第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

その他2

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (内部障害)

座長:増田芳之(静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科)

内部障害 ポスター

[1446] 小児がん治療中に筋力体力低下を呈した患児の理学療法の現状

神谷猛, 馬渡敬介, 嶋亜里佳, 森嶋直人 (豊橋市民病院リハビリテーションセンター)

Keywords:小児がん, 筋力低下, 有害事象

【はじめに,目的】近年小児がんに対する治療成績の向上はめざましく,約70%の小児がん患児に治癒が得られるようになった。小児がん患児は化学療法などの治療や感染予防を目的とした生活範囲の制限により身体的ストレスを受ける。そのため,治療の間に筋力低下・体力低下を引き起こし,理学療法の対象となるが小児がん患児に対する理学療法についての報告は少ない。今回,理学療法依頼のあった小児がん患児の実績をまとめ若干の考察を加え報告する。
【方法】対象は平成24年4月から平成25年3月までに当院に入院となった小児がん患児11名のうち理学療法依頼のあった7名(男児5名女児2名),年齢は2歳から14歳であった。基本情報,治療内容,障害像,理学療法治療内容などについて診療録より後方視的に調査した。また,治療内容の異なる2症例について症例提示する。
【倫理的配慮,説明と同意】小児科受診時あるいは理学療法開始時に匿名性に配慮した上データを記録することを説明し了解を得た。
【結果】対象の内訳は血液疾患3名,芽腫3名,脳腫瘍1名であった。入院期間は中央値190日(118-256日),入院から理学療法開始までの期間は中央値28日(0-154日),理学療法実施期間は中央値92日(33-247日)であった。障害像は全例筋力・体力低下であった。理学療法開始時の歩行機能は独歩可能3名,介助歩行可能3名,歩行不可1名であり,理学療法終了時の歩行機能は全例において独歩可能であった。症例1は6歳にて急性リンパ性白血病を発症した。発症3ヶ月にて同種幹細胞移植術施行され,発症5ヶ月にて廃用性筋萎縮を呈し理学療法依頼となった。移植後は免疫抑制剤以外の治療は行われていない。理学療法開始時は独歩が3-4m可能であったがふらつきあり監視レベルであった。歩行に対して恐怖心あり活動が制限されていた。下肢筋力はMMT4レベル,BI60点,MAT(運動年齢テスト)19であった。下肢筋力練習および歩行や立位バランス練習を中心に週5回の頻度で理学療法を実施した。当初は易疲労性を認めたものの運動制限となる有害事象は認めなかった。理学療法は53日間実施し,独歩は病棟内自立し,下肢筋力はMMT5レベル,BI95点(入浴のみ減点),MAT57と運動機能の改善を認め終了となった。症例2は14歳で脳腫瘍を発症し,化学療法1クール後に筋力低下を主訴に理学療法開始となった。BI80点で独歩可能であったが片脚立位,しゃがみこみは困難であった。理学療法実施期間は192日であり週3回の頻度で体調に合わせた筋力練習を中心に実施した。その間に化学療法3クールと放射線治療が行われ,化学療法毎に嘔気嘔吐および全身倦怠感が強く2週間程度理学療法を行えなかった。理学療法を退院直前まで実施し,BI100点で片脚立位・しゃがみこみが可能になり運動機能改善を認めた。
【考察】小児がんの治療はがん腫により異なるが本調査においての入院期間は190日前後であったように入院期間は長期化する。当院における小児がんに対する理学療法適応基準は,がんや治療により運動機能低下を認める場合としている。そのため,理学療法を開始するタイミングなどについては主治医の判断に委ねられており,入院から理学療法開始までの期間は0-154日と幅広かった。症例提示した2症例を比較すると,症例1は移植を行った後は身体的なストレスとなる治療は行われておらず有害事象は認めなかったため,積極的な運動療法を実施することができ比較的短期間で理学療法終了となった。症例2は化学療法による有害事象を認め,全身状態などに合わせて理学療法内容・頻度を工夫する必要があり,治療の違いにより理学療法の介入方法,頻度を考慮する必要があると考えられた。現状の終了基準は院内ADLが自立すること,入院中に運動機能低下が起こらないことと身体面に着目している。しかし,天野は小児がん患児の診療について身体面だけでなく精神的,社会的発達の途上にあるため医療者はそのことを念頭におき環境を整備する努力が求められるとしている。理学療法も患児にとっては一環境要因であり,今後はそれらもふまえた開始基準,終了基準の設定や理学療法内容の検討が必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】小児がん患児に対する理学療法についての報告は少ないため模索しながら理学療法を実施しているのが現状である。本調査より,開始基準や終了基準,実施頻度など取り組み方に検討が必要と考えられるが,全身状態に合わせた運動,定期的な運動機会を設けることで運動機能低下予防できる可能性があると考えられた。