[1486] 不動に伴う骨格筋の線維化の分子メカニズムの探索
キーワード:筋性拘縮, 線維化, 分子メカニズム
【目的】
骨格筋の変化に由来した拘縮,すなわち筋性拘縮の病態の一つに線維化の発生が指摘されているが,その分子メカニズムは未だ明らかになっていない。そこで,演者らはこの点の探索を試み,これまで以下のような知見を得てきた。具体的には,ラット足関節を最大底屈位で4週間ギプス固定することでヒラメ筋を弛緩位で不動化すると,TGF-β1の発現増加や低酸素状態のマーカーであるHIF-1αの発現増加を認め,これらの変化が線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化を促進し,線維化が発生する可能性を見いだしている。しかし,以上の知見は不動4週後といった横断的な検索結果であり,不動期間の違いが上記の線維化関連因子の動態におよぼす影響は明らかにできていない。加えて,他臓器の線維化の分子メカニズムを検討している先行研究では,線維化の病変部位にマクロファージが増加することでIL-1βの発現が増加し,線維芽細胞におけるTGF-β1産生を亢進させるといわれている。つまり,このような変化が不動化した骨格筋におけるTGF-β1の発現増加にも関与していると推測されるが,この点に関しては報告されていない。そこで,本研究では弛緩位で1,2,4,8,12週間不動化したラットヒラメ筋を検索材料に用い,マクロファージやIL-1βを加えた線維化関連因子の動態を縦断的に検索し,不動に伴う骨格筋の線維化の分子メカニズムの探索を行った。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット50匹を用い,両側足関節を最大底屈位で1,2,4,8,12週間ギプスで不動化する不動群(各5匹,計25匹)と同期間,通常飼育する対照群(各5匹,計25匹)に振り分け,各不動期間終了後は両側ヒラメ筋を採取した。そして,右側試料から凍結横断切片を作製し,一部にはマクロファージのマーカーであるCD-11bならびに筋線維芽細胞のマーカーであるα-SMAに対する免疫組織化学染色を施し,筋線維100本あたりのそれぞれの陽性細胞数を計測した。また,一部にはタイプI・IIIコラーゲンに対する蛍光免疫染色を施し,その発光輝度の画像解析によって筋周膜,筋内膜におけるタイプI・IIIコラーゲンの発現状況を半定量化した。一方,左側試料は分子生物学的検索に供し,IL-1β,TGF-β1,HIF-1α,α-SMA,タイプI・IIIコラーゲンそれぞれのmRNA発現量を定量化した。
【倫理的配慮】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。
【結果】
CD-11b陽性細胞数ならびにIL-1β,TGF-β1のmRNA発現量は各不動期間とも不動群は対照群より有意に高値を示したが,不動期間による有意差は認められなかった。一方,HIF-1αのmRNA発現量は不動4週以降において不動群は対照群より有意に高値を示し,不動期間で比較すると不動4,8,12週は不動1,2週より有意に高値であった。さらに,不動群におけるα-SMAの陽性細胞数とmRNA発現量はいずれも各不動期間において対照群より有意に高値で,不動期間で比較するとα-SMAの陽性細胞数は不動4,8,12週が不動1,2週より有意に高値を示した。加えて,タイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量はいずれも各不動期間において不動群が対照群より有意に高値で,不動期間で比較するとタイプIコラーゲンmRNA発現量のみ不動4,8,12週が不動1,2週より有意に高値を示した。また,タイプI・IIIコラーゲンの発現状況の半定量解析結果では,筋周膜,筋内膜のいずれにおいても各不動期間において不動群が対照群より有意に高値で,不動期間で比較すると筋内膜のタイプIコラーゲンのみ不動4,8,12週が不動1,2週より有意に高値を示した。
【考察】
今回のタイプI・IIIコラーゲンの結果は,ヒラメ筋の線維化が1,2週間という短期の不動で生じ,不動期間が4週間以上におよぶと筋内膜におけるタイプIコラーゲンの増生が加速し,線維化が進行することを示唆している。そして,この分子メカニズムの探索を行った結果,1,2週間という短期の不動でマクロファージが増加し,このことがIL-1βやTGF-β1の発現増加を促すとともに,これらの相互作用によって筋線維芽細胞への分化も促され,線維化の発生につながったと推察される。そして,4週間以上の長期の不動ではヒラメ筋に低酸素状態が惹起され,このこととIL-1βやTGF-β1の発現増加が相互に作用し,筋線維芽細胞への分化もさらに進み,その結果,タイプIコラーゲンの増生が加速し,線維化の進行につながったと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は不動に伴う骨格筋の線維化の分子メカニズムの探索を目的に実施した基礎研究である。そして,この成果は理学療法の治療対象である筋性拘縮の発生・進行のメカニズム解明に寄与するもので,理学療法学研究としても意義深いと考える。
