第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

生体評価学3

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (基礎)

座長:河野一郎(九州大学病院リハビリテーション部)

基礎 ポスター

[1436] 携帯電話操作課題を用いた二重課題歩行テストの絶対信頼性

大西耕平1,2, 下井俊典3, 丸山仁司3 (1.医療法人大那だいなリハビリクリニック, 2.国際医療福祉大学大学院医療福祉研究科保健医療学専攻理学療法学分野, 3.国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:二重課題, 携帯電話操作, 絶対信頼性

【はじめに,目的】
高齢者の転倒要因は数多くあるが,近年では二重課題と転倒の関連が注目されている。この二重課題を用いた転倒リスク評価法としてStops Walking When Talking test(SWWT-test)がある。この方法は歩行中に話かけられて立ち止まってしまう対象者は転倒リスクが高いというものであるが,会話という副次課題の難易度が低いため,自立歩行者を対象とした場合に十分な転倒予測の精度が得られていない。今回は,比較的身体機能の高い高齢者を対象とした場合でも十分な転倒予測の精度を得るために,副次課題として携帯電話操作を用いた方法を考案した。本テストにおいて得られる測定値は,主課題の歩行時間や副次課題の携帯電話操作時間,単一課題からの変化率など複数ある。また,測定値には誤差が含まれており,臨床に用いる際には誤差の種類とその許容範囲を示すことが重要である。級内相関係数(ICC)を用いた相対信頼性の検討方法では測定値に含まれる誤差を偶然誤差のみに限定しているため,誤差の詳細な情報は得られない。そのため,今回は誤差の詳細な情報が得られる絶対信頼性を検討した。本研究の目的は,携帯電話操作課題を用いた二重課題歩行テストの測定値に含まれる誤差の種類とその許容範囲を明らかにし,同テストで最も信頼性の高い測定項目を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常成人50名(年齢24.7±5.4歳,男性23名,女性27名)とし,検査者は同一とした。携帯電話操作課題は被験者に歩行中の着信に対し受信操作を行わせた。測定条件として,携帯電話はストラップにて首からかけた状態で,使用する携帯電話は統一した(富士通株式会社製F-08C)。測定課題は,立位・歩行時の携帯電話操作時間と10m歩行,SWWT-test,携帯電話操作課題における歩行時間とした。16mの直線歩行路を用いその中心10mの歩行時間を,携帯電話操作時間は着信から通話ボタンを押すまでの時間をストップウォッチにて計測した。歩行速度は自由速度,携帯電話操作時間はできるだけ早く行うよう求めた。手順は,立位での携帯電話操作時間を測定した後に,10m歩行を2試行,SWWT-test,携帯電話操作課題の計4試行をランダムに実施した。1回目の測定から1時間以上の休憩を挟み2回目の測定を行った。絶対信頼性の検討にはBland-Altman分析を行った。系統誤差の有無を確認した後に,ICC(1,1),測定の標準誤差(SEM),誤差の許容範囲である最小可検変化量の95%信頼区間(MDC95)を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
いずれの測定項目においても系統誤差は認められなかった。各項目におけるICC,SEM,MDC95の値はそれぞれ以下の通りであった。携帯電話操作課題における携帯電話操作時間:0.22,0.4秒,1.4秒,歩行時間:0.89,0.4秒,1.1秒,歩行時間変化率:0.30,5.2%,14.5%であった。10m歩行では,1回目:0.85,0.4秒,1.1秒,2回目:0.91,0.3秒,0.8秒,SWWT-testにおける歩行時間:0.88,0.4秒,1.0秒,歩行時間変化率:0.34,3.8%,10.4%であった。
【考察】
測定値は真の値と誤差から成り立っている。誤差は大きく偶然誤差と系統誤差に分けられられる。偶然誤差は平均値などからの比較的対称的に生じるばらつきのことで,繰り返しの測定で精度が向上する。対して系統誤差は真の値からの構造的・系統的乖離のことで,繰り返しの測定でも克服されにくく,いずれの検定・推定法も無力である。系統誤差の存在はその評価法の妥当性にも影響する。本研究の結果からいずれの測定項目においても系統誤差は認められなかった。よって,測定値に含まれるのは偶然誤差のみと考えられ,ICCの比較で測定値間の一致度を検討することが可能である。本テストの測定項目の中では,歩行時間のICCが0.89と最も高かった。さらに,歩行時間には0.4秒の測定誤差が含まれ,その許容範囲は1.1秒であり,他の歩行テストとも同等の信頼性を有していることが明らかとなった。先行研究においても,主課題と副次課題の組み合わせは無数にあるが,二重課題歩行テストでは主課題の歩行時間を採用する方が信頼性の高い測定値が得られるといわれている。本研究では,携帯電話操作課題を用いた二重課題歩行テストを考案し,その絶対信頼性を検討した。その結果,測定項目としては同課題における歩行時間を採用することで臨床活用に充分な信頼性が得られること,測定値には0.4秒の測定誤差が含まれることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
本テストの転倒リスク評価としての有用性を明らかにすることで,高齢者の転倒予防の一助になると考えられる。今後は,高齢者を対象に妥当性の検証を行う必要がある。