[1484] 変形性関節症モデルラットに対する緩徐な走行運動は軟骨下骨変化を予防できるのか?
キーワード:変形性関節症, 運動, 軟骨下骨
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(OA)の病変の主体は関節軟骨であるが,加えて軟骨下骨の独立した変化を伴うと認識され,半月板切除後に予後不良でTKAに至った者の多くは軟骨下骨の骨折を伴っていたと報告されている。近年のOAモデル動物を使用した実験では,早期から軟骨下骨の変化が生じることで軟骨変性を助長する現象が明らかとなっている。したがって,早期からの軟骨下骨の変化を抑えることはOAの病態に対する理学療法戦略として重要である。OAモデル動物に対する緩徐なトレッドミル走行は軟骨の変性予防効果があることが報告されているが,軟骨下骨の変化を捉えた研究は存在しない。本研究ではOAを惹起する半月板不安定モデルラットを使用し,早期からの緩徐な走行運動は軟骨変性の予防効果だけでなく,軟骨下骨変化の予防効果もあると仮説を立て,病理組織学的に検証を行った。
【方法】
12週齢の雄性Wistar系ラットに対してOAモデル(内側半月板不安定モデル)を作成した。右膝関節にOA処置を行い,左膝関節に対しては偽手術を行った。作成したOAモデルラットを自然飼育のみ行う群(右膝:OA群,左膝:対照群)と緩徐な歩行を行う群(右膝:OA+運動群,左膝:運動群)の2群に無作為に分類した。運動条件は12m/分,30分/日,5日/週とし,飼育期間は術後1,2,4週間とした(各群n=5)。各飼育期間終了後に安楽死させ,両膝関節を摘出した後,軟骨下骨変化の評価としてmicro-CT撮影を行った。その後作成した組織切片に対して,HE染色による組織形態の観察と免疫組織化学的手法を用いてCol2-3/4c,MMP13,VEGFの発現分布の評価を行った。軟骨変性重症度の評価に関しては,膝関節前額断の内側脛骨軟骨を内側,中央,外側の3領域別に分類し,OARSI scoreを使用して軟骨変性の評価を行った。統計学的解析はstudent t検定及びANOVAを行い,ANOVAで有意差が見られた場合には多重比較としてTukeyの検定を行った。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設動物実験の承認を得て実施した。
【結果】
OA群とOA+運動群の2群間でOARSI scoreを比較すると,1,2週時点では有意差は見られなかったが,4週時点では中央,外側領域においてOA+運動群で有意に軟骨変性重症度が小さかった(中央:4wOA群;16.1±1.5,4wOA+運動群;10.3±3.3,外側:4wOA群;6.6±1.8,4wOA+運動群;3.3±0.7)(P<0.01)。OA群,OA+運動群は1,2,4週のいずれの時点でも対照群,運動群よりも有意に軟骨変性重症度が高かった(P<0.01)。II型コラーゲンの断片化を検出するcol2-3/4cはOA群と比較してOA+運動群で陽性領域が小さかった。micro-CT上で軟骨下骨を観察すると,1週時点からOA群では主荷重部である中央領域に骨欠損が観察され,時間依存的に骨欠損の大きさが増大していったが,OA群とOA+運動群で骨欠損の大きさに明らかな差は認めなかった。HE所見では軟骨変性が重症である領域と骨欠損領域が一致し,骨欠損領域は骨髄中に含まれる血球系の細胞とは異なる線維軟骨様の組織で埋め尽くされており,VEGFやMMP13の陽性所見が確認された。全ての結果に関して,対照群と運動群では明らかな差異を認めなかった(P>0.05)。
【考察】
OAモデルラットに対する緩徐な走行運動は軟骨変性の予防効果は示したが,軟骨下骨の変化を抑性することはできず,仮説は棄却された。軟骨下骨骨折領域の細胞には血管性の因子であるVEGFや軟骨破壊因子であるMMP13の発現が確認されたことから,軟骨の変性は軟骨下骨骨折によって助長されうるが,運動療法が軟骨変性予防効果を示した背景として,軟骨下骨変化以外の軟骨破壊プロセスを抑性したことが考えられる。本研究で用いた運動条件はラットの生理的な歩行速度であり,より高い運動強度を用いた実験では軟骨破壊を促進することを我々は過去に報告したことを踏まえると(Yamaguchi S, Iijima H, et al 2013),軟骨の破壊プロセスを生物学的に抑性するためには運動強度や量に注意を払う必要があることも示された。
【理学療法学研究としての意義】軟骨下骨の骨折は半月板切除後早期から主荷重領域に生じるが,緩徐な走行運動を早期から行っても軟骨下骨の骨折を悪化させることなく軟骨変性を予防する効果があり,OAの進行予防に対して理学療法が有効であることを示唆するものである。
