[1427] ラット膝関節炎モデルに対する患肢の不動ならびにその過程で実施する持続的他動運動が痛みや腫脹におよぼす影響
キーワード:慢性疼痛, 不動, 他動運動
【はじめに,目的】近年,四肢の一部の不動が慢性痛の危険因子であることは周知の事実となっており,末梢組織の炎症が著しい場合においても患部の安静は極力控え,運動を促すような治療戦略が必要である。しかし,臨床上,末梢組織に炎症を伴うような急性期の運動器疾患患者では,理学療法介入時以外はベッド上生活を余儀なくされることがしばしばあり,このようなケースでは患部の運動の実施が限られてしまうことも事実である。よって,このような臨床場面をシミュレーションし,慢性痛発生に対する運動の効果を検証する必要があるといえる。一方,Ferrettiら(2005)によって,持続的他動運動(CPM)には関節炎に対する抗炎症作用があることが示されており,CPMによる関節運動は前述した治療戦略の一つとして有用であると考えられる。そこで,本研究ではラット関節炎モデルに対する患肢の不動とその過程で実施するCPMが腫脹や痛みにおよぼす影響について検討した。
【方法】実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット26匹を用いた。全てのラットの右膝関節内に起炎剤である3%カオリン・カラゲニン混合液を注入することで関節炎を惹起させた。そして,これらのラットを8週間通常飼育する対照群(n=9)と右後肢を不動化する実験群に振り分け,さらに,実験群は不動化のみの不動群(n=9)と不動化の過程においてCPMを実施するCPM群(n=8)に振り分けた。不動群とCPM群のラットに対しては,起炎剤投1日目から股・膝関節最大伸展位,足関節最大底屈位にてギプス包帯を用いて患肢の不動化を施した。また,CPM群に対しては起炎剤投与2日目から麻酔下にて角速度10°/秒の膝関節屈曲伸展運動を60分間(週5回)実施した。そして,起炎剤投与の前日ならびに1・3・7日目,その後は1週毎に8週目まで右膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに遠隔部である足底の痛覚閾値を評価した。具体的には,ノギスを用いて膝関節の横径を計測することで腫脹を評価し,圧刺激鎮痛効果測定装置(Randall-Selitto)を用いて膝関節の圧痛閾値を評価した。また,足底の痛覚閾値は15gのvon Frey filament(VFF)を用いて足底部に機械刺激を10回加えた際の逃避反応の出現回数を測定することで評価した。統計処理には,一元配置分散分析を適用し,有意差を認めた場合にはTukey-Kramer法により事後検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に基づき実施した。
【結果】膝関節の横径は3群とも起炎剤投与1日目をピークに増加し,2週目以降は変化を認めず,実験期間を通して3群間に有意差を認めなかった。次に,膝関節の圧痛閾値は,3群とも起炎剤投与1日目をピークに低下し,対照群では2週目以降は起炎剤投与前と同程度まで回復したが,不動群は2週目から8週目まで対照群より有意に低下していた。しかし,CPM群は4週目から8週目まで対照群より有意に低下していたが,2・4・5週目では不動群より有意に上昇していた。足底部の痛覚閾値は,3群とも起炎剤投与1日目をピークに低下し,対照群では3週目以降は起炎剤投与前と同程度まで回復したが,不動群は2週目から8週目まで対照群に比べて有意に低下していた。しかし,CPM群では2・3・4・5・8週目において対照群との有意差を認めず,また,2週目から8週目まで不動群より有意に上昇していた。
【考察】膝関節の横径の結果から,起炎剤の投与によって3群とも同程度の関節炎が発症していたと考えられる。関節炎の発症直後から通常飼育を行った対照群では,患部である膝関節の圧痛閾値の低下と遠隔部である足底の痛覚閾値の低下が早期に回復していた。しかし,不動群では膝関節の圧痛閾値の低下のみならず,足底の痛覚閾値の低下が起炎剤投与8週目まで持続しており,これは慢性痛への移行を示唆している。つまり,炎症が惹起されている患部の不動は慢性痛の発生に影響すると推察される。一方,CPM群の膝関節の圧痛閾値の低下と足底の痛覚閾値の低下は不動群より軽度であり,しかも,足底の痛覚閾値は起炎剤投与8週目においても対照群との間に有意差を認めなかった。したがって,不動の過程で実施するCPMは慢性痛の発生を予防する可能性があり,今後はそのメカニズムについて明らかにする予定である。
