[1429] 不動期間中のラット温水内自由運動は疼痛発生を抑制できるか
Keywords:不動化, 温水内自由運動, 疼痛
【はじめに,目的】
臨床では組織損傷がないにもかかわらず痛みが持続する慢性痛患者に対して理学療法を行うことは少なくない。このような慢性痛は,ギプスや装具での固定,麻痺などによって不動化されることで末梢からの様々な刺激入力が減少することが影響していると言われている。さまざまな不動化に対する研究がなされている中,我々の研究室ではラット足関節の不動期間中にトレッドミル走を行うことで皮膚痛覚閾値が低下し,逆に痛覚過敏を助長したことや,不動期間中に自由運動を行うことで疼痛閾値の低下が有意に抑えられたことを報告している。
また,Nishigamiらは不動化による疼痛には,後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)で痛みの情報伝達に関与するカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)の分布が大型細胞に偏移すると報告しているが,我々も同様の結果を得ている。また,不動期間中に自由運動を行った場合CGRPの分布の偏移が生じないことを報告している。さらに,後肢懸垂によって廃用性筋萎縮が生じた筋では毛細血管数が減少したという報告もあり,不動化に伴う疼痛発生の要因に末梢循環が関係している可能性が考えられる。
しかし,不動期間中の運動療法に温熱療法を組み合わせ,疼痛発生と末梢循環,DRGにおけるCGRP含有細胞との関係性を明らかにした研究は未だない。よって我々は不動期間中の温水内自由運動が不動化によって生じる痛覚過敏やCGRP含有細胞分布および筋毛細血管数に及ぼす影響について検討した。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラット11匹で,温水内自由運動を行わせずギプス固定も行わない肢(CC群5匹5肢),温水内自由運動を行わせずギプス固定を行う肢(CF群5匹5肢),温水内自由運動を行わせギプス固定を行わない肢(HC群6匹6肢),温水内自由運動を行わせギプス固定を行う肢(HF群6匹6肢)に振り分けた。飼育室の照明は,12時間ごとに明暗をコントロールし,室温は一定条件下(23±1℃)とした。また,餌と水は自由に摂取させた。CF群,HF群は非伸縮性テープを用い足関節底屈位で足趾基部から膝関節まで巻き,その上にギプスを巻いて固定した。固定期間は4週間とした。HC群は固定期間中の週5日,1回20分間の温水内自由運動時間を設け,ギプスを除去して自由運動させた。飼育期間中,足底にvon Frey filament(VFH)刺激を行い逃避反応から皮膚痛覚閾値を,圧刺激鎮痛効果測定装置を用いて下腿内側部の筋圧痛閾値を測定した。飼育終了時,ヒラメ筋を採取後,潅流固定しL4-6のDRGを取り出した。筋はアルカリフォスファターゼ染色後,Image Jを用いて筋細胞50個あたりの毛細血管数を数えた。DRGはCGRPの免疫染色を行い,染色された神経細胞面積をImage Jで測定し,100µm2ごとの分布を全細胞数に対するCGRP含有細胞割合で示した。皮膚痛覚閾値と筋圧痛閾値,毛細血管数の各群間比較には一元配置分散分析(ANOVA)を用い,Tukeyによる多重比較を行った。皮膚痛覚閾値検査の2群間比較にはMann-WhitneyのU検定を,筋圧痛閾値検査の2群間比較には対応のないt検定を行った。また,各群内での経時的変化はANOVAの反復測定を用いた。CGRP含有細胞面積分布はShapiro -Wilk検定を用い,等分散性を検討した。全ての統計手法の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属大学の動物実験委員会の承認を受けて行った。
【結果】
0週を100とした皮膚痛覚閾値率は,4週目ではHC群105.1±10.61%,HF群87.5±18.71%,CC群109.9±18.72%,CF群75.9±5.82%となり,CF群はHC群,CC群に比べ有意に低下を示した(p<0.05)。0週を100とした筋圧痛閾値率は,4週目ではHC群189.4±33.98%,HF群54.2±12.34%,CC群177.2±15.06g,CF群40.3±6.31%となり,HC群に比べCF群が有意に低値を示した(p<0.05)。CC群とCF群におけるCGRP含有細胞面積分布は,有意差を認め,CF群が大型細胞方向に偏移した。一方,HC群とHF群では両群の分布に差を認めなかった。毛細血管数はHC群で105.3±4.1個,HF群で109.7±17.9個,CC群で104.6±19.7個,CF群で114.4±16.9個であり,全ての群間に有意差はなかった。
【考察】
温水内自由運動を行うことで経時的に低下する皮膚痛覚・筋圧痛閾値はその低下がある程度抑制され,CGRP含有細胞分布は大型細胞への偏移が生じなかったことから,温水内自由運動が効果的であることが示唆された。ヒラメ筋細胞周囲の毛細血管に不動化の影響はみられなかったが,今後は,血流量や皮膚温などについても検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
