第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学7

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (基礎)

座長:堀紀代美(金沢大学医薬保健研究域医学系機能解剖学分野)

基礎 ポスター

[1428] ラット膝関節炎モデルに対する前肢を用いた運動が腫脹や痛みにおよぼす影響

青木久実1, 橋爪稚乃2, 本田祐一郎3, 田中美帆4, 中願寺風香4, 寺中香5, 関野有紀3, 中野治郎4, 沖田実3 (1.株式会社麻生飯塚病院, 2.社団法人全国社会保険協会連合会星ヶ丘厚生年金病院, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科リハビリテーション科学講座運動障害リハビリテーション学分野, 4.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科理学・作業療法学講座理学療法学分野, 5.社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部)

Keywords:関節炎, 運動, 鎮痛効果

【目的】
組織損傷から波及する慢性痛の発生メカニズムの一つに,侵害刺激の持続によって起こる中枢性感作があり,加えて,患部の必要以上の安静,すなわち不活動の惹起は慢性痛発生のリスクを高めるとされている。そのため,理学療法としては可及的早期から炎症の緩解をねらった物理療法に加え,運動療法の実践が重要となる。しかし,組織損傷後は患部の痛みやその医学的管理などの影響で患部周辺の積極的な運動は実施できないことが多く,結果,不活動が惹起される。一方,Marissaら(2008)は人工股関節置換術後のプログラムとして通常の下肢運動プログラムに上肢エルゴメータ訓練を加えると,単に下肢運動プログラムのみを行うよりも術側下肢の運動機能改善に効果的であったと報告している。つまり,この報告を参考にすれば,患部以外を使用した運動でも鎮痛効果が得られる可能性があるが,この点に関してはこれまで検証されていない。そこで,本研究ではラット膝関節炎モデルを用い,その発生直後から前肢を用いた運動を負荷し,腫脹や痛みにおよぼす影響を検討した。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット24匹を用い,これらを実験群(n=16)と対照群(n=8)に振り分け,実験群に対しては右側膝関節に起炎剤である3%カラゲニン・カオリン混合液を注入することで関節炎を惹起させ,あわせて患部の自発運動を制限する目的で,膝関節を伸展位の状態でギプス固定した。次に,実験群を前肢運動を負荷する運動群(n=8)と負荷しない非運動群(n=8)に分け,運動群のラットは小動物用トレッドミルに設置した台上に体幹部を固定し,手掌面がその歩行路に接地するよう調整した。そして,20 m/分の速度で歩行路を稼働させ,これを前肢のみで追従させることで運動を負荷した。この前肢運動の実施時間は20分/回とし,20分の休息をはさみ3セット実施し,これを6回/週,延べ4週間実施した。次に,各群に対しては実験開始前と起炎剤投与後1日目ならびに1,2,3,4週目に患部である右膝関節の横径を測定することで腫脹の程度を評価し,あわせてプッシュプルゲージを用いて圧痛閾値を評価した。また,遠隔部にあたる足背の痛覚閾値を評価するため,15gのVon Frey Filamentで同部位を10回刺激し,その際の痛み反応の出現頻度を測定した。
【倫理的配慮】
本研究は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。
【結果】
腫脹に関しては,運動群,非運動群とも起炎剤投与後1日目をピークに4週目まで対照群より有意に増加しており,各評価期間とも運動群と非運動群で有意差を認めなかった。また,患部の圧痛閾値に関しても運動群,非運動群は起炎剤投与後1日目をピークに4週目まで対照群より有意に減少していた。しかし,運動群と非運動群を比較すると2週目以降で有意差を認め,運動群が高値を示した。次に,足背の痛み反応の出現頻度に関しては,運動群,非運動群とも起炎剤投与後1日目以降,対照群より有意に増加していたが,運動群と非運動群を比較すると4週目で有意差を認め,運動群が低値を示した。
【考察】
起炎剤投与後1日目における腫脹と圧痛閾値の結果から,運動群と非運動群は同程度の炎症症状が発生していたと推測でき,この影響によって中枢性感作が惹起され,遠隔部にあたる足背に痛覚閾値の低下が生じたのではないかと考えられる。一方,その後の経過を見ると,腫脹に関しては運動群と非運動群で有意差を認めないものの,圧痛閾値に関しては運動群が非運動群より有意に上昇しており,足背の痛覚閾値に関しても起炎剤投与後4週目においては運動群が非運動群より有意に上昇していた。つまり,これらの結果は患部以外を使用した運動でも患部に鎮痛効果を認め,この影響で中枢性感作が抑制され,患部から離れた部位の痛み,すなわち慢性痛の発生を軽減できることを示唆している。そして,このメカニズムに関しては,先行研究で報告されている運動による下行性疼痛抑制系の賦活化が影響していると推測されるが,今回の結果ではその詳細は不明である。ただ,組織損傷後や運動器外科術後など,患部の積極的な運動が実施できない時期においても患部以外を使用した運動は疼痛マネジメント戦略として有効である可能性を秘めており,そのメカニズムの解明に加え,臨床での検証が今後必要と思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はラット膝関節炎モデルを用い,患部以外を使用した運動でも鎮痛効果が得られるかを検討したもので,その成果は運動器系疾患の急性期における疼痛マネジメント戦略を考える上で重要な基礎データを示しており,理学療法学研究として意義あるものと考える。