第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学7

2014年6月1日(日) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (基礎)

座長:堀紀代美(金沢大学医薬保健研究域医学系機能解剖学分野)

基礎 ポスター

[1431] 虚血再灌流後の歩行と運動神経伝導速度の変化に関する研究

相原一貴1,4, 小野武也2, 梅井凡子2, 沖貞明2, 積山和加子2, 田坂厚志1, 石倉英樹1,3, 佐藤勇太1, 松本智博3, 大塚彰2, 松下和太郎4 (1.県立広島大学大学院, 2.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 3.医療法人清幸会土肥病院リハビリテーション科, 4.医療法人社団正和会松下クリニック)

キーワード:ターニケット, MCV, 歩行

【はじめに,目的】ターニケットは,整形外科手術にて,無血野の確保や出血量抑制目的で使用されている。しかし,高い駆血圧や長時間の使用により,皮膚・骨格筋・神経・血管の損傷など合併症を引き起こす可能性があり,中でも神経障害には注意すべきだといわれている。臨床における神経障害の発生率は,0.03~7.7%とあまり高くないとの報告があるが,その一方で,駆血後の神経障害に関する症例報告も存在している。また,過去の動物実験では,虚血再灌流後の脱髄変性や異常感覚,伝導ブロックの発生などが報告されている。我々理学療法士は,TKA術など下肢整形外科術後の理学療法場面において,術後早期より起立や歩行を始める。しかし,浮腫や炎症の発生,術創周囲の疼痛などの影響で,歩行獲得に難渋する症例に遭遇することがある。術創が歩行に影響しいているのは明らかである。しかし,一定時間血流を遮断することは,身体にとって非生理的なことである。そのため,虚血再灌流を行ったことで,神経組織になんらかの変化が生じ,歩行に影響している可能性も推測できるが,実際に虚血灌流後の歩行の経時的な変化や,運動神経伝導速度(MCV)との関係を明らかにしたものはない。そこで本研究は,虚血再灌流後の歩行の変化とMCVの関係を明らかにする目的で行った。
【方法】対象は10週齢Wistar系雄ラット6匹(体重365.1±5.2g)である。実験期間は6日間とし,評価は,正常時,駆血直後,駆血後1,2,3,4,5日目の計7回実施した。駆血には人指用ターニケットカフDC1.1.6,加圧装置はラピッドカフインフレータE20,カフインフレータエアソースAG101(D.E.Hokanoson社製,USA)を使用した。駆血は,ペントバルビタールナトリウム(40mg/kgb.wt)麻酔下にて,駆血圧300mmHg,駆血時間90分の設定で実施した。評価項目は,MCV,歩行観察及び,Behavioural test score(以下BTS)である。MCVの測定は,麻酔下にて,針電極をラット右前脛骨筋中央部に刺入し,腓骨頭と坐骨結節の2点を皮膚表面から頻度1Hz,時間0.5msecの強度で刺激し,MCVを算出した。歩行観察は,ラットの自由歩行をビデオカメラで撮影し,異常歩行の有無を確認した。またBTSは,歩行と反射での,足指の伸展・外転の出現の有無を最低1点,5点を完全な機能回復とし,1~5点に分類した。統計学的解析は,Friedman検定を実施し,その結果で有意差を認めた場合,多重比較検定Scheffeを行った。また,MCVとBTSの関係は,Spearmanの順位相関係数を求めた。なお,全ての統計学的解析は,危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,所属大学付属の動物実験施設を使用し,所属大学の研究倫理委員会の承認を受け実施した。(承認番号 第12MA001号)
【結果】MCVの平均と標準偏差は,正常時40.7±3.0 m/s,虚血再灌流直後23.2±3.9 m/s,1日目25.7±3.2 m/s,2日目33.6±2.7 m/sであり,正常時に比べ,虚血再灌流後2日目までMCVの有意な低下が確認された(p<0.05)。また,虚血再灌流によりMCVは有意に低下し,虚血再灌流後3日目以降正常時と同等の値まで回復する傾向がみられた。またBTSもMCVと同様,虚血再灌流直後に有意な低下を示し,時間経過と共に徐々に回復する傾向がみられた。しかし回復の程度は,MCVが虚血再灌流後3日目以降,正常値まで回復したのに対し,BTSは虚血再灌流後5日目でも完全回復しなかった。MCVとBTSの相関係数はr=0.75(p<0.01)であり,正の相関がみられた。歩行観察では,虚血再灌流直後より全ラットで右足部へ十分に荷重出来ない様子がみられ,そのうち1匹では下垂足様の歩行が確認できた。虚血再灌流後1日目以降は,下垂足様の歩行はみられなくなり,時間経過と共に回復する様子が確認できたが,虚血再灌流後5日目時点でも正常歩行まで回復しなかった。
【考察】本研究は,虚血再灌流後の歩行の変化と神経機能の関係を明らかにするために実施した。今回,虚血再灌流後の異常歩行が観察されるのと同時期に,MCVの低下も生じていることが分かった。しかし,MCVが正常に戻った後も,異常歩行は残存し,回復に差が生じていた。過去に虚血再灌流が神経以外の組織の炎症等を引き起こすことはいわれている。これらのことからMCVは,虚血再灌流後2日目までは歩行に影響し,虚血再灌流後3日目以降は,神経以外の筋や皮膚などが歩行に影響している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】術後の整形疾患に対する理学療法を実施するにあたり,術後早期の歩行の変化の要因として,神経機能の低下を考慮する必要性が示唆された。