[1447] 車椅子座位におけるティルト・リクライニングが前額面の剪断力に及ぼす影響
キーワード:車椅子, 剪断力, 前額面
【目的】
高齢者や重度障害者は,寝たきり予防のため車椅子を使用する。しかし,不良姿勢での長時間座位は,体位変換及び除圧動作を出来ない対象にとって,褥瘡発生の危険性を高める。褥瘡は治癒困難な慢性創傷の一つとして位置づけられ,理学療法士は褥瘡予防の観点から,車椅子座位に及ぼす外力に対して介入を行う必要がある。外力とは圧迫力と剪断力を示し,圧に剪断力が加わることで褥瘡発生の危険性を高めるとされている。車椅子機構が殿部圧迫力に及ぼす影響が数多く報告されてきたが,殿部剪断力に及ぼす影響を検討したものは見当たらない。我々は第48回日本理学療法学術大会においてリクライニングおよびティルトが殿部に及ぼす剪断力の影響を示した。しかし,その報告は矢状面からの検討であり,先行研究においても車椅子座位に生じる殿部剪断力に着目した検討は前後方向に焦点を当てている。一方で,Geffenらは車椅子座位における左右方向への骨盤の傾斜は前後方向の傾斜に比較して殿部剪断力への負担が大きいと報告している。ゆえに,臨床現場において車椅子座位における剪断力を軽減するうえで,左右方向においても理解することは重要である。本研究の目的は,車椅子のティルトおよびリクライニング角度の変化が殿部剪断力に及ぼす影響を,前額面方向から検討することとする。
【方法】
対象は神経疾患,骨関節疾患に特記すべき既往がない健常成人12名(23.9±1.8歳,男性6名,女性6名)とした。対象者はティルト・リクライニング機構が備わった車椅子上で3分間の座位保持を行い,測定中に不快を感じても姿勢を変えないように指示した。アームレストは使用せず,両上肢を組んだ状態で保持するように指示した。フットレスト高は,同一検者が被験者の大腿部と座面が水平になる高さに調節した。衣服は,座面とズボンの摩擦を統一するため,全被験者が同じ素材のものを着用した。
測定は,リクライニング0°,10°,20°の3条件,ティルト0°,5°,10°,15°,20°の5条件を組み合わせた計15条件で行った。対象者の疲労の要素を考慮して,各条件はランダムな順序で実施した。殿部に生じる剪断力の測定は,車椅子の座面に設置した可搬型フォースプレート(アニマ株式会社,MG-100)で行い,それぞれ3分間の床反力左右成分の平均値を各対象者の体重で除した値とした。
統計学的解析には,ティルトとリクライニングを2要因とした反復測定二元配置分散分析を使用した。下位検定として各要因について一元配置分散分析を行い,Bonferroni法を用いて多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-21)を受けて実施された。対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
反復測定二元配置分散分析の結果,交互作用および主効果を認めなかった。また下位検定においても条件間に有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究では,車椅子のティルトおよびリクライニング角度が殿部剪断力に及ぼす影響を前額面方向から検討した。その結果,条件間には有意な差は認めなかった。車椅子座位におけるティルトおよびリクライニングは対象者における矢状面を軸とした傾斜機構である。ゆえに,ティルトおよびリクライニングの角度変化は,左右方向への剪断力には影響を及ぼさないと推測する。我々は補足研究として,本研究における床反力前後成分を矢状面方向に生じる剪断力とし,前額面方向の剪断力と矢状面方向の剪断力から合力を算出し,同様の統計処理を実施した。その結果,矢状面方向の剪断力に及ぼす効果を検証した結果と同様の結果が得られ,ティルト5°,10°における前方剪断力の軽減,ティルト15°,20°における後方剪断力の増加が示された。本研究結果より車椅子座位における剪断力の軽減を行う際は,矢状面方向の評価および介入を行うことが重要であるということが定量的に示された。本研究では若年者での測定を行っている。ゆえに,脊柱の側弯や回旋が生じている高齢者や重度障害者に対して,今後検討する必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は健常若年者を対象に車椅子座位に生じる前額面方向の剪断力を検討した結果,角度変化においても有意な差を認めなかった。車椅子角度に介入する際は,矢状面方向の変化に着目することが殿部剪断力の軽減を行う上で重要であることが定量的に示された。
