[1430] 温熱刺激がラット後肢の他動運動時に発生する深部感覚に及ぼす影響
Keywords:温熱刺激, 感覚入力, in vivo
【はじめに,目的】
臨床では,疼痛緩和などを目的に温熱療法がよく使用されており,生理学的影響として軟部組織粘弾性の増加や感覚神経伝導速度上昇,血管拡張による代謝や血液動態の変化に関してはすでに明らかである。しかし,温熱療法の神経・筋に対する影響については,筋緊張が低下し筋紡錘の発火頻度を低下させると考えられているが機序などは明確でない。また,温熱刺激の性質上,その神経・筋に対する影響が皮膚温に依存しているのか筋温に依存しているかも曖昧である。
今回,ラットのin vivo標本を用いて他動的な関節運動を入力刺激とし,その際に発生する筋紡錘からの深部感覚入力を観察できる電気生理学と運動力学を融合させた動物実験手技を開発した。そこで本研究では,皮膚温の上昇が,他動運動時の筋紡錘からの深部感覚入力にどのような影響を及ぼしているか解析した。
【方法】
6~7週齢のWistar系ラットを8匹用いた。他動運動時の筋紡錘からの深部感覚入力情報の記録については,足関節他動運動に対応しているL4脊髄後根神経節(DRG)を選択し,微小ガラス電極を刺入させ行う細胞内記録法を用いた。足関節他動運動は,筋伸長の速度依存性の筋紡錘を刺激することを目的とした速い運動と,筋伸長の長さ依存性の筋紡錘を刺激することを目的とした遅い運動の2種を行い,DRGより足関節他動運動時の受容器電位(DRG応答)を記録した。
また,ラット後肢他動運動の分析点座標の収集には,ハイスピードカメラを2台用いて各分析点の3次元座標値を算出した。得られた3次元座標値を用いて足関節角度及び関節角速度を求め,得られたDRG応答と照合した。
温熱刺激は,①温熱刺激以外の触・圧など機械的刺激を除外できること②皮膚で熱変換し熱伝導が起こりにくい乾性熱であること③スポット照射と出力調整が可能であることを考慮し東京医研のスーパーライザーHA-2200を用いた。深部の筋温を上昇させずに皮膚温を上昇させることを目的に予備実験を行い,出力65%(1430mW),照射距離を皮膚から3cm,連続照射の設定で加温プロトコールを決定した。照射範囲については,記録するDRGに対応する領域を含むL4~5領域の下腿後外側面に照射した。
まず,加温前に速い運動と遅い運動のDRG応答を記録した。その後,皮膚を加温し皮膚温が39℃になったところで加温を中止する。加温前より有意に皮膚温が高い2分後と,加温前と有意差のない温度まで下降した5分後のDRG応答を記録した。これらの3つの条件で記録したDRG応答より発火頻度を算出し比較した。統計は反復測定における分散分析を行い,有意差が認められれば多重比較のTukey法にて検定した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の実験は熊本保健科学大学の動物実験委員会の承諾を得て実施した。
【結果】
速い運動では,加温前の発火頻度と比して,加温後2分は有意に増加が認められた(p<0.05)。加温後2分から5分では有意に減少したが(p<0.05),加温前との有意差は認められなかった。
遅い運動では,加温前の発火頻度と比して,加温後2分,加温後5分いずれも有意差は認められなかった。
【考察】
一般的に,温熱療法の神経・筋に対する影響については,筋緊張が低下し筋紡錘の発火頻度を低下させると言われているが,今回の研究では,皮膚温が有意に高い2分後の時点で速い運動において発火頻度が上昇する結果となった。先行文献では,機械刺激や侵害刺激,血圧の変化には影響されず,皮膚温の変化に対し脳幹の主に大縫線核の活性が特異的に上がり発火頻度が上昇すると報告されている。また,末梢からの入力された温熱刺激情報が大縫線核により遠心性に調節される神経機構の存在や,縫線核が動的γニューロン活動に対し促通性の下行性統制が存在することを示唆している報告がある。今回の研究結果は,皮膚への温熱刺激が縫線核の活動性を亢進させ,縫線核より遠心性に動的γニューロンを賦活する事で速い運動の場合に1次終末からの発火頻度が上昇したと考えられる。
また,遅い運動においては,長さ受容のDRG応答に有意な変化が見られない事から,皮膚温の変化が2次終末への影響が少ないこと,温熱刺激が深部まで達しなかったため,筋等の軟部組織の粘弾性の変化が認められなかったことが要因であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究ではin vivo標本を用いて他動運動時の受容器電位の温熱刺激に対する反応を見ることができた。温熱刺激を用いて安定して効果的に深部感覚入力を増加させる事ができれば,神経筋促通効果を高めることに役立つなど,簡便かつ効果的なものとなり得る新たな温熱療法の可能性を示唆する。
