[1449] 入院患者に対する車いすレンタル・システムの現状とその効果について
Keywords:車いす, 福祉用具, システム
【はじめに】
当センターの入院患者は,若い年齢層の脳卒中患者が多く,在宅復帰を目前にする利用者の移動自立度や体力・耐久力を可級的に向上することは重要な課題である。しかし,施設備品の車いすは調整機能に乏しく,PTや看護師が個々に工夫を凝らしても,座位姿勢が崩れや非対称性が著明など,対処が困難なことが見受けられる。そこで,モジュール型車いすを利用して適切な車いすを供給するとともに,看護師や福祉用具事業者と車いすの適合技術を共有することを目的とした車いすレンタル・システムを試行したので,その現状を報告する。
【システムの紹介】
本システムでは,担当PTが身体機能や車いすの姿勢,駆動能力を評価して,車いすを変更する必要性を判断する。PTは適合評価のポイントや必要な仕様を記入した連絡シートを作成して,レンタル事業の窓口である事業者の協会に送付し,担当事業者の決定後,適合評価(以下,試乗会)の日程を調整する。試乗会は,PTの治療枠を利用してPT・看護師・事業者が同席し,寸法や装備を調整の後,費用は当センターが負担して,入院中にレンタルされる。
【対象および方法】
2012年2月~2013年10月の本システム利用者は21例で,同時期の入院患者で車いすを利用する者の約20%に相当する。内訳は男性17・女性4,平均年齢は51.9歳(28~76歳),診断/障害名は,脳血管障害による片麻痺13・両側片麻痺2・四肢麻痺3,頸髓損傷等による四肢麻痺2,ウィルス性脳炎による四肢麻痺1である。発症から入院まで平均17.4ヶ月を経過し,移動能力は車いす:18(自立13・介助5),歩行と併用:3である。連絡シートおよび本システムの評価チャートから,レンタルが必要と判断した理由,判断や納品までの期間,レンタル後の利用者の変化を抽出するとともに,看護師へのインタビューを実施した。
【倫理的配慮】
調査に際して,当センター倫理審査委員会の承認を得た。
【結果】
レンタルが必要と判断した理由は,対象者の体格によるものが多く,男性では大柄あるいは肥満体型のため車いすが小さい:14,小柄で座面が高い/広い:1,女性では肥満体型で座面が狭い/高い:2であった。また,備品車いすの機能に由来する理由として,姿勢変換機能および体幹をサポートする装備が必要:1,屋外移動のために電動車いすが必要:3であった。
PT開始後平均4.6日でレンタルの適否が判断され,試乗会を経て平均12.0日で納品されていた。試乗会の平均参加者数は,PT:1.2,看護師:0.7,業者:2.1で,約40分の所要時間に1~2台を試乗して調整していた。なお運用を重ねた現在,直近10例では,必要性の判断は平均2.9日,納品まで10.7日,試乗会の所要時間は30分と短縮した。
レンタル後の変化は,21例中,着座姿勢の改善:12,駆動姿勢の改善12,操作・回転性の向上:16,走行速度の向上13で,利用者の感想は,良くなった:16,わからない:2,不明:3で,対象者の多くから,「楽」,「こぎやすい」,「軽くなった」との感想が聞かれた。看護師からは,姿勢が良い,動きやすそう・速くなった,トイレやベッド周りの接近・回転が良くなったと指摘された。姿勢が再現しやすい,申し送りが簡略になったことなどから,本システムは「かなり有効」または「有効」と回答があった。
【考察】
適切な車いすは,姿勢を改善して駆動力の伝達効率を向上する。その結果として,利用者の多くが「楽だ」,「軽くなった」と感じられたことは,十分な適合が得られたことを示唆するものであろう。
システムの運用面では,必要性の判断に要する期間や試乗会の所要時間が短縮していた。これは試乗会を繰り返すなかでPTの適合技術が向上し,事業者に対して評価のポイントを明確に伝えることで協力が得られやすくなったことによるものと思われる。
また,試乗会に看護師が同席するシステムを設けたことで,用具の使用法や姿勢の調整法等を共有することができ,病棟生活における再現性が向上したことが看護業務の効率化に貢献したものと思われ,本システムは好意的に評価されていた。
本システムは,事業者協会を窓口に複数の事業者が参加している。これにより利用可能な車いすの選択肢が広がることはメリットであり,多くの事業者が試乗会に参加することは,技術の伝播を基盤とするPTの公益性という役割を果たすものと考える。
今後は,試乗会から得られた情報を在宅支援者へ伝達する方法の確立が課題である。
【理学療法学研究としての意義】
