第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

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2014年6月1日(日) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (内部障害)

座長:増田芳之(静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科)

内部障害 ポスター

[1444] 血液腫瘍疾患へのがんリハビリテーションの効果

宮下崇, 岡崎雅樹, 矢部信明 (福井赤十字病院リハビリテーション科)

キーワード:がんリハビリテーション, 血液腫瘍, FIM

【はじめに,目的】
リンパ腫,多発性骨髄腫,白血病などを代表とした造血器腫瘍疾患は,化学療法を長期間施行する例が多い。化学療法では,腎機能障害,心機能障害,間質性肺炎,嘔気・嘔吐,骨髄抑制,末梢神経障害,口内炎,食欲低下などの有害事象が生じ,またそれに伴う疼痛,感染症,栄養障害,睡眠障害が認められるため,倦怠感や全身体力の低下をきたして入院期間が長期化し,身体活動量の低下へと結びつく。長期の闘病に伴うがん患者の身体活動の低下は,治療法選択,生命予後,日常生活動作(以下ADL)能力,生活の質(以下QOL)にもかかわることから,身体機能の維持,改善のためのリハビリテーションが重要である。化学療法前後の血液腫瘍患者への運動療法の効果は,運動耐容能の改善,倦怠感の軽減,QOLの改善等のエビデンスが構築されているが,エルゴメーターやトレッドミルを用いたプロトコルや,実施時間の長い有酸素運動等,設備や環境,対象者の運動能力が整っていないと実施が困難な例が多い。そこで今回は,個別リハビリテーションの実施で血液腫瘍患者のADLにどの程度介入できたかを明らかにするために,当院での治療成績を分析した。
【方法】
2012年9月から2013年9月の期間中,当院血液内科に入院し,造血器腫瘍疾患に対してがん算定でリハビリテーションを行い,期間中にリハビリテーションを終了したものを対象とした。評価は,がん患者の全身状態・機能障害の評価尺度として,Performance Status(以下PS)と,標準的な日常生活動作評価尺度としてFunctional Independence Measure(以下FIM)を用いた。初期評価時,終了時で点数を比較しリハビリテーションの効果を検証した。リハビリテーション終了の理由が死亡の例ではリハビリ実施期間中の最大FIMとの比較でも検討を行った。統計処理は対応のあるt検定を用いて行い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
リハビリテーションの実施にあたり,リハビリテーション実施計画書について説明し実施について同意を得た。ヘルシンキ宣言を尊重し,個人が特定されないように配慮して分析した。
【結果】
対象となる患者数は34例,疾患内訳は,悪性リンパ腫20例,白血病8例,多発性骨髄腫6例,骨髄異形成症候群2例であった。入院の目的は,化学療法24例,放射線治療1例,全身状態悪化4例,検査入院3例,同種骨移植1例であった。初期評価時のがんリハビリテーションの分類は,予防的が6例,回復的が18例,維持的が9例,緩和的が1例であった。リハビリテーションの実施期間は,63.0±60.4日で,最短3日,最長222日であった。リハビリテーション終了の理由は,自宅退院13例,転院3例,ADL自立し終了したが治療のため入院継続3例,死亡15例であった。
PSは開始時2.5±1.2,終了時3.0±1.0(P=0.134)で有意差を認めなかった。
FIMは改善15例,維持4例,悪化15例であった。開始時85.0±25.8点,終了時66.6±44.8点(P<0.05)で,開始時に比べ終了時は有意に低値を示した。全例から死亡例を除いた19例では開始時95.7±19.2点,終了時103.2±20.4点(P<0.05)で有意な改善が認められた。死亡例15例中7例では開始時63.4±33.2点,最大70.6±34.6点(P<0.05)と実施期間中にFIMの改善が有意に認められた。
【考察】
疾患特性として,現疾患の悪化,治療抵抗性,全身状態不良により死亡例が多く,本研究においても34例中15例が該当した。リハビリテーションの実施により開始時,終了時においてPSでは変化がなかったものの,FIMでは死亡例を除いた群に改善が認められた。死亡例でも15例中7例に実施期間中の改善が認められ,亡くなる直前までADLを維持するというがんリハビリテーションの目的に見合った効果を示していると考えられる。また化学療法は長期に渡り,例えば悪性リンパ腫で代表的なR-CHOP療法は約3週間に1度の治療を計8コース行うのが標準であり,全身状態が安定し,自宅での生活,通院ができるADLを再獲得できれば外来治療に移行が可能となる。当院では,化学療法等で低下したADLが自然経過で改善しない場合にリハビリテーションが依頼されることが多い。本研究では自宅退院13例,治療継続3例と,治療によって低下を来たしたADLを,病前に近い状態,あるいは自宅での生活が可能なレベルまで改善することができ,リハビリテーションの効果として獲得すべきADLの改善が得られたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はリハビリテーション関連の報告が少ない血液腫瘍疾患に対するがんリハビリテーションに関するものであり,結果は介入前後のFIMの改善から血液腫瘍疾患へのがんリハビリテーションの効果としてADLの改善を示しており,理学療法研究として意義あるものと考えられた。