臨床では,疼痛緩和などを目的に温熱療法がよく使用されており,生理学的影響として軟部組織粘弾性の増加や感覚神経伝導速度上昇,血管拡張による代謝や血液動態の変化に関してはすでに明らかである。しかし,温熱療法の神経・筋に対する影響については,筋緊張が低下し筋紡錘の発火頻度を低下させると考えられているが機序などは明確でない。また,温熱刺激の性質上,その神経・筋に対する影響が皮膚温に依存しているのか筋温に依存しているかも曖昧である。
今回,ラットのin vivo標本を用いて他動的な関節運動を入力刺激とし,その際に発生する筋紡錘からの深部感覚入力を観察できる電気生理学と運動力学を融合させた動物実験手技を開発した。そこで本研究では,皮膚温の上昇が,他動運動時の筋紡錘からの深部感覚入力にどのような影響を及ぼしているか解析した。
【方法】
6~7週齢のWistar系ラットを8匹用いた。他動運動時の筋紡錘からの深部感覚入力情報の記録については,足関節他動運動に対応しているL4脊髄後根神経節(DRG)を選択し,微小ガラス電極を刺入させ行う細胞内記録法を用いた。足関節他動運動は,筋伸長の速度依存性の筋紡錘を刺激することを目的とした速い運動と,筋伸長の長さ依存性の筋紡錘を刺激することを目的とした遅い運動の2種を行い,DRGより足関節他動運動時の受容器電位(DRG応答)を記録した。
また,ラット後肢他動運動の分析点座標の収集には,ハイスピードカメラを2台用いて各分析点の3次元座標値を算出した。得られた3次元座標値を用いて足関節角度及び関節角速度を求め,得られたDRG応答と照合した。
温熱刺激は,①温熱刺激以外の触・圧など機械的刺激を除外できること②皮膚で熱変換し熱伝導が起こりにくい乾性熱であること③スポット照射と出力調整が可能であることを考慮し東京医研のスーパーライザーHA-2200を用いた。深部の筋温を上昇させずに皮膚温を上昇させることを目的に予備実験を行い,出力65%(1430mW),照射距離を皮膚から3cm,連続照射の設定で加温プロトコールを決定した。照射範囲については,記録するDRGに対応する領域を含むL4~5領域の下腿後外側面に照射した。
まず,加温前に速い運動と遅い運動のDRG応答を記録した。その後,皮膚を加温し皮膚温が39℃になったところで加温を中止する。加温前より有意に皮膚温が高い2分後と,加温前と有意差のない温度まで下降した5分後のDRG応答を記録した。これらの3つの条件で記録したDRG応答より発火頻度を算出し比較した。統計は反復測定における分散分析を行い,有意差が認められれば多重比較のTukey法にて検定した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の実験は熊本保健科学大学の動物実験委員会の承諾を得て実施した。
【結果】
速い運動では,加温前の発火頻度と比して,加温後2分は有意に増加が認められた(p<0.05)。加温後2分から5分では有意に減少したが(p<0.05),加温前との有意差は認められなかった。
遅い運動では,加温前の発火頻度と比して,加温後2分,加温後5分いずれも有意差は認められなかった。
【考察】
一般的に,温熱療法の神経・筋に対する影響については,筋緊張が低下し筋紡錘の発火頻度を低下させると言われているが,今回の研究では,皮膚温が有意に高い2分後の時点で速い運動において発火頻度が上昇する結果となった。先行文献では,機械刺激や侵害刺激,血圧の変化には影響されず,皮膚温の変化に対し脳幹の主に大縫線核の活性が特異的に上がり発火頻度が上昇すると報告されている。また,末梢からの入力された温熱刺激情報が大縫線核により遠心性に調節される神経機構の存在や,縫線核が動的γニューロン活動に対し促通性の下行性統制が存在することを示唆している報告がある。今回の研究結果は,皮膚への温熱刺激が縫線核の活動性を亢進させ,縫線核より遠心性に動的γニューロンを賦活する事で速い運動の場合に1次終末からの発火頻度が上昇したと考えられる。
また,遅い運動においては,長さ受容のDRG応答に有意な変化が見られない事から,皮膚温の変化が2次終末への影響が少ないこと,温熱刺激が深部まで達しなかったため,筋等の軟部組織の粘弾性の変化が認められなかったことが要因であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究ではin vivo標本を用いて他動運動時の受容器電位の温熱刺激に対する反応を見ることができた。温熱刺激を用いて安定して効果的に深部感覚入力を増加させる事ができれば,神経筋促通効果を高めることに役立つなど,簡便かつ効果的なものとなり得る新たな温熱療法の可能性を示唆する。