頭筋筋力の回復改善はスポーツ復帰に際しての,スポーツパフォーマンスを左右する重要な因子である。ACL再建術後リハビリテーションでは,再建ACLの再断裂リスクを回避し,安全かつ効率的な筋力トレーニングを行うことが重要である。当部では新たな筋力トレーニング方法を検討し,2009年より血流制限下トレーニングを導入した。ACL再建術後リハビリテーションの大腿四頭筋の筋力改善における血流制限下トレーニングの効果について調査したので報告する。
【方法】
対象は,膝屈筋腱を用いたACL再建術後の評価可能であった43例とし,血流制限下トレーニングを施行した19例(男性12例,女性7例),平均年齢33.5±8.6歳を血流制限群,通常の筋力トレーニングを施行した24例(男性15例,女性9例),平均年齢28.5±12.4歳をコントロール群とした。両群において,術前の年齢,大腿四頭筋筋力に有意差は認めなかった。血流制限群は,通常のリハビリテーションの時間中に15分間の血流制限下で筋力トレーニングを術後4週から5ヵ月まで週1回の頻度で施行した。5ヵ月以降はコントロール群と同様の通常のリハビリテーションを施行した。コントロール群は血流制限を行わずに血流制限群と同様のプログラムで筋力トレーニングを施行した。評価は両群の術前と術後1年時における大腿四頭筋筋力を,等速性筋力測定装置BIODEXを用いて角速度60°/秒で膝伸展ピークトルク体重比および膝伸展筋力の健患比を比較検討した。統計学的解析はSPSS(ver.17.0)を使用し,対応のあるt検定を用いて有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はA大学校倫理委員会の承認後,対象者には書面よる十分な説明と同意を得て実施した。
【結果】
術前と術後1年時の大腿四頭筋筋力は,血流制限群では健側が術前64.3±18.4%から術後1年時74.9±18.3%,患側が術前47.4±18.2%から術後66.5±18.2%となり,両側で有意な改善を認めた(P<0.01)。一方,コントロール群は健側が65.3±15.2%から術後1年時69.8%,患側が48.6±16.0%から54.8±18.5%で両側とも有意な改善を認めなかった。また,スポーツ復帰時の目安とされる大腿四頭筋筋力の健患比は,血流制限群,89.4±16.0%,コントロール群,79.5±21.3%で健患比においても血流制限群で良好な結果が得られた。
【考察】
血流制限による筋肥大のメカニズムは,筋サテライト細胞の増殖を抑制しているミオスタチンが,血流制限を行うことで減少し,その結果,筋サテライト細胞の増殖が起こり,筋肥大が得られることを主な機序としている。通常,筋力増強には,65%1RM以上の負荷が必要であるが,血流制限下トレーニングは,20%1RMというほぼ日常生活レベルの負荷でも筋肥大,筋力増強が得られるとされている。靭帯や筋・関節へのメカニカルストレスが少ない血流制限下トレーニングは,強い負荷が掛け難いACL再建術後のリハビリテーションに適していると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後のリハビリテーションは,再建ACLの再断裂リスクを回避し,安全で効率的な筋力トレーニングを行う必要がある。低強度のトレーニングで筋力増強が得られる血流制限下トレーニングは,筋力トレーニング時の再建靱帯に加わる負荷を増やすことなく筋力の改善が得られる可能性があり,ACL再建術後リハビリテーションへの有効性が示唆される。