[1491] 腰痛に対する理学療法実践の筋電図学的根拠となる立位・座位時の屈曲弛緩現象の研究
Keywords:腰痛, 体幹筋, 筋活動
【はじめに】
我々は第48回本学会において立位から体幹屈曲した際に背筋群の筋活動が消失する屈曲弛緩現象を座位で検討し,立位と座位で発生頻度が異なり背筋群の姿勢制御戦略が変化すること,腰痛症者では常時背筋群の筋活動が生じており,この過剰収縮が腰痛要因となっている可能性を報告した。しかし,腰痛は動的状況だけではなく静的な姿勢保持状況での訴えも多い。
本研究の目的は立位と座位での屈曲弛緩現象を,静的に体幹屈曲保持中の屈曲角度の違いで比較検討し,背筋群をリラクゼーションすべき角度,逆に背筋群の筋活動を賦活させ脊柱安定化すべき角度,この両者が立位と座位で異なるかを明確化することである。
【対象と方法】
対象は腰痛既往のない健常成人15名(年齢24.3歳,身長168.9±5.2cm,体重63.0±4.0kg)とした。運動課題は直立した姿勢から,体幹を多段階の屈曲角度にて保持する運動とした。姿勢は立位と座位の2種類とした。筋活動の測定には表面筋電計(TeleMyoG2,Noraxon社製)を用い,胸・腰部脊柱起立筋,多裂筋,大殿筋,大腿二頭筋を導出筋とした。検討するパラメータは最大屈曲角度での筋活動量で正規化し,屈曲角度については傾斜計とゴニオメーターを用いて,肩峰と腸骨稜を結ぶ線と床への垂直線がなす角度を体幹屈曲角度とし,屈曲0から60度位までの10度ずつの多段階屈曲角度を設定した。得られた結果から姿勢の違いと多段階屈曲角度保持での筋活動量の違いを比較検討した。また下肢,体幹の柔軟性の個人差による運動課題の差異を検討するために大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線上と仙骨部にもそれぞれ傾斜計を設置し,立位での股関節の屈曲角と立位と座位での仙骨の傾斜角を各屈曲角度保持時に計測し,各々の変動係数(CV)を算出した。統計処理はR2.8.1を用い,多重比較検定法にて有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
事前に本大学倫理委員会の承認(承認番号25059)を得て,本研究に協力いただく全被験者にはインフォームドコンセントを実施し,研究参加の同意が得られた者のみを被験者とした。ヘルシンキ宣言に則り,十分な配慮を行い,被験者の安全に細心の注意を払い計測を実施した。
【結果】
立位では胸部脊柱起立筋が屈曲50度位,腰部脊柱起立筋が屈曲30度位,多裂筋が屈曲50度位以降で屈曲位保持角度による筋活動量に差を認めなかった。大殿筋は屈曲20度位以降で有意差を認めなかった。大腿二頭筋は屈曲20度位と屈曲30度位で有意差を認めなかったが,屈曲40度位から増加を認めた。座位では胸部・腰部脊柱起立筋が屈曲20度位,多裂筋が屈曲30度位以降で屈曲位保持角度による筋活動量に差を認めなかった。大殿筋は屈曲40度位から増加を認めた。大腿二頭筋は屈曲40度位までは増加を認めたが,屈曲50度位と屈曲60度位で有意差を認めなかった。股関節の屈曲角のCVは5%内,仙骨の傾斜角のCVは5~20%であった。
【考察】
屈曲弛緩現象についてCallaghamらは座位での出現角度が立位の半分の段階と報告している。だがGeisserらが指摘しているように動作速度や屈曲弛緩現象出現の定義など方法によって結果の具体的な数値は不一致となりうる。筋電図以外の知見としては筋圧の検討があり,ある一定の屈曲角度からは筋圧が一定値をとるとされ,脊柱の支持機構が筋系から靱帯系に移行したものとされる。今回,姿勢保持が深屈曲位になるにつれ筋活動は増加するが,ある屈曲角度以降では筋活動量が有意に増加しない結果となった。これは筋圧の報告と同様に筋系から靭帯系へ支持機構が移行した可能性が考えられた。また立位と比較して座位では多裂筋を含めた脊柱起立筋群の筋活動が浅い屈曲角度位保持の段階で既に変化しなかったことは靭帯系への移行が座位ではより早期に行われていた可能性が考えられた。これはCallaghamらの報告を支持するものと思われる。