【理学療法学研究としての意義】本研究の成果は,末梢組織の炎症や組織損傷などによって身体活動が制限されるような状況にあっても,早期から患部に対する運動療法を行うことで慢性痛の発生を予防できる可能性を示しており,本研究は運動器疾患患者に対する理学療法の早期介入効果の一端を示した意義のある理学療法研究と考える。
【方法】実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット26匹を用いた。全てのラットの右膝関節内に起炎剤である3%カオリン・カラゲニン混合液を注入することで関節炎を惹起させた。そして,これらのラットを8週間通常飼育する対照群(n=9)と右後肢を不動化する実験群に振り分け,さらに,実験群は不動化のみの不動群(n=9)と不動化の過程においてCPMを実施するCPM群(n=8)に振り分けた。不動群とCPM群のラットに対しては,起炎剤投1日目から股・膝関節最大伸展位,足関節最大底屈位にてギプス包帯を用いて患肢の不動化を施した。また,CPM群に対しては起炎剤投与2日目から麻酔下にて角速度10°/秒の膝関節屈曲伸展運動を60分間(週5回)実施した。そして,起炎剤投与の前日ならびに1・3・7日目,その後は1週毎に8週目まで右膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに遠隔部である足底の痛覚閾値を評価した。具体的には,ノギスを用いて膝関節の横径を計測することで腫脹を評価し,圧刺激鎮痛効果測定装置(Randall-Selitto)を用いて膝関節の圧痛閾値を評価した。また,足底の痛覚閾値は15gのvon Frey filament(VFF)を用いて足底部に機械刺激を10回加えた際の逃避反応の出現回数を測定することで評価した。統計処理には,一元配置分散分析を適用し,有意差を認めた場合にはTukey-Kramer法により事後検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に基づき実施した。
【結果】膝関節の横径は3群とも起炎剤投与1日目をピークに増加し,2週目以降は変化を認めず,実験期間を通して3群間に有意差を認めなかった。次に,膝関節の圧痛閾値は,3群とも起炎剤投与1日目をピークに低下し,対照群では2週目以降は起炎剤投与前と同程度まで回復したが,不動群は2週目から8週目まで対照群より有意に低下していた。しかし,CPM群は4週目から8週目まで対照群より有意に低下していたが,2・4・5週目では不動群より有意に上昇していた。足底部の痛覚閾値は,3群とも起炎剤投与1日目をピークに低下し,対照群では3週目以降は起炎剤投与前と同程度まで回復したが,不動群は2週目から8週目まで対照群に比べて有意に低下していた。しかし,CPM群では2・3・4・5・8週目において対照群との有意差を認めず,また,2週目から8週目まで不動群より有意に上昇していた。
【考察】膝関節の横径の結果から,起炎剤の投与によって3群とも同程度の関節炎が発症していたと考えられる。関節炎の発症直後から通常飼育を行った対照群では,患部である膝関節の圧痛閾値の低下と遠隔部である足底の痛覚閾値の低下が早期に回復していた。しかし,不動群では膝関節の圧痛閾値の低下のみならず,足底の痛覚閾値の低下が起炎剤投与8週目まで持続しており,これは慢性痛への移行を示唆している。つまり,炎症が惹起されている患部の不動は慢性痛の発生に影響すると推察される。一方,CPM群の膝関節の圧痛閾値の低下と足底の痛覚閾値の低下は不動群より軽度であり,しかも,足底の痛覚閾値は起炎剤投与8週目においても対照群との間に有意差を認めなかった。したがって,不動の過程で実施するCPMは慢性痛の発生を予防する可能性があり,今後はそのメカニズムについて明らかにする予定である。
【理学療法学研究としての意義】本研究の成果は,末梢組織の炎症や組織損傷などによって身体活動が制限されるような状況にあっても,早期から患部に対する運動療法を行うことで慢性痛の発生を予防できる可能性を示しており,本研究は運動器疾患患者に対する理学療法の早期介入効果の一端を示した意義のある理学療法研究と考える。