第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学3

2014年6月1日(日) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (基礎)

座長:河野一郎(九州大学病院リハビリテーション部)

基礎 ポスター

[1434] 歩行速度に依存した各種歩行パラメータの再現性についての検討

今度知夏1, 倉山太一1,2, 飯沼理紗1, 村神瑠美1,2, 近藤国嗣1, 大高洋平1,3 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.千葉大学医学研究院, 3.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

キーワード:低速歩行, 歩行障害, 脳卒中

【はじめに,目的】歩行速度,歩幅,歩行率,などの歩行パラメータは,簡便に実施できる歩行評価として日常的に用いられている。臨床においては歩行障害を有する患者の初期評価や,介入効果を確認するための経時的評価として用いられることが多く,また最近では高齢者の必要介護度の判定基準のひとつとして用いられることもある。それらのパラメータは,個人に於ける再現性が十分に保証されているという仮定の下,しばしば被験者が主観的に選択した“自由歩行速度”によって計測され,1回,もしくは数回計測の平均値によって決定される。しかし自由歩行速度は,特に患者を対象とする場合,極端に遅くなることがある。我々はこれまでに,極端に遅い速度では,健常者においても歩行率と歩幅の比率が通常速度から逸脱することや,筋活動パターンが変化することについて確認しており,そのような低速においては歩行パラメータの再現性が低下する可能性も考えられる。しかしこれまでのところ,極端に遅い速度において,歩行パラメータの再現性を検証した報告は少なく,実際に低速で歩く患者の歩行評価の信頼度についても明らかとなっていない。本研究では健常者を対象として,極低速域における各種歩行パラメータの再現性を明らかにすることを目的に,低速度から高速度まで段階的に速度を変えた条件にて,加速度計を用いた歩行の時間因子解析を行った。
【方法】対象は健常成人12名(男女各6名,平均年齢24.6±2.9歳)とした。課題は極低速,低速,快適速度,高速の4種類の言語的教示に基づく平地歩行とした。計測順は1)快適速度-1,2)高速,3)快適速度-2,4)低速,5)極低速,の順とした。測定は被験者ごとに2施行とし,1試行目を実施後,1~2週間以上を空け2施行目を実施した。計測は室内歩行路にて,歩行開始位置から数えて,6歩目の踵接地から26歩目までに要した距離と時間を計測した。距離はメジャーで計測し(10cm未満を切り捨て),所要時間は両側踵部に装着した加速度計(Trigno,DELSYS社)によって計測した。歩行速度は,歩行路に接地された2カ所の赤外線センサーの通過時間により決定した。得られたデータから歩行速度,歩幅,重複歩距離,立脚・遊脚時間,両脚支持時間,歩行率,歩行比,歩幅変動(一歩ごとの時間差の絶対値の平均)を算出し,その再現性について級内相関係数を信頼性指数として算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理審査委員会の承認を受け,被験者に十分な説明を行い,同意を得られた後に実施した。
【結果】各パラメータの再現性について,各速度に於ける歩行速度,歩幅,左右重複歩距離の級内相関係数は0.90~0.99(最低値~最高値)となった。立脚時間・遊脚時間については極低速:0.81・0.89,低速:0.84・0.80,快適:0.86・0.90,高速:0.69・0.85であった。両脚支持期については極低速:0.76,低速:0.87,快適:0.85,高速:0.74であった。歩行比は極低速:0.84,低速:0.82,快適:0.98,高速:0.96であった。歩行率は極低速:0.97,低速:0.94,快適:0.88,高速:0.83であった。また歩幅変動は極低速0.78,低速0.71,快適0.65,高速0.19であった。各速度に於ける全歩行パラメータの級内相関係数の平均値は,極低速0.88,低速0.82,快適0.89,高速0.81であった。
【考察】級内相関係数における桑原(1993)の分類に基づけば,本研究より得られた極低速,低速における全歩行パラメータについて,その1~2週間後の再現性の信頼度は“0.8以上:good(良好)”,もしくは“0.9以上:great(優秀)”であったことから,結論として低速域においても基本歩行パラメータの再現性は信頼できることが示唆された。低速度では歩行パラメータが通常速度と比較して逸脱することが知られているが,本研究結果はその個人間の再現性は保たれることを初めて示した。全項目の平均値でみると快適歩行が最も級内相関係数が大きく,再測定の信頼度が高かった一方で,極低速の級内相関係数の方が,むしろ高速よりも高い数値となった点は我々の予想と異なった。なお今回の研究は健常者を対象としたものであるため,異常歩行を呈するような疾患を有する患者においても同様に低速域での信頼性が保たれているか,今後明らかにする必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は健常者を対象としてる点において限界があるものの,これまで検討されていない低速域歩行のパラメータ評価について,複数回計測の信頼性を明らかにした点で意義があると考えている。