車いすの適合技術は,利用者の移動自立度を向上させるだけでなく,関連職種への技術伝播と在宅支援者への有用な情報発信源となることが示唆された。
当センターの入院患者は,若い年齢層の脳卒中患者が多く,在宅復帰を目前にする利用者の移動自立度や体力・耐久力を可級的に向上することは重要な課題である。しかし,施設備品の車いすは調整機能に乏しく,PTや看護師が個々に工夫を凝らしても,座位姿勢が崩れや非対称性が著明など,対処が困難なことが見受けられる。そこで,モジュール型車いすを利用して適切な車いすを供給するとともに,看護師や福祉用具事業者と車いすの適合技術を共有することを目的とした車いすレンタル・システムを試行したので,その現状を報告する。
【システムの紹介】
本システムでは,担当PTが身体機能や車いすの姿勢,駆動能力を評価して,車いすを変更する必要性を判断する。PTは適合評価のポイントや必要な仕様を記入した連絡シートを作成して,レンタル事業の窓口である事業者の協会に送付し,担当事業者の決定後,適合評価(以下,試乗会)の日程を調整する。試乗会は,PTの治療枠を利用してPT・看護師・事業者が同席し,寸法や装備を調整の後,費用は当センターが負担して,入院中にレンタルされる。
【対象および方法】
2012年2月~2013年10月の本システム利用者は21例で,同時期の入院患者で車いすを利用する者の約20%に相当する。内訳は男性17・女性4,平均年齢は51.9歳(28~76歳),診断/障害名は,脳血管障害による片麻痺13・両側片麻痺2・四肢麻痺3,頸髓損傷等による四肢麻痺2,ウィルス性脳炎による四肢麻痺1である。発症から入院まで平均17.4ヶ月を経過し,移動能力は車いす:18(自立13・介助5),歩行と併用:3である。連絡シートおよび本システムの評価チャートから,レンタルが必要と判断した理由,判断や納品までの期間,レンタル後の利用者の変化を抽出するとともに,看護師へのインタビューを実施した。
【倫理的配慮】
調査に際して,当センター倫理審査委員会の承認を得た。
【結果】
レンタルが必要と判断した理由は,対象者の体格によるものが多く,男性では大柄あるいは肥満体型のため車いすが小さい:14,小柄で座面が高い/広い:1,女性では肥満体型で座面が狭い/高い:2であった。また,備品車いすの機能に由来する理由として,姿勢変換機能および体幹をサポートする装備が必要:1,屋外移動のために電動車いすが必要:3であった。
PT開始後平均4.6日でレンタルの適否が判断され,試乗会を経て平均12.0日で納品されていた。試乗会の平均参加者数は,PT:1.2,看護師:0.7,業者:2.1で,約40分の所要時間に1~2台を試乗して調整していた。なお運用を重ねた現在,直近10例では,必要性の判断は平均2.9日,納品まで10.7日,試乗会の所要時間は30分と短縮した。
レンタル後の変化は,21例中,着座姿勢の改善:12,駆動姿勢の改善12,操作・回転性の向上:16,走行速度の向上13で,利用者の感想は,良くなった:16,わからない:2,不明:3で,対象者の多くから,「楽」,「こぎやすい」,「軽くなった」との感想が聞かれた。看護師からは,姿勢が良い,動きやすそう・速くなった,トイレやベッド周りの接近・回転が良くなったと指摘された。姿勢が再現しやすい,申し送りが簡略になったことなどから,本システムは「かなり有効」または「有効」と回答があった。
【考察】
適切な車いすは,姿勢を改善して駆動力の伝達効率を向上する。その結果として,利用者の多くが「楽だ」,「軽くなった」と感じられたことは,十分な適合が得られたことを示唆するものであろう。
システムの運用面では,必要性の判断に要する期間や試乗会の所要時間が短縮していた。これは試乗会を繰り返すなかでPTの適合技術が向上し,事業者に対して評価のポイントを明確に伝えることで協力が得られやすくなったことによるものと思われる。
また,試乗会に看護師が同席するシステムを設けたことで,用具の使用法や姿勢の調整法等を共有することができ,病棟生活における再現性が向上したことが看護業務の効率化に貢献したものと思われ,本システムは好意的に評価されていた。
本システムは,事業者協会を窓口に複数の事業者が参加している。これにより利用可能な車いすの選択肢が広がることはメリットであり,多くの事業者が試乗会に参加することは,技術の伝播を基盤とするPTの公益性という役割を果たすものと考える。
今後は,試乗会から得られた情報を在宅支援者へ伝達する方法の確立が課題である。
【理学療法学研究としての意義】
車いすの適合技術は,利用者の移動自立度を向上させるだけでなく,関連職種への技術伝播と在宅支援者への有用な情報発信源となることが示唆された。