不動化によって疼痛が生じるが,温水内で運動させることである程度緩和されることが示され,臨床における水中浴運動の効果の可能性について示せた。
臨床では組織損傷がないにもかかわらず痛みが持続する慢性痛患者に対して理学療法を行うことは少なくない。このような慢性痛は,ギプスや装具での固定,麻痺などによって不動化されることで末梢からの様々な刺激入力が減少することが影響していると言われている。さまざまな不動化に対する研究がなされている中,我々の研究室ではラット足関節の不動期間中にトレッドミル走を行うことで皮膚痛覚閾値が低下し,逆に痛覚過敏を助長したことや,不動期間中に自由運動を行うことで疼痛閾値の低下が有意に抑えられたことを報告している。
また,Nishigamiらは不動化による疼痛には,後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)で痛みの情報伝達に関与するカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)の分布が大型細胞に偏移すると報告しているが,我々も同様の結果を得ている。また,不動期間中に自由運動を行った場合CGRPの分布の偏移が生じないことを報告している。さらに,後肢懸垂によって廃用性筋萎縮が生じた筋では毛細血管数が減少したという報告もあり,不動化に伴う疼痛発生の要因に末梢循環が関係している可能性が考えられる。
しかし,不動期間中の運動療法に温熱療法を組み合わせ,疼痛発生と末梢循環,DRGにおけるCGRP含有細胞との関係性を明らかにした研究は未だない。よって我々は不動期間中の温水内自由運動が不動化によって生じる痛覚過敏やCGRP含有細胞分布および筋毛細血管数に及ぼす影響について検討した。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラット11匹で,温水内自由運動を行わせずギプス固定も行わない肢(CC群5匹5肢),温水内自由運動を行わせずギプス固定を行う肢(CF群5匹5肢),温水内自由運動を行わせギプス固定を行わない肢(HC群6匹6肢),温水内自由運動を行わせギプス固定を行う肢(HF群6匹6肢)に振り分けた。飼育室の照明は,12時間ごとに明暗をコントロールし,室温は一定条件下(23±1℃)とした。また,餌と水は自由に摂取させた。CF群,HF群は非伸縮性テープを用い足関節底屈位で足趾基部から膝関節まで巻き,その上にギプスを巻いて固定した。固定期間は4週間とした。HC群は固定期間中の週5日,1回20分間の温水内自由運動時間を設け,ギプスを除去して自由運動させた。飼育期間中,足底にvon Frey filament(VFH)刺激を行い逃避反応から皮膚痛覚閾値を,圧刺激鎮痛効果測定装置を用いて下腿内側部の筋圧痛閾値を測定した。飼育終了時,ヒラメ筋を採取後,潅流固定しL4-6のDRGを取り出した。筋はアルカリフォスファターゼ染色後,Image Jを用いて筋細胞50個あたりの毛細血管数を数えた。DRGはCGRPの免疫染色を行い,染色された神経細胞面積をImage Jで測定し,100µm2ごとの分布を全細胞数に対するCGRP含有細胞割合で示した。皮膚痛覚閾値と筋圧痛閾値,毛細血管数の各群間比較には一元配置分散分析(ANOVA)を用い,Tukeyによる多重比較を行った。皮膚痛覚閾値検査の2群間比較にはMann-WhitneyのU検定を,筋圧痛閾値検査の2群間比較には対応のないt検定を行った。また,各群内での経時的変化はANOVAの反復測定を用いた。CGRP含有細胞面積分布はShapiro -Wilk検定を用い,等分散性を検討した。全ての統計手法の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属大学の動物実験委員会の承認を受けて行った。
【結果】
0週を100とした皮膚痛覚閾値率は,4週目ではHC群105.1±10.61%,HF群87.5±18.71%,CC群109.9±18.72%,CF群75.9±5.82%となり,CF群はHC群,CC群に比べ有意に低下を示した(p<0.05)。0週を100とした筋圧痛閾値率は,4週目ではHC群189.4±33.98%,HF群54.2±12.34%,CC群177.2±15.06g,CF群40.3±6.31%となり,HC群に比べCF群が有意に低値を示した(p<0.05)。CC群とCF群におけるCGRP含有細胞面積分布は,有意差を認め,CF群が大型細胞方向に偏移した。一方,HC群とHF群では両群の分布に差を認めなかった。毛細血管数はHC群で105.3±4.1個,HF群で109.7±17.9個,CC群で104.6±19.7個,CF群で114.4±16.9個であり,全ての群間に有意差はなかった。
【考察】
温水内自由運動を行うことで経時的に低下する皮膚痛覚・筋圧痛閾値はその低下がある程度抑制され,CGRP含有細胞分布は大型細胞への偏移が生じなかったことから,温水内自由運動が効果的であることが示唆された。ヒラメ筋細胞周囲の毛細血管に不動化の影響はみられなかったが,今後は,血流量や皮膚温などについても検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
不動化によって疼痛が生じるが,温水内で運動させることである程度緩和されることが示され,臨床における水中浴運動の効果の可能性について示せた。