[1469] 日本の高齢者におけるメタボリックシンドロームと認知機能との関係
Keywords:高齢者, メタボリックシンドローム, 認知機能
【はじめに,目的】
高齢期に発症する代表的な疾患としてメタボリックシンドロームと認知症が挙げられている。メタボリックシンドロームは過食、運動不足が重なって内臓脂肪が蓄積し、インシュリン抵抗性が起こり、糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧などの構成因子が重積する複合型症候群であり、虚血性心疾患や脳血管障害の主要な危険因子となる。従来の多くの研究では、中高年者におけるメタボリックシンドロームと認知機能低下との関係を示しているが高齢者においては十分なエビデンスが得られていない。特にメタボリックシンドロームのどの因子が認知機能低下と関連があるか、またはメタボリックシンドロームは全般的な認知機能低下に影響を及ぼすのか、あるいは注意、記憶、遂行機能のような認知機能ドメインに特異的に影響を及ぼすのかについては明確にされていない。そこで、本研究では大規模のコホート調査により日本の高齢者におけるメタボリックシンドロームと認知機能との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2011年8月~2012年2月に実施されたObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5104名のうち、心血管疾患および精神疾患を有する443名を除外した4460名を本研究の対象者とし、65~74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者に分類した。メタボリックシンドロームの有無に関してはNational Cholesterol Education Program Third Adult Treatment Panel guidelinesを基準に次の因子のうち、3つ以上に該当する人をメタボリックシンドロームの保有者とし、それ以外の人を非保有者とした(メタボリックシンドローム基準:BMI > 25kg/m2、中性脂肪 > 150 mg/dL、血圧 > 130/ > 85 mmHg,HbA1c > 5.4%)。認知機能テストはタッチパネル式モバイルPCを用いて次の6つの認知機能ドメインを評価した。全般的な認知機能はMMSEを用いて評価し、単語と物語の遅延再生課題とTMT-B,Flanker課題、符号テスト、図形認識課題を用いて記憶、注意、遂行機能、情報処理機能、視空間知覚認知機能それぞれを評価した。統計解析にはメタボリックシンドロームおよびその因子の有無と6つの認知機能ドメインとの関係を重回帰分析によって検討した。また、メタボリックシンドロームと認知機能障害およびうつ症状との間にどのような関係があるのかを検討するために、Petersonの定義による軽度認知障害(MCI)者とうつ症状有症者との関係について多項回帰分析を用いて検討した。うつ症状の有無に関しては、geriatric depression scale-15項目版(GDS-15)を用いて、6点以上の対象者をうつ症状の有症者とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は独立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を得て実施し、対象者には書面と口頭にて研究の目的および主旨を説明し同意を得た。
【結果】
メタボリックシンドロームおよびその因子と認知機能の各ドメインとの関係を前期・後期高齢者で比較した結果、前期高齢者においてFlanker課題の反応時間の遅延は高いBMIと関係を示した(p = 0.003)。前期・後期高齢者において符号テストの低成績と高いBMIとの間に有意な関係が見られた(p = 0.01)。記憶とメタボリックシンドロームとの間にはどのような関係も見られなかった。また、MCIかつうつ症状の有症者は非有症者よりメタボリックシンドロームのリスクが1.5倍高く、その傾向は前期高齢者の方で1.9倍ほどより強い関係を示した。後期高齢者ではそのような傾向は見られなかった。
【考察】
本研究結果では、メタボリックシンドロームの因子の中、肥満と脂質代謝の異常が認知機能低下と関連がある可能性を示し、中高年者だけでなく高齢者、特に後期高齢者においても認知機能低下に肥満と脂質代謝の異常が重要な危険因子であることを示唆した。また、肥満は認知機能のドメインの中でも注意機能と情報処理機能の低下に特異的な影響を及ぼすことを示唆した。さらに、認知機能障害だけでなくうつ症状を有する高齢者とメタボリックシンドロームとの間に関連を示した。本研究からはメタボリックシンドロームとうつ症状と認知機能との間の因果関係については述べられないが、認知症を生活習慣病の一つとして捉え、認知機能低下やうつ病の予防として生活習慣の改善の重要性を示したと考えられる。
【理学療法学としての意義】
