[1441] 運動中の足部スティフネスの推定
キーワード:スティフネス, 足部アーチ, 機能評価
【はじめに,目的】
身体運動における足部は,床面との接触時の衝撃の吸収,推進力を得るためのプッシュオフなどの複数の機能を果たすために,必要に応じてその特性を変える。力学的には骨・靭帯によるアーチ構造と,足部内在・外在筋の働きのバランスからこの要求に応えており,足部機能性の指標として,静止立位での内側縦アーチ高率がよく用いられている。
しかし,アーチ構造の「機能」状態を知るためには,それが必要とされる動的状態で評価することが望ましい。動的状態での運動器の機能指標の一つとしてスティフネスがある。足部においては,床反力に起因する運動エネルギーを弾性エネルギーに変換し,また開放する機能をあわらすもので,加えられた力とそれによる変位の関数として表現される。
この意味でのスティフネスは,工学的なスティフネスとは異なり,腱・靭帯などの自らスティッフネスを変えることができない組織に加え,収縮によりスティッフネスを変化させることのできる筋肉との2つにより変位・力関数が構成されているため「見かけ上の」スティフネスとして区別される。
近年,アスレチックトレーニンで注目されているストレッチ・ショートニング・サイクルでは,足部を剛体とみなした上で,足関節回りのスティフネスへの貢献から下腿筋とアキレス腱の機能に注目があつまっている。しかし,身体で発生させた運動エネルギーを床面に伝える連鎖の最終段階である足部そのもののスティフネスがパフォーマンスに影響をあたえることは十分に考慮に値するものであり,本研究では,運動課題中の足部スティフネスの推定を目的とした。
【方法】
対象者は,過去に足部機能へ影響をおよぼす可能性のある骨・関節疾患の既往歴のない,健常大学生6名である。運動課題は裸足での爪先接地でかつ前方移動を伴わない,いわゆる「もも上げランニング」であり,本研究ではさらにメトロノームによる3種類の異なるリズムを用いた。床反力計により,運動課題中の右足接地にともなう床反力が計測された。
骨盤・下腿・足部の運動学的データは,ランドマークに貼付された光反射マーカーの動きを3次元動作解析装置で捕捉することにより得た。足部については,静止立位時に同一水平面上に一致するように貼付した第一中足骨頭,第五中足骨頭,踵骨後面の三つのマーカーで足底面を規定した。
舟状骨結節上の皮膚に貼付された足部第四のマーカーをもちいて,運動課題中の足底面と舟状骨間の距離の変化を求めた。床反力の足底面法線成分を従属変数,足底面―舟状骨間距離を独立変数として,定数項を含む単回帰分析をおこない,その係数を足部スティフネスとした。
リズムを要因とする一元配置分散分析により,有意水準を5%として,足部スティフネスの平均値の差の検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験のプロトコルは,本学倫理審査委員会により審査を経たものである(No.2401)。ヘルシンキ宣言にもとづき,研究参加へのインフォームドコンセントを書面によって得た後に実施された。
【結果】
単回帰分析の決定係数はすべて0.9以上の高い値を示した。足底面法線方向への床反力の負荷が最大となるのは,足底面が床面に対して約10度の底屈位になった時点であり,足底面-舟状骨距離が最も小さくなる瞬間とほぼ一致していた。
運動課題中の足部スティフネスは,その絶対値において個人間に差があり,またそのレンジは100N/mm台からはじまり,200N/mmに到達する。また,全被験者において「もも上げ」のリズムの上昇とともに,スティフネスは有意に上昇した(p<0.05)。
【考察】
本実験で観察された高い決定係数から,単回帰分析によるスティフネスの推定は,一次近似としては妥当性があると判断できる。
足部への床反力負荷が最大となる踵離床直後では,MP関節の背屈角度が小さく,足底内側縦アーチの挙上に大きな役割を果たすと考えられている足底腱膜のWindlass機構は有効に機能できないため,動的足部機能の維持のための足部外在筋の役割の重要性たかまる。
運動リズムの変化によって,足部スティフネスが変化することは,動的足部機能に対する筋力の貢献をさらに支持するものであり,アスレチックリハビリテーションにおいては,筋肉機能への効果的アプローチにより動的足部機能を回復できる可能性を示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
走る・跳ぶなどを含む運動課題に高いパフォーマンスを要求されるアスリートには,短時間に大きなエネルギーを開放できるパワーが要求され,それに対応できる足部の機能が必要になる。動的足部スティフネスの推定は,ハイパフォーマンスのトレーニング法やスポーツ障害後の機能回復のリハビリテーションの効果判定のツールとして有効であると考える。