変形性膝関節症(OA)の病変の主体は関節軟骨であるが,加えて軟骨下骨の独立した変化を伴うと認識され,半月板切除後に予後不良でTKAに至った者の多くは軟骨下骨の骨折を伴っていたと報告されている。近年のOAモデル動物を使用した実験では,早期から軟骨下骨の変化が生じることで軟骨変性を助長する現象が明らかとなっている。したがって,早期からの軟骨下骨の変化を抑えることはOAの病態に対する理学療法戦略として重要である。OAモデル動物に対する緩徐なトレッドミル走行は軟骨の変性予防効果があることが報告されているが,軟骨下骨の変化を捉えた研究は存在しない。本研究ではOAを惹起する半月板不安定モデルラットを使用し,早期からの緩徐な走行運動は軟骨変性の予防効果だけでなく,軟骨下骨変化の予防効果もあると仮説を立て,病理組織学的に検証を行った。
【方法】
12週齢の雄性Wistar系ラットに対してOAモデル(内側半月板不安定モデル)を作成した。右膝関節にOA処置を行い,左膝関節に対しては偽手術を行った。作成したOAモデルラットを自然飼育のみ行う群(右膝:OA群,左膝:対照群)と緩徐な歩行を行う群(右膝:OA+運動群,左膝:運動群)の2群に無作為に分類した。運動条件は12m/分,30分/日,5日/週とし,飼育期間は術後1,2,4週間とした(各群n=5)。各飼育期間終了後に安楽死させ,両膝関節を摘出した後,軟骨下骨変化の評価としてmicro-CT撮影を行った。その後作成した組織切片に対して,HE染色による組織形態の観察と免疫組織化学的手法を用いてCol2-3/4c,MMP13,VEGFの発現分布の評価を行った。軟骨変性重症度の評価に関しては,膝関節前額断の内側脛骨軟骨を内側,中央,外側の3領域別に分類し,OARSI scoreを使用して軟骨変性の評価を行った。統計学的解析はstudent t検定及びANOVAを行い,ANOVAで有意差が見られた場合には多重比較としてTukeyの検定を行った。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設動物実験の承認を得て実施した。
【結果】
OA群とOA+運動群の2群間でOARSI scoreを比較すると,1,2週時点では有意差は見られなかったが,4週時点では中央,外側領域においてOA+運動群で有意に軟骨変性重症度が小さかった(中央:4wOA群;16.1±1.5,4wOA+運動群;10.3±3.3,外側:4wOA群;6.6±1.8,4wOA+運動群;3.3±0.7)(P<0.01)。OA群,OA+運動群は1,2,4週のいずれの時点でも対照群,運動群よりも有意に軟骨変性重症度が高かった(P<0.01)。II型コラーゲンの断片化を検出するcol2-3/4cはOA群と比較してOA+運動群で陽性領域が小さかった。micro-CT上で軟骨下骨を観察すると,1週時点からOA群では主荷重部である中央領域に骨欠損が観察され,時間依存的に骨欠損の大きさが増大していったが,OA群とOA+運動群で骨欠損の大きさに明らかな差は認めなかった。HE所見では軟骨変性が重症である領域と骨欠損領域が一致し,骨欠損領域は骨髄中に含まれる血球系の細胞とは異なる線維軟骨様の組織で埋め尽くされており,VEGFやMMP13の陽性所見が確認された。全ての結果に関して,対照群と運動群では明らかな差異を認めなかった(P>0.05)。
【考察】
OAモデルラットに対する緩徐な走行運動は軟骨変性の予防効果は示したが,軟骨下骨の変化を抑性することはできず,仮説は棄却された。軟骨下骨骨折領域の細胞には血管性の因子であるVEGFや軟骨破壊因子であるMMP13の発現が確認されたことから,軟骨の変性は軟骨下骨骨折によって助長されうるが,運動療法が軟骨変性予防効果を示した背景として,軟骨下骨変化以外の軟骨破壊プロセスを抑性したことが考えられる。本研究で用いた運動条件はラットの生理的な歩行速度であり,より高い運動強度を用いた実験では軟骨破壊を促進することを我々は過去に報告したことを踏まえると(Yamaguchi S, Iijima H, et al 2013),軟骨の破壊プロセスを生物学的に抑性するためには運動強度や量に注意を払う必要があることも示された。
【理学療法学研究としての意義】軟骨下骨の骨折は半月板切除後早期から主荷重領域に生じるが,緩徐な走行運動を早期から行っても軟骨下骨の骨折を悪化させることなく軟骨変性を予防する効果があり,OAの進行予防に対して理学療法が有効であることを示唆するものである。