高齢者や重度障害者は,寝たきり予防のため車椅子を使用する。しかし,不良姿勢での長時間座位は,体位変換及び除圧動作を出来ない対象にとって,褥瘡発生の危険性を高める。褥瘡は治癒困難な慢性創傷の一つとして位置づけられ,理学療法士は褥瘡予防の観点から,車椅子座位に及ぼす外力に対して介入を行う必要がある。外力とは圧迫力と剪断力を示し,圧に剪断力が加わることで褥瘡発生の危険性を高めるとされている。車椅子機構が殿部圧迫力に及ぼす影響が数多く報告されてきたが,殿部剪断力に及ぼす影響を検討したものは見当たらない。我々は第48回日本理学療法学術大会においてリクライニングおよびティルトが殿部に及ぼす剪断力の影響を示した。しかし,その報告は矢状面からの検討であり,先行研究においても車椅子座位に生じる殿部剪断力に着目した検討は前後方向に焦点を当てている。一方で,Geffenらは車椅子座位における左右方向への骨盤の傾斜は前後方向の傾斜に比較して殿部剪断力への負担が大きいと報告している。ゆえに,臨床現場において車椅子座位における剪断力を軽減するうえで,左右方向においても理解することは重要である。本研究の目的は,車椅子のティルトおよびリクライニング角度の変化が殿部剪断力に及ぼす影響を,前額面方向から検討することとする。
【方法】
対象は神経疾患,骨関節疾患に特記すべき既往がない健常成人12名(23.9±1.8歳,男性6名,女性6名)とした。対象者はティルト・リクライニング機構が備わった車椅子上で3分間の座位保持を行い,測定中に不快を感じても姿勢を変えないように指示した。アームレストは使用せず,両上肢を組んだ状態で保持するように指示した。フットレスト高は,同一検者が被験者の大腿部と座面が水平になる高さに調節した。衣服は,座面とズボンの摩擦を統一するため,全被験者が同じ素材のものを着用した。
測定は,リクライニング0°,10°,20°の3条件,ティルト0°,5°,10°,15°,20°の5条件を組み合わせた計15条件で行った。対象者の疲労の要素を考慮して,各条件はランダムな順序で実施した。殿部に生じる剪断力の測定は,車椅子の座面に設置した可搬型フォースプレート(アニマ株式会社,MG-100)で行い,それぞれ3分間の床反力左右成分の平均値を各対象者の体重で除した値とした。
統計学的解析には,ティルトとリクライニングを2要因とした反復測定二元配置分散分析を使用した。下位検定として各要因について一元配置分散分析を行い,Bonferroni法を用いて多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-21)を受けて実施された。対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
反復測定二元配置分散分析の結果,交互作用および主効果を認めなかった。また下位検定においても条件間に有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究では,車椅子のティルトおよびリクライニング角度が殿部剪断力に及ぼす影響を前額面方向から検討した。その結果,条件間には有意な差は認めなかった。車椅子座位におけるティルトおよびリクライニングは対象者における矢状面を軸とした傾斜機構である。ゆえに,ティルトおよびリクライニングの角度変化は,左右方向への剪断力には影響を及ぼさないと推測する。我々は補足研究として,本研究における床反力前後成分を矢状面方向に生じる剪断力とし,前額面方向の剪断力と矢状面方向の剪断力から合力を算出し,同様の統計処理を実施した。その結果,矢状面方向の剪断力に及ぼす効果を検証した結果と同様の結果が得られ,ティルト5°,10°における前方剪断力の軽減,ティルト15°,20°における後方剪断力の増加が示された。本研究結果より車椅子座位における剪断力の軽減を行う際は,矢状面方向の評価および介入を行うことが重要であるということが定量的に示された。本研究では若年者での測定を行っている。ゆえに,脊柱の側弯や回旋が生じている高齢者や重度障害者に対して,今後検討する必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は健常若年者を対象に車椅子座位に生じる前額面方向の剪断力を検討した結果,角度変化においても有意な差を認めなかった。車椅子角度に介入する際は,矢状面方向の変化に着目することが殿部剪断力の軽減を行う上で重要であることが定量的に示された。