骨格筋の変化に由来した拘縮,すなわち筋性拘縮の病態の一つに線維化の発生が指摘されているが,その分子メカニズムは未だ明らかになっていない。そこで,演者らはこの点の探索を試み,これまで以下のような知見を得てきた。具体的には,ラット足関節を最大底屈位で4週間ギプス固定することでヒラメ筋を弛緩位で不動化すると,TGF-β1の発現増加や低酸素状態のマーカーであるHIF-1αの発現増加を認め,これらの変化が線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化を促進し,線維化が発生する可能性を見いだしている。しかし,以上の知見は不動4週後といった横断的な検索結果であり,不動期間の違いが上記の線維化関連因子の動態におよぼす影響は明らかにできていない。加えて,他臓器の線維化の分子メカニズムを検討している先行研究では,線維化の病変部位にマクロファージが増加することでIL-1βの発現が増加し,線維芽細胞におけるTGF-β1産生を亢進させるといわれている。つまり,このような変化が不動化した骨格筋におけるTGF-β1の発現増加にも関与していると推測されるが,この点に関しては報告されていない。そこで,本研究では弛緩位で1,2,4,8,12週間不動化したラットヒラメ筋を検索材料に用い,マクロファージやIL-1βを加えた線維化関連因子の動態を縦断的に検索し,不動に伴う骨格筋の線維化の分子メカニズムの探索を行った。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット50匹を用い,両側足関節を最大底屈位で1,2,4,8,12週間ギプスで不動化する不動群(各5匹,計25匹)と同期間,通常飼育する対照群(各5匹,計25匹)に振り分け,各不動期間終了後は両側ヒラメ筋を採取した。そして,右側試料から凍結横断切片を作製し,一部にはマクロファージのマーカーであるCD-11bならびに筋線維芽細胞のマーカーであるα-SMAに対する免疫組織化学染色を施し,筋線維100本あたりのそれぞれの陽性細胞数を計測した。また,一部にはタイプI・IIIコラーゲンに対する蛍光免疫染色を施し,その発光輝度の画像解析によって筋周膜,筋内膜におけるタイプI・IIIコラーゲンの発現状況を半定量化した。一方,左側試料は分子生物学的検索に供し,IL-1β,TGF-β1,HIF-1α,α-SMA,タイプI・IIIコラーゲンそれぞれのmRNA発現量を定量化した。
【倫理的配慮】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。
【結果】
CD-11b陽性細胞数ならびにIL-1β,TGF-β1のmRNA発現量は各不動期間とも不動群は対照群より有意に高値を示したが,不動期間による有意差は認められなかった。一方,HIF-1αのmRNA発現量は不動4週以降において不動群は対照群より有意に高値を示し,不動期間で比較すると不動4,8,12週は不動1,2週より有意に高値であった。さらに,不動群におけるα-SMAの陽性細胞数とmRNA発現量はいずれも各不動期間において対照群より有意に高値で,不動期間で比較するとα-SMAの陽性細胞数は不動4,8,12週が不動1,2週より有意に高値を示した。加えて,タイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量はいずれも各不動期間において不動群が対照群より有意に高値で,不動期間で比較するとタイプIコラーゲンmRNA発現量のみ不動4,8,12週が不動1,2週より有意に高値を示した。また,タイプI・IIIコラーゲンの発現状況の半定量解析結果では,筋周膜,筋内膜のいずれにおいても各不動期間において不動群が対照群より有意に高値で,不動期間で比較すると筋内膜のタイプIコラーゲンのみ不動4,8,12週が不動1,2週より有意に高値を示した。
【考察】
今回のタイプI・IIIコラーゲンの結果は,ヒラメ筋の線維化が1,2週間という短期の不動で生じ,不動期間が4週間以上におよぶと筋内膜におけるタイプIコラーゲンの増生が加速し,線維化が進行することを示唆している。そして,この分子メカニズムの探索を行った結果,1,2週間という短期の不動でマクロファージが増加し,このことがIL-1βやTGF-β1の発現増加を促すとともに,これらの相互作用によって筋線維芽細胞への分化も促され,線維化の発生につながったと推察される。そして,4週間以上の長期の不動ではヒラメ筋に低酸素状態が惹起され,このこととIL-1βやTGF-β1の発現増加が相互に作用し,筋線維芽細胞への分化もさらに進み,その結果,タイプIコラーゲンの増生が加速し,線維化の進行につながったと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は不動に伴う骨格筋の線維化の分子メカニズムの探索を目的に実施した基礎研究である。そして,この成果は理学療法の治療対象である筋性拘縮の発生・進行のメカニズム解明に寄与するもので,理学療法学研究としても意義深いと考える。