第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学4

2014年6月1日(日) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (基礎)

座長:富田浩(人間総合科学大学リハビリテーション学科)

基礎 ポスター

[1439] ヒラメ筋と腓腹筋の筋厚値に及ぼす測定肢位の影響

淺井仁, 三秋泰一, 横川正美 (金沢大学医薬保健研究域保健学系)

キーワード:ヒラメ筋, 筋厚, 肢位

【はじめに,目的】
筋厚は筋量におけるディメンジョンの一つを構成する変数であり,座位で測定された下腿三頭筋の筋厚値の増加が底屈筋力値の増加と相関することが報告されている。また,下腿三頭筋の中でもヒラメ筋の筋厚は,歩行などの低強度の運動が可能であれば高齢者でも若年者との大きな違いはない。しかし,長期臥床によってタイプI線維の比率の高い抗重力筋は萎縮しやすいとのことからすると,長期臥床状態にある患者さんではヒラメ筋により強い萎縮が発生する可能性が高い。筋萎縮は筋力値に反映されるが,臥床中でしかもコミュニケーションが困難な患者さんなどでは,筋力測定の信頼性は低い。これに対して筋厚測定は臥位でも容易で,患者さんの随意性も必要ない。それゆえ,経時的にヒラメ筋の筋厚を臥位で測定することにより,信頼性のある筋力測定が困難な患者さんの筋萎縮の評価や予後予測が可能になると思われる。しかし臥位では筋に対する重力の方向が座位とは異なり,筋の形状も異なることにより筋厚値も異なる可能性は否定できない。そこで,本研究の目的は,臥位でのヒラメ筋厚の測定の有効性を検討するために,健常人を対象に下腿三頭筋の筋厚が,測定肢位によってどのような影響を受けるかを明らかにするものである。作業仮説は以下の通りとした:臥位では腓腹筋が最下部にあり重力の影響により形状が変化しやすいため,腓腹筋厚は測定肢位の影響を受けるが,ヒラメ筋は受けない。
【方法】
対象は健常な大学生20名(女性10名,男性10名)であった。右側下腿三頭筋厚の測定肢位は椅子座位と臥位とし,臥位では膝関節3肢位(0°,45°,90°)と足関節2肢位(底・背屈0°,および最大背屈位)を組合せた6肢位とした。なお,それぞれの角度は固定具により定められ,下腿長軸が水平になるようにした。座位は膝関節を90°,下腿長軸を垂直にして,足底を接地させた肢位とした。最初に座位で測定し,次に臥位での測定をランダムな順番で行った。座位での測定の前に,下腿最大周径位の腓腹筋内側頭筋腹中央部にマジックで印を付けた。全測定はこの印に超音波測定装置(日立メディコEUB-405B)のプローブを当てて行われた。測定は各肢位で3回ずつ行われ,ヒラメ筋と腓腹筋の筋厚値を画像上で読み取った。筋毎に3回の平均値を個人の代表値とした。得られたデータから,座位での筋厚値と臥位での6肢位での筋厚値との差は対応のあるt検定を用いて,筋厚値に及ぼす膝関節と足関節の角度の影響については反復測定2元配置分散分析を用いて,それぞれ分析した。検定にはSPSS(ver 19)を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では,ヘルシンキ宣言を遵守し,本学医学倫理審査委員会の承認を得た実施説明書に基づいて,研究の目的,測定方法,安全性についての説明を行い,同意の得られた方を被験者とした
【結果】
ヒラメ筋は,座位での筋厚値(19.7±4.0mm)と臥位での6肢位で得られたそれぞれの筋厚値とは,ほぼ同じであり,いずれも有意差は認められなかった(t値:0.15から1.27)。これに対して,腓腹筋は,座位での筋厚値(19.8±2.2mm)と,臥位での6肢位で得られたそれぞれの筋厚値とを比べると,いずれも臥位での値が大きく,座位での値との間に有意差が認められた(t値:2.96から4.76)。ヒラメ筋厚値,および腓腹筋厚値ともに膝関節と足関節の角度の違いによる有意な影響は認められなかった(F値:0.07から0.36)。
【考察】
今回の結果により作業仮説が支持された。すなわち,腓腹筋厚は臥位で重力の影響を受けたが,ヒラメ筋は受けないことが明らかとなった。それゆえ,ヒラメ筋の筋厚は臥位で測定した値であっても座位で測定した値と同等に扱える可能性が高いことが示唆された。このことは,比較的長期の測定により,身体活動の様相とヒラメ筋萎縮との関係を検討できることにつながる。また,長期臥床状態から離床することの可否についての判断基準が定められるかもしれない。今回は,足関節の底屈位条件を設定していないので,今後は底屈位条件での測定を行うなど,更なる検討をしたい。
【理学療法学研究としての意義】
臥位でヒラメ筋の筋厚を測定することの有効性が示されたことで,座位を保持できない患者さん,コミュニケーションが困難な患者さん等における筋萎縮の評価,および予後予測の精度が高まることが期待できる。また,長期臥床状態からの離床の可否についての基準値が定まるかもしれない。