第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節19

2014年6月1日(日) 10:25 〜 11:15 第11会場 (5F 501)

座長:佐藤睦美(大阪保健医療大学保健医療学部リハビリテーション学科)

運動器 口述

[1418] 膝屈筋腱を用いた膝前十字靱帯再建術前後における歩行時立脚期の外部膝関節屈曲モーメントの検討

池野祐太郎1,2, 田中聡3, 山田英司4, 福田航1, 片岡悠介1, 二宮太志5, 五味徳之5 (1.社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院関節外科センター附属理学療法部, 2.県立広島大学大学院総合学術研究科, 3.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 4.徳島文理大学保健福祉学部理学療法学科, 5.社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院関節外科センター)

キーワード:膝屈筋腱, 前十字靱帯再建術, 外部膝関節屈曲モーメント

【はじめに,目的】
膝前十字靱帯(ACL)損傷後は,外部膝関節屈曲モーメントを低下させた歩行(Quadriceps Avoidance Gait:QAG)が多くみられる。QAGは,ACLに緊張のかかる脛骨前方移動(Anterior tibial translation:ATT)を促す大腿四頭筋収縮を避けるために起こる現象といわれている。一般的に再建靱帯の成熟には時間を要することから,QAGは,再建靱帯の保護というリスク管理の点からも有利に作用すると考えられる。ACL再建術後の報告では,膝蓋腱を用いたACL再建術前後の歩行分析において,術後もQAGが残存していたと報告されている。一方,近年多く行われている半腱様筋腱・薄筋腱(膝屈筋腱)を用いたACL再建術後におけるQAGに関する検討はない。そこで今回,膝屈筋腱を用いたACL再建術後患者において,3次元動作解析装置を用いてACL再建術前後でのQAGの検証を目的とする。
【方法】
対象は,当院で同一術者により膝屈筋腱を用いた多重折二重束解剖学的ACL再建術を施行された12例24肢とした。対象者は男9例,女3例,年齢24.9±6.9歳,身長170.0±9.6cm,体重67.5±13.1kg,BMI23.2±2.6kg/m2,合併症は半月板損傷4例,内側側副靱帯損傷2例であった。受傷から手術までの待機期間は23.5±22.9週であった。方法は,3次元動作解析装置TOMOCO-VM(東総システム)と床反力計(AMTI社製AccuGait)を用いた。測定課題は通常歩行とし,健側患側における歩行時立脚初期の外部膝関節屈曲伸展モーメントをそれぞれ求め,体重で除した値を算出した。測定時期は手術前と膝関節屈曲拘縮が改善された手術後9週時とした。なお,3次元動作解析装置TOMOCO-VMの信頼性については,事前に健常者5名を対象に歩行中における膝関節角度データから検討し,その結果ICCは(1,1)0.78,(2,1)0.80と信頼性の高いデータを得ている。統計学的処理は,正規性の検定により,すべての項目で正規性であることが確認されたため,健側患側の比較は2標本t検定,ACL再建術前後の比較は対応のあるt検定を用いた。統計ソフトはR-2.8.1を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮に関して,ヘルシンキ宣言と臨床研究に関する倫理指針に基づき,対象者および親権者に本研究の実施計画を文書及び口頭にて十分に説明し書面による同意を得て実施した。なお,本研究実施に際して,当院に帰属する倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:2011-4)。
【結果】
手術前と9週時の健側と患側の比較では,患側で外部膝関節屈曲モーメントが有意に低下していた。また,手術前後における外部膝関節屈曲モーメントの比較では,有意差は認められなかった。
【考察】
膝屈筋腱を用いたACL再建術後患者は,膝屈筋腱を採取していることから,外部膝関節屈曲モーメントの増加が推測される。膝屈筋腱を用いたACL再建術後患者に3次元動作解析装置を用いて検討した結果,術前にみられたQAGは術後9週でも残存していた。外部膝関節屈曲モーメントの低下は再建靱帯の保護としてリスク管理になると考えられる。術後のQAG現象の残存はリスク管理として重要であるが,QAGが長期間残存することで大腿四頭筋筋力低下や膝蓋大腿関節障害が生じることも考えられる。今後は経時的変化を追うことや筋力との関連を検討する必要があると考えられた。本研究の限界として,外部膝関節屈曲モーメントでは大腿四頭筋やハムストリングスの活動を相対的に観察し,ATTを推測しているが,それぞれの筋活動がATTに及ぼす影響は確認できていない。今後の課題として,ACL再建術後患者において,3次元動作解析装置と床反力計,筋電図を用いて,外部膝関節屈曲モーメントと膝周囲筋活動量の関連を検討することが必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
膝屈筋腱を用いたACL再建術後における歩行時立脚期の外部膝関節屈曲モーメントを検討することはリスク管理の点からも重要であると考えられる。本研究結果より,膝屈筋腱を用いたACL再建術後は外部膝関節屈曲モーメントの低下がみられることから,歩行時に再建靱帯の保護をしていると考えられた。