身体運動における足部は,床面との接触時の衝撃の吸収,推進力を得るためのプッシュオフなどの複数の機能を果たすために,必要に応じてその特性を変える。力学的には骨・靭帯によるアーチ構造と,足部内在・外在筋の働きのバランスからこの要求に応えており,足部機能性の指標として,静止立位での内側縦アーチ高率がよく用いられている。
しかし,アーチ構造の「機能」状態を知るためには,それが必要とされる動的状態で評価することが望ましい。動的状態での運動器の機能指標の一つとしてスティフネスがある。足部においては,床反力に起因する運動エネルギーを弾性エネルギーに変換し,また開放する機能をあわらすもので,加えられた力とそれによる変位の関数として表現される。
この意味でのスティフネスは,工学的なスティフネスとは異なり,腱・靭帯などの自らスティッフネスを変えることができない組織に加え,収縮によりスティッフネスを変化させることのできる筋肉との2つにより変位・力関数が構成されているため「見かけ上の」スティフネスとして区別される。
近年,アスレチックトレーニンで注目されているストレッチ・ショートニング・サイクルでは,足部を剛体とみなした上で,足関節回りのスティフネスへの貢献から下腿筋とアキレス腱の機能に注目があつまっている。しかし,身体で発生させた運動エネルギーを床面に伝える連鎖の最終段階である足部そのもののスティフネスがパフォーマンスに影響をあたえることは十分に考慮に値するものであり,本研究では,運動課題中の足部スティフネスの推定を目的とした。
【方法】
対象者は,過去に足部機能へ影響をおよぼす可能性のある骨・関節疾患の既往歴のない,健常大学生6名である。運動課題は裸足での爪先接地でかつ前方移動を伴わない,いわゆる「もも上げランニング」であり,本研究ではさらにメトロノームによる3種類の異なるリズムを用いた。床反力計により,運動課題中の右足接地にともなう床反力が計測された。
骨盤・下腿・足部の運動学的データは,ランドマークに貼付された光反射マーカーの動きを3次元動作解析装置で捕捉することにより得た。足部については,静止立位時に同一水平面上に一致するように貼付した第一中足骨頭,第五中足骨頭,踵骨後面の三つのマーカーで足底面を規定した。
舟状骨結節上の皮膚に貼付された足部第四のマーカーをもちいて,運動課題中の足底面と舟状骨間の距離の変化を求めた。床反力の足底面法線成分を従属変数,足底面―舟状骨間距離を独立変数として,定数項を含む単回帰分析をおこない,その係数を足部スティフネスとした。
リズムを要因とする一元配置分散分析により,有意水準を5%として,足部スティフネスの平均値の差の検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験のプロトコルは,本学倫理審査委員会により審査を経たものである(No.2401)。ヘルシンキ宣言にもとづき,研究参加へのインフォームドコンセントを書面によって得た後に実施された。
【結果】
単回帰分析の決定係数はすべて0.9以上の高い値を示した。足底面法線方向への床反力の負荷が最大となるのは,足底面が床面に対して約10度の底屈位になった時点であり,足底面-舟状骨距離が最も小さくなる瞬間とほぼ一致していた。
運動課題中の足部スティフネスは,その絶対値において個人間に差があり,またそのレンジは100N/mm台からはじまり,200N/mmに到達する。また,全被験者において「もも上げ」のリズムの上昇とともに,スティフネスは有意に上昇した(p<0.05)。
【考察】
本実験で観察された高い決定係数から,単回帰分析によるスティフネスの推定は,一次近似としては妥当性があると判断できる。
足部への床反力負荷が最大となる踵離床直後では,MP関節の背屈角度が小さく,足底内側縦アーチの挙上に大きな役割を果たすと考えられている足底腱膜のWindlass機構は有効に機能できないため,動的足部機能の維持のための足部外在筋の役割の重要性たかまる。
運動リズムの変化によって,足部スティフネスが変化することは,動的足部機能に対する筋力の貢献をさらに支持するものであり,アスレチックリハビリテーションにおいては,筋肉機能への効果的アプローチにより動的足部機能を回復できる可能性を示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
走る・跳ぶなどを含む運動課題に高いパフォーマンスを要求されるアスリートには,短時間に大きなエネルギーを開放できるパワーが要求され,それに対応できる足部の機能が必要になる。動的足部スティフネスの推定は,ハイパフォーマンスのトレーニング法やスポーツ障害後の機能回復のリハビリテーションの効果判定のツールとして有効であると考える。