第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

人体構造・機能情報学7

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第4会場 (3F 302)

座長:時田幸之輔(埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 口述

[1485] 関節固定期間中の可動域運動が関節軟骨に与える影響

清川翔仁1,2, 細正博3, 松崎太郎3, 池田亜未4, 酒井翔大5 (1.国立病院機構金沢医療センター, 2.金沢大学大学院保健学専攻, 3.金沢大学医薬保健研究域, 4.金沢赤十字病院, 5.金沢社会保険病院)

Keywords:ラット, 関節軟骨, 病理組織学

【はじめに,目的】
関節拘縮は不動により惹起され,関節固定に伴う拘縮には筋,関節構成体,軟部組織が複合していると考えられる。拘縮に伴う関節構成体の組織学的変化と,これに対する種々の治療による効果については,先行研究により明らかにされつつある。しかし,関節固定期間中に,他動的運動による介入を行った場合についての検討は見当たらない。そこで本研究では創外固定によるラット膝関節拘縮モデルを用い,固定期間中に他動関節可動域運動を行い,治療時間,また治療頻度を変えることで生じる関節軟骨への効果を光学顕微鏡で観察し比較することを目的とした。
【方法】
対象は9週齡のwistar系雄ラット17匹とし,1日2回3分間の運動を行う運動群I(9匹),1日1回6分間の運動を行う運動群II(8匹)とした。固定は,ラットの右膝関節をキルシュナー鋼線と長ネジを用いて120°屈曲位で創外固定し,2週間不動化した。固定の際に,ペントバルビタールナトリウムを5mg/体重100gを腹腔内に注射し,さらにジエチルエーテルにて導入麻酔を行った状態で開始した。左側臥位にし,大腿骨と脛骨の鋼線挿入部に感染予防としてポピドンヨード溶液を塗布した。大腿骨の鋼線は大腿近位から挿入し大腿骨内側まで挿入し,大腿骨を貫通した直後にとどめ,大腿内側まで貫通しないようにした。脛骨の鋼線は下腿外側から挿入し下腿内側まで貫通させた。鋼線は端をひねり周囲の皮膚に外傷を負わせないよう処理した。ラットは自由に移動,摂食,飲水を行える環境設定とした。室温は22℃前後に保ち,照明は12時間ごとに点灯と消灯を繰り返しラットの生体リズムを妨げないようにした。固定した翌日から関節可動域運動を行った。イソフルランで導入麻酔を行い,左側臥位で体幹を固定した後に創外固定の長ネジを取り外した。膝関節屈曲位から完全伸展位まで1Nで伸展し,5秒保持する運動を5秒ごとに繰り返し1日2回3分間,または1日1回6分間ずつ行った。運動後は膝関節120°屈曲位で固定し,ケージへ戻した。この操作を2週間毎日行った。実験期間終了後,ラットをジエチルエーテルで安楽死させた。その後,速やかに右後肢を股関節で離断し採取した。採取した標本を中性緩10%ホルマリン溶液にて組織固定を行った後に脱灰し,股関節の切り出しを行った後に中和,パラフィン包埋を行った。その後,通常手技にてHE染色標本を作製した。観察は光学顕微鏡装置(BX51,OLYMPUS社)により行い,両群を比較し行った。また膝関節伸展角度を測定し,運動群IとIIをT検定(分散が等しくないと仮定した2標本を使った分散の検定)を用いて行った。有意水準は0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属大学の動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】
(1)可動域:運動群Iでは49.8±7.3°,運動群IIでは62.9±17.2°の膝関節伸展制限を認め両群で有意差を認めた(P<0.05)。(2)組織学的変化:運動群Iでは9例中7例において,関節軟骨辺縁部の関節軟骨表層に線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生を認め,それらは滑膜組織と連続していた。運動群IIでは8例中8例において,運動群Iより広範囲の関節軟骨表層に線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生を認め,滑膜組織と連続していた。関節軟骨辺縁部では,増生組織が関節軟骨を置換する像が見られた。また関節軟骨・滑膜と半月板の癒着も見られた。
【考察】
今回得られた結果より,ラットでは両群間に有意差が認められたことから,関節可動域運動は治療時間を延長するより治療頻度を増やした方が膝関節伸展制限を抑制できる可能性が認められた。組織学的変化として両群ともに関節軟骨表層に線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生を認め,運動群IIにおいてはこれらの変化に加え,関節軟骨辺縁部での増生組織による関節軟骨の置換,関節軟骨・滑膜と半月板との癒着が見られた。このことからも治療時間を延長するより治療頻度を増やしたほうが関節構成体の組織学的変化を抑制することができる可能性が認められた。本研究では飼育期間中は固定した後肢は荷重が行われていたことから,今後は荷重による関節栄養の機会を排除した場合の変化を検討する余地があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
早期の不動による関節拘縮に対して治療頻度を増やして介入を行ったほうが関節可動域制限を抑制し,また関節構成体の組織学的変化を抑制することができる可能性が示された。