[1422] 立位における適切な肩甲骨周囲筋筋活動比を導く運動方法の検討
キーワード:肩甲骨周囲筋, 筋活動比, 筋電図
【はじめに,目的】これまで肩甲骨周囲筋筋活動の変化は,様々な肩関節疾患と関連付けられ,僧帽筋上部線維(UT)の過活動と同時に,僧帽筋下部(LT)および前鋸筋(SA)の低活動を報告した。これらは僧帽筋筋内活動比(UT/LT比)および僧帽筋前鋸筋筋間活動比(UT/SA比)で評価され,UTの活動を抑制しつつ,LTやSAの筋活動を強調した運動として,臥位での運動が推奨されてきた。しかしながら,肩関節は抗重力位で運動する頻度が高いため,抗重力位にて適切な筋活動比を導き出す運動介入方法が求められる。従って,本研究の目的は,立位にてLTもしくはSAを強調した上肢挙上運動と,先行研究にて紹介された臥位での運動とのUT/LT比およびUT/SA比を比較することである。仮説として,肩関節水平外転または水平内転方向への筋収縮によって,LTおよびSAをそれぞれ強調した立位上肢挙上運動が,これまで推奨されてきた臥位での運動と同程度の肩甲骨周囲筋筋活動比を示すとした。
【方法】被験者は健常男子学生16名(21.6歳±1.0歳[SD])とし,除外基準は肩関節に疼痛がある者,肩関節に整形外科的および神経学的な症状や既往がある者とした。動作課題は,臥位での運動として,側臥位肩屈曲(Side Flex),側臥位肩外旋(Side ER),腹臥位肩水平外転(Pro HAbd),立位での運動として,セラバンドに抗して水平外転方向への筋収縮を伴う肩甲骨面拳上(Sera Scap)および屈曲(Sera Flex),バランスボールを両上肢間ではさむように水平内転方向の筋収縮を伴った屈曲(Ball Flex)とし,それぞれ1kgのダンベルを保持して行った。UT,LT,SAの筋活動は表面筋電計(MyoSystem 1200, Noraxon, USA.inc)を用いて計測した。表面電極は,SENIAMおよび先行研究に準じて貼付された。最大随意収縮(MVC)課題を行い,次いで各運動課題を実施した。各運動課題の試行順は無作為化され,各動作肢位は開始肢位から最終肢位までの求心性収縮相,最終肢位を保持する等尺性収縮相,そこから開始肢位へと戻る遠心性収縮相を5秒間で行なった。各試行は3回反復された。筋電図データは,MATLABにて整流化,フィルター処理(10-500Hz band-pass filter),6Hz low pass filterによる平滑化を行った。得られた各相5秒間の筋電データの平均値を算出し,反復した3試行の平均値をMVCで正規化(% MVC)し,UTをLTもしくはSAで除した筋活動比(UT/LT比,UT/SA比)について統計解析した。統計解析はSPSSを用い,各運動課題の筋活動比を比較するため,各相で反復測定一元配置分散分析およびBonferroni法を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本学倫理委員会の承認を得て行い,被験者には事前に研究の要旨を口頭及び書面にて十分に説明し,同意を得た。
【結果】求心性収縮相において,立位でのSera Scap,Sera Flex,Ball FlexのUT/LT比が,臥位でのSide Flex,Side ER,Pro HAbdよりも有意に大きかった一方で,全ての立位動作課題のUT/SA比はPro HAbdよりも有意に小さく(P<0.05),その他の臥位での動作課題とも有意差を認めなかった。等尺性収縮相において,Sera Flexは,臥位での動作課題よりもUT/LT比が有意に小さい(P<0.05),もしくは有意差を認めなかった。Sera ScapおよびBall Flexは臥位での運動よりも有意に高いUT/LT比を示した(P<0.05)。UT/SA比に関しては,全ての立位動作課題が臥位での動作課題と同等もしくは有意に小さい筋活動比を示した。遠心性収縮相において,UT/SA比に関して,Ball FlexがPro HAbdよりも有意に小さく(P<0.001),他の動作課題は有意差を認めなかった。UT/LT比に関して,立位動作課題は臥位での動作課題よりも有意に高い筋活動比を示した。
