第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

スポーツ5

2014年6月1日(日) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (運動器)

座長:竹村雅裕(筑波大学体育系)

運動器 ポスター

[1465] Star Excursion Balance Testリーチ時の下肢関節角度,内的モーメントとリーチ距離との関係

谷口翔平1, 山中正紀2, 石田知也1,3, 越野裕太1,4, 江沢侑也1, 生田亮平5, 寒川美奈2, 齊藤展士2, 小林巧2, 遠山晴一2 (1.北海道大学大学院保健科学院, 2.北海道大学大学院保健科学研究院, 3.整形外科北新病院リハビリテーション科, 4.NTT東日本札幌病院リハビリテーションセンター, 5.北海道大学医学部保健学科理学療法学専攻)

キーワード:Star Excursion Balance Test, 三次元動作解析, 評価

【はじめに,目的】
Star Excursion Balance Test(SEBT)は,片脚立位を保ちながら他方の下肢を様々な方向へ向かって最大限リーチを行い,そのリーチ距離により動的姿勢制御能力を測定する方法である。SEBTは高価な装置を使用せず,簡便に動的姿勢制御能力を測定できる方法として臨床的に有用な方法であり,高い信頼性が報告されている。SEBTリーチ距離は慢性足関節不安定症や膝前十字靱帯不全など,様々な下肢外傷に伴う機能低下を反映することが報告されてきた。また,前向き調査によりリーチ距離の減少は下肢外傷発生と関連する事も報告されている。SEBTは様々な下肢外傷に伴う機能低下を検出し,下肢外傷発生を予測する事が示されてきたものの,各リーチ方向の特徴に関しては明らかになっていない。よって本研究の目的はSEBTリーチ距離と関連するリーチ動作時の下肢関節角度,内的モーメントを明らかにする事とした。
【方法】
健常女性14名を対象とした(年齢21.6±0.8歳,身長163.9±9.0cm,体重52.7±6.5kg)。除外基準は過去6カ月間に下肢・体幹の整形外科的な既往を有する者とした。SEBTの計測には赤外線カメラ6台(Motion Analysis社製)と三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis社製,200Hz),床反力計2枚(Kistler社製,1000Hz)を用い,反射マーカーは被験者右下肢の大腿,下腿,母趾などに合計41個貼付した。SEBTは右足での片脚立位を保持させ,左足の足尖であらかじめ定められた方向へ最大限リーチ動作を行う様指示した。リーチ方向は先行研究(Pliskyら,2006)で前向きに下肢外傷発生リスクと関連の認められた3方向(支持脚に対して前方,後内側45°,後外側45°)を採用した。各方向4回ずつの練習を行った後に,各方向の成功3施行を記録した。両側の母趾上マーカー間の距離よりSEBTリーチ距離を算出し,SIMM6.0.2(MusculoGraphics社製)を用いて最大リーチ時の支持脚である右下肢関節角度,内的下肢関節モーメントを算出した。下肢関節角度は各被験者の静的立位時を0°とし,内的下肢関節モーメントは各被験者の体重および身長で除し標準化した。成功3施行の平均値を代表値として解析に用いた。統計学的解析はPearsonの相関係数を用い,SEBTリーチ距離と最大リーチ時の支持脚下肢関節角度,内的モーメントとの相関性を検討した。有意水準はP<0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当大学院倫理委員会の承認を得て行った,対象には事前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などを十分に説明し,その内容について十分に理解を得て,参加に同意した者は同意書に署名し,研究に参加した。
【結果】
前方リーチ距離と,膝関節屈曲角度(R=0.62),股関節内転角度(R=0.68),足関節背屈角度(R=0.65),膝関節伸展モーメント(R=0.77)の間に有意な相関を認めた(すべてP<0.05)。後内側リーチ距離と,股関節屈曲角度(R=0.78),股関節伸展モーメント(R=0.65)の間に有意な相関を認めた(ともにP<0.05)。後外側リーチ距離と膝関節屈曲角度(R=0.57),股関節屈曲角度(R=0.79),股関節伸展,内転モーメント(それぞれR=0.65,0.79),足関節底屈,内反モーメント(それぞれR=0.58,0.65)の間に有意な相関を認めた(すべてP<0.05)。
【考察】
本研究結果より,SEBTリーチ距離と動作時の下肢関節角度,内的下肢関節モーメントとの関連性は方向特異性を有することが示唆された。前方リーチでは内的膝関節伸展モーメントとの間に相関を認め,膝関節伸展筋による制御を用いている可能性が考えられた。後内側および後外側では内的股関節伸展モーメントとの間に相関を認め,後方へのリーチでは股関節伸展筋による制御を用いている可能性が考えられた。また,三方向ともに下肢関節屈曲角度との間に相関を認めたことから低い重心位置での動的姿勢制御がリーチ距離の増大と関連することが示唆された。今後は重心位置や筋活動を含めた解析により,さらに各方向へのリーチの特徴を明らかにすることができると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果はSEBTの各方向リーチ距離の結果を下肢関節運動学,運動力学的に考察する一助となり,SEBTの有用性を高めるものであると考える。よって,本研究は運動器理学療法におけるSEBTを用いた動的姿勢制御の有用性を支持するものである。