第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習7

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第3会場 (3F 301)

座長:冷水誠(畿央大学健康科学部理学療法学科)

基礎 口述

[1483] 振り向き動作における回旋動作の協調性と足圧中心点の制御

加古誠人, 上村一貴, 高橋秀平, 東口大樹, 内山靖 (名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻)

Keywords:回旋動作, 足圧中心, 姿勢制御

【はじめに,目的】
振り向き動作は,頚部,体幹,骨盤,下肢の協調的な回旋運動が必要で,動的安定性を維持しながら高度な姿勢制御が行われている。高齢者では,歩行時や立位時の回旋動作時に生じる転倒は,全転倒の30%程度と報告されている。また一方では,加齢に伴い筋骨格系の機能低下をきたし,可動域制限が生じるために運動戦略が異なる可能性がある。しかし,高齢者では,同時に筋力や感覚などの機能が低下していため,若年者を対象に,関節の可動性の制約が回旋動作の協調性と姿勢制御にどのような影響を与えるかのモデル的な検証を行うことが必要である。
そこで,本研究では,振り向き動作に着目し,若年健常成人に対して頚部,体幹,股関節のいずれかの関節運動の制約が,回旋動作の協調性と足圧中心点制御にどのような影響を及ぼすのか明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は,健常成人男性25名(年齢23.5±3.1)であった。課題は130°後方への振り向き動作とした。動作開始時の足部の位置は,両踵間を被検者の足長とし,足角を10°に規定し,上肢は腹部の前で組んだ。頭部にレーザーポインタを取り付け,重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダーG-6100)の上に立ち,TVモニターに運動方向を示す矢印を見て,「矢印の方向へできるだけ速く振り向いて,レーザーポインタを後方の視標に当てて下さい」と教示した。条件は1)コントロール条件(以下Con条件),2)頸部制約条件(以下Neck条件),3)体幹制約条件(Trunk条件),4)股関節制約条件(以下Hip条件)の計4条件を行った。関節運動の制約にはオルソカラー,体幹硬性装具,股関節脱臼防止装具を用いた。各条件を10施行,実験条件,運動方向の指示はランダムに行った。
関節角度は,両側の耳垂,肩峰,上後腸骨棘に装着したマーカーを天井に取り付けたカメラで撮影し,頚部,体幹,骨盤の回旋角度,潜時を算出した。足圧中心(以下COP)は,被検者の足長で正規化し,前後左右最大振幅(%),運動開始時から運動終了時の前後左右位置座標の変化量(%)を算出した。統計処理は,対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付順位和検定,二元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設の生命倫理審査委員会の承認を得て,各被検者には口頭にて説明し,書面で同意を得た。
【結果】
可動範囲の変化は,Neck条件とTrunk条件で非制約関節の可動範囲が有意に増加した{Con条件:頚部47.05±7.65,体幹16.56±5.00,骨盤62.09±6.96:Neck条件:頚部9.97±5.98,体幹29.85±7.82,骨盤76.96±6.06,Trunk条件:頚部51.68±9.63,体幹8.15±4.53,骨盤68.34±10.77(°)}。
潜時は,Con条件では頚部,骨盤,体幹の順序であったが,Neck条件では骨盤,体幹,頚部の順序に変化した{Con条件潜時:頚部0.44±0.09,体幹0.66±0.17,骨盤0.50±0.07,Neck条件潜時:頚部0.72±0.21,体幹0.65±0.13,骨盤0.47±0.08(s)}。
COP位置座標は,Con条件に対し,Neck条件,Trunk条件では前方に有意な偏倚を認めた{Cont条件:前後-4.63±4.88,Neck条件:前後0.15±5.48,Trunk条件:前後0.48±4.44(%)}。
COP最大振幅は,Neck条件で前後左右ともに有意な増加を認めた{Cont条件:前後13.93±3.85,左右11.39±4.09,Neck条件:前後15.81±2.76(%),左右14.07±4.00}。
【考察】
本研究のCon条件のCOPの位置座標の変化,各関節の回旋順序は,先行研究と同様の結果であった。関節運動の制約によって,当該関節の動きを代償するために非制約関節の可動範囲が増大することが示された。Neck条件,Trunk条件では,運動終了時のCOP位置座標がCon条件に比べ前方に偏倚し,回旋動作中の前後方向の姿勢制御に変化をもたらしていることが明らかとなった。
Neck条件は,COP最大振幅が前後左右ともに有意な差を認め,Trunk条件はCon条件に対して差を認めなかったことから,Neck条件でより回旋動作時の姿勢制御において不安定性が増大していたといえる。Trunk条件では頚部の可動範囲が増大して代償していたことから,臨床的には頚部の関節運動の制約が最も姿勢制御に影響が大きいものと推察された。
Hip条件では,頚部,体幹には有意な影響はみられなかったが,今回は測定していない下肢の運動で代償している可能性は残されている。
【理学療法学研究としての意義】
関節運動の制約によって振り向き動作時の姿勢制御に与える影響が明らかになり,特に回旋動作における頚部の重要性が示された。今後本研究の健常成人のモデルと,高齢者や有病者との違いを実際に検証することで,振り向き動作の姿勢制御と加齢,疾患の関係性について明らかにし,転倒リスク評価や治療方法の考案につながるものと考えられる。