【考察】これまで,UT/LT比およびUT/SA比が小さい運動が良好な筋活動比を示す運動として推奨されてきた。本研究結果より,UT/LT比に関しては,等尺性収縮時のみ,Sera Flexが良好な筋活動比を導き出すことが明らかとなった。UT/SA比に関しては,全ての立位動作課題が全ての運動相で良好な筋活動比を呈すると考えられる。それゆえ,本研究結果は我々の仮説を部分的に支持するものであった。UT/LT比に対する求心性および遠心性収縮相における,更なる介入方法の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,臥位での肩甲骨周囲筋筋力強化が行なわれるリハビリテーションの初期段階に次いで,立位にて適切な筋活動比で肩甲骨周囲筋を強化できる運動介入方法を示した。
【方法】被験者は健常男子学生16名(21.6歳±1.0歳[SD])とし,除外基準は肩関節に疼痛がある者,肩関節に整形外科的および神経学的な症状や既往がある者とした。動作課題は,臥位での運動として,側臥位肩屈曲(Side Flex),側臥位肩外旋(Side ER),腹臥位肩水平外転(Pro HAbd),立位での運動として,セラバンドに抗して水平外転方向への筋収縮を伴う肩甲骨面拳上(Sera Scap)および屈曲(Sera Flex),バランスボールを両上肢間ではさむように水平内転方向の筋収縮を伴った屈曲(Ball Flex)とし,それぞれ1kgのダンベルを保持して行った。UT,LT,SAの筋活動は表面筋電計(MyoSystem 1200, Noraxon, USA.inc)を用いて計測した。表面電極は,SENIAMおよび先行研究に準じて貼付された。最大随意収縮(MVC)課題を行い,次いで各運動課題を実施した。各運動課題の試行順は無作為化され,各動作肢位は開始肢位から最終肢位までの求心性収縮相,最終肢位を保持する等尺性収縮相,そこから開始肢位へと戻る遠心性収縮相を5秒間で行なった。各試行は3回反復された。筋電図データは,MATLABにて整流化,フィルター処理(10-500Hz band-pass filter),6Hz low pass filterによる平滑化を行った。得られた各相5秒間の筋電データの平均値を算出し,反復した3試行の平均値をMVCで正規化(% MVC)し,UTをLTもしくはSAで除した筋活動比(UT/LT比,UT/SA比)について統計解析した。統計解析はSPSSを用い,各運動課題の筋活動比を比較するため,各相で反復測定一元配置分散分析およびBonferroni法を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本学倫理委員会の承認を得て行い,被験者には事前に研究の要旨を口頭及び書面にて十分に説明し,同意を得た。
【結果】求心性収縮相において,立位でのSera Scap,Sera Flex,Ball FlexのUT/LT比が,臥位でのSide Flex,Side ER,Pro HAbdよりも有意に大きかった一方で,全ての立位動作課題のUT/SA比はPro HAbdよりも有意に小さく(P<0.05),その他の臥位での動作課題とも有意差を認めなかった。等尺性収縮相において,Sera Flexは,臥位での動作課題よりもUT/LT比が有意に小さい(P<0.05),もしくは有意差を認めなかった。Sera ScapおよびBall Flexは臥位での運動よりも有意に高いUT/LT比を示した(P<0.05)。UT/SA比に関しては,全ての立位動作課題が臥位での動作課題と同等もしくは有意に小さい筋活動比を示した。遠心性収縮相において,UT/SA比に関して,Ball FlexがPro HAbdよりも有意に小さく(P<0.001),他の動作課題は有意差を認めなかった。UT/LT比に関して,立位動作課題は臥位での動作課題よりも有意に高い筋活動比を示した。
【考察】これまで,UT/LT比およびUT/SA比が小さい運動が良好な筋活動比を示す運動として推奨されてきた。本研究結果より,UT/LT比に関しては,等尺性収縮時のみ,Sera Flexが良好な筋活動比を導き出すことが明らかとなった。UT/SA比に関しては,全ての立位動作課題が全ての運動相で良好な筋活動比を呈すると考えられる。それゆえ,本研究結果は我々の仮説を部分的に支持するものであった。UT/LT比に対する求心性および遠心性収縮相における,更なる介入方法の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,臥位での肩甲骨周囲筋筋力強化が行なわれるリハビリテーションの初期段階に次いで,立位にて適切な筋活動比で肩甲骨周囲筋を強化できる運動介入方法を示した。