本結果は、理学療法の現場において運動療法を含む生活習慣の改善指導に参考となる有効な知見であると考えられる。
高齢期に発症する代表的な疾患としてメタボリックシンドロームと認知症が挙げられている。メタボリックシンドロームは過食、運動不足が重なって内臓脂肪が蓄積し、インシュリン抵抗性が起こり、糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧などの構成因子が重積する複合型症候群であり、虚血性心疾患や脳血管障害の主要な危険因子となる。従来の多くの研究では、中高年者におけるメタボリックシンドロームと認知機能低下との関係を示しているが高齢者においては十分なエビデンスが得られていない。特にメタボリックシンドロームのどの因子が認知機能低下と関連があるか、またはメタボリックシンドロームは全般的な認知機能低下に影響を及ぼすのか、あるいは注意、記憶、遂行機能のような認知機能ドメインに特異的に影響を及ぼすのかについては明確にされていない。そこで、本研究では大規模のコホート調査により日本の高齢者におけるメタボリックシンドロームと認知機能との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2011年8月~2012年2月に実施されたObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5104名のうち、心血管疾患および精神疾患を有する443名を除外した4460名を本研究の対象者とし、65~74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者に分類した。メタボリックシンドロームの有無に関してはNational Cholesterol Education Program Third Adult Treatment Panel guidelinesを基準に次の因子のうち、3つ以上に該当する人をメタボリックシンドロームの保有者とし、それ以外の人を非保有者とした(メタボリックシンドローム基準:BMI > 25kg/m2、中性脂肪 > 150 mg/dL、血圧 > 130/ > 85 mmHg,HbA1c > 5.4%)。認知機能テストはタッチパネル式モバイルPCを用いて次の6つの認知機能ドメインを評価した。全般的な認知機能はMMSEを用いて評価し、単語と物語の遅延再生課題とTMT-B,Flanker課題、符号テスト、図形認識課題を用いて記憶、注意、遂行機能、情報処理機能、視空間知覚認知機能それぞれを評価した。統計解析にはメタボリックシンドロームおよびその因子の有無と6つの認知機能ドメインとの関係を重回帰分析によって検討した。また、メタボリックシンドロームと認知機能障害およびうつ症状との間にどのような関係があるのかを検討するために、Petersonの定義による軽度認知障害(MCI)者とうつ症状有症者との関係について多項回帰分析を用いて検討した。うつ症状の有無に関しては、geriatric depression scale-15項目版(GDS-15)を用いて、6点以上の対象者をうつ症状の有症者とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は独立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を得て実施し、対象者には書面と口頭にて研究の目的および主旨を説明し同意を得た。
【結果】
メタボリックシンドロームおよびその因子と認知機能の各ドメインとの関係を前期・後期高齢者で比較した結果、前期高齢者においてFlanker課題の反応時間の遅延は高いBMIと関係を示した(p = 0.003)。前期・後期高齢者において符号テストの低成績と高いBMIとの間に有意な関係が見られた(p = 0.01)。記憶とメタボリックシンドロームとの間にはどのような関係も見られなかった。また、MCIかつうつ症状の有症者は非有症者よりメタボリックシンドロームのリスクが1.5倍高く、その傾向は前期高齢者の方で1.9倍ほどより強い関係を示した。後期高齢者ではそのような傾向は見られなかった。
【考察】
本研究結果では、メタボリックシンドロームの因子の中、肥満と脂質代謝の異常が認知機能低下と関連がある可能性を示し、中高年者だけでなく高齢者、特に後期高齢者においても認知機能低下に肥満と脂質代謝の異常が重要な危険因子であることを示唆した。また、肥満は認知機能のドメインの中でも注意機能と情報処理機能の低下に特異的な影響を及ぼすことを示唆した。さらに、認知機能障害だけでなくうつ症状を有する高齢者とメタボリックシンドロームとの間に関連を示した。本研究からはメタボリックシンドロームとうつ症状と認知機能との間の因果関係については述べられないが、認知症を生活習慣病の一つとして捉え、認知機能低下やうつ病の予防として生活習慣の改善の重要性を示したと考えられる。
【理学療法学としての意義】
本結果は、理学療法の現場において運動療法を含む生活習慣の改善指導に参考となる有効な知見であると考えられる。