第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅11

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:河野伸吾(医療法人渓仁会定山渓病院理学療法科)

生活環境支援 ポスター

[1452] 重度障害者支援施設入所者における身体機能・機能的自立度(FIM)と車いす機能との関連

水野公輔1, 平野篤史1, 大寺亜由美1, 小林亜香里1, 平賀よしみ1, 古澤英明2, 福田倫也2 (1.北里大学東病院リハビリテーション部, 2.北里大学医学部神経内科学)

Keywords:障害者支援施設, 車いす, 機能的自立度評価法(FIM)

【はじめに,目的】
補装具費支給事務取扱指針によると,補装具とは,身体障害者の失われた身体機能を補完又は代替する用具であり,種目別公費負担割合をみると,車いすは義肢装具に次いで多い補装具である。補装具は,医師,理学療法士,補装具業者等との連携を図りながら,身体障害者の身体の状況,性別,年齢,生活環境等の諸条件を考慮して,市町村が支給を行うものとされており,その処方,選定,適合等に理学療法士の専門的な知識・技術が必要とされる。しかし,これまでに,重度障害者支援施設入所者の車いす処方,選定,適合等に関する報告は少ないのが現状であり,我々は,昨年の本学会で,重度障害者支援施設入所者の移動手段,座位保持に介助を要すると,介助者用の車いす機能が多く選定されていることを報告している。本調査では,さらに重度障害者支援施設入所者における身体機能や機能的自立度から,必要となる車いす機能が予測できるか否かを調査し,車いす支給の一助とすることを目的とした。
【方法】
対象は,重度障害者支援施設に入所中の利用者145名のうち,普通型車いすを使用している111名(男性68名,女性43名,平均年齢58.6±12.5歳,平均罹患年数36.3±22.6年,脳性麻痺31名,脊髄損傷4名,脳血管障害後遺症24名,頭部外傷後遺症14名,筋萎縮症側索硬化症2名,その他36名)を対象とした。予め,車いすの機能を調査したうえで,基本属性として,年齢,性別,Body Mass Index,罹患年数の4項目,さらにPTデータとして,関節可動域(ROM),筋緊張(MAS),機能的自立度(FIM)の3項目,計7項目を独立変数に,車いす機能の差異を従属変数とし,尤度比による変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を実施した。なお,車いすの機能は,処方・選定に際して,該当施設で多く検討するものとして,自走型か介助型か,アームサポートが固定か否か,足踏みブレーキが不要か否かの3項目とした。統計処理は,IBM SPSS Statistics(Version 22)にて実施し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,文部科学省から通達された「疫学研究に関する倫理指針」の趣旨に沿い実施した。なお,本研究内容および研究手順は北里大学医学部・病院倫理委員会の観察・疫学研究審査委員会によって承認されたものである。
【結果】
多重ロジスティック回帰分析を行った結果,自走型か介助型に関しては,性別(オッズ比:5.45)とFIMの運動項目(オッズ比:0.69),年齢(オッズ比:0.92)の3項目で有意な独立変数とするモデルが構築された。これは,女性であり,FIMの運動項目の点数や年齢が低いほど,そうでない利用者と比べて,介助型車いすを選択するというものであり,本モデルによる正判別率89.0%であった。また,アームサポートが固定か否かに関しては,罹患年数(オッズ比:0.97)とFIMの運動項目(オッズ比:0.85)の2項目で有意な独立変数とするモデルが構築され,罹患年数,FIMの運動項目の点数が低いほど,そうでない利用者と比べて,固定ではないアームサポートを選択することを示した(正判別率89.0%)。さらに,足踏みブレーキがあるか否かに関しては,FIMの運動項目(オッズ比:0.82)で有意な独立変数とするモデルが構築され,FIMの運動項目の点数が低いほど,そうでない利用者と比べて,足踏みブレーキを選択することを示した(正判別率78.9%)。一方で,体格やROM,MASの程度に関しては,今回調査した車いす機能との関連は示されなかった。
【考察】
今回構築されたモデルにより,重度障害者支援施設に入所している利用者に関しては,機能的自立度や基本属性などにより,求められる車いす機能が,約8割の精度で予測できる可能性が示唆された。平成25年4月より「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が施行され,重度障害者の地域生活支援が整備されるとともに,社会保障費の削減が求められる。補装具費支給事務取扱指針によると,車いすの耐用年数は6年とされ,車いすの処方に際しては,少なくとも6年後の身体機能の予測も考慮したうえで,車いすの機能を過不足なく選定する必要がある。理学療法士として,重度障害者の車いす選定に際しては,介助量や環境面,経済面の負担を軽減することも念頭に置くとともに,身体機能やFIMの予測もしたうえで適正な車いすを選定し,車いす乗車機会の増加,寝かせきりの予防など,生活支援に携わる必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
重度障害者支援施設入所者の身体機能やFIMと車いす機能との関連を調査し,車いすの特徴が明らかとなった。本研究の結果が,重度障害者支援施設入所者における車いす支給の一助になるものと考える。