以上のことから,座位では背筋群をリラクゼーションすべき角度が立位よりは浅く,逆に立位では深屈曲位まで背筋群の筋活動を賦活させて脊柱安定化をはかるべきであることが示唆された。しかし仙骨の傾斜角のCVが20%であったことは,たとえ静的姿勢であっても腰椎骨盤リズムの個人差がある程度存在したと思われる。この点が今後の検討課題である。
【謝辞】
本研究はJSPS科研費25882026の助成をうけたものである。
【理学療法学研究としての意義】
動作速度や動作筋電図計測の限界の影響を受けづらい静的な筋活動での量的指標となりうる本結果は,静的保持により生じうる姿勢性腰痛に対する理学療法手法選択の有益な一指標になりうる。
我々は第48回本学会において立位から体幹屈曲した際に背筋群の筋活動が消失する屈曲弛緩現象を座位で検討し,立位と座位で発生頻度が異なり背筋群の姿勢制御戦略が変化すること,腰痛症者では常時背筋群の筋活動が生じており,この過剰収縮が腰痛要因となっている可能性を報告した。しかし,腰痛は動的状況だけではなく静的な姿勢保持状況での訴えも多い。
本研究の目的は立位と座位での屈曲弛緩現象を,静的に体幹屈曲保持中の屈曲角度の違いで比較検討し,背筋群をリラクゼーションすべき角度,逆に背筋群の筋活動を賦活させ脊柱安定化すべき角度,この両者が立位と座位で異なるかを明確化することである。
【対象と方法】
対象は腰痛既往のない健常成人15名(年齢24.3歳,身長168.9±5.2cm,体重63.0±4.0kg)とした。運動課題は直立した姿勢から,体幹を多段階の屈曲角度にて保持する運動とした。姿勢は立位と座位の2種類とした。筋活動の測定には表面筋電計(TeleMyoG2,Noraxon社製)を用い,胸・腰部脊柱起立筋,多裂筋,大殿筋,大腿二頭筋を導出筋とした。検討するパラメータは最大屈曲角度での筋活動量で正規化し,屈曲角度については傾斜計とゴニオメーターを用いて,肩峰と腸骨稜を結ぶ線と床への垂直線がなす角度を体幹屈曲角度とし,屈曲0から60度位までの10度ずつの多段階屈曲角度を設定した。得られた結果から姿勢の違いと多段階屈曲角度保持での筋活動量の違いを比較検討した。また下肢,体幹の柔軟性の個人差による運動課題の差異を検討するために大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線上と仙骨部にもそれぞれ傾斜計を設置し,立位での股関節の屈曲角と立位と座位での仙骨の傾斜角を各屈曲角度保持時に計測し,各々の変動係数(CV)を算出した。統計処理はR2.8.1を用い,多重比較検定法にて有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
事前に本大学倫理委員会の承認(承認番号25059)を得て,本研究に協力いただく全被験者にはインフォームドコンセントを実施し,研究参加の同意が得られた者のみを被験者とした。ヘルシンキ宣言に則り,十分な配慮を行い,被験者の安全に細心の注意を払い計測を実施した。
【結果】
立位では胸部脊柱起立筋が屈曲50度位,腰部脊柱起立筋が屈曲30度位,多裂筋が屈曲50度位以降で屈曲位保持角度による筋活動量に差を認めなかった。大殿筋は屈曲20度位以降で有意差を認めなかった。大腿二頭筋は屈曲20度位と屈曲30度位で有意差を認めなかったが,屈曲40度位から増加を認めた。座位では胸部・腰部脊柱起立筋が屈曲20度位,多裂筋が屈曲30度位以降で屈曲位保持角度による筋活動量に差を認めなかった。大殿筋は屈曲40度位から増加を認めた。大腿二頭筋は屈曲40度位までは増加を認めたが,屈曲50度位と屈曲60度位で有意差を認めなかった。股関節の屈曲角のCVは5%内,仙骨の傾斜角のCVは5~20%であった。
【考察】
屈曲弛緩現象についてCallaghamらは座位での出現角度が立位の半分の段階と報告している。だがGeisserらが指摘しているように動作速度や屈曲弛緩現象出現の定義など方法によって結果の具体的な数値は不一致となりうる。筋電図以外の知見としては筋圧の検討があり,ある一定の屈曲角度からは筋圧が一定値をとるとされ,脊柱の支持機構が筋系から靱帯系に移行したものとされる。今回,姿勢保持が深屈曲位になるにつれ筋活動は増加するが,ある屈曲角度以降では筋活動量が有意に増加しない結果となった。これは筋圧の報告と同様に筋系から靭帯系へ支持機構が移行した可能性が考えられた。また立位と比較して座位では多裂筋を含めた脊柱起立筋群の筋活動が浅い屈曲角度位保持の段階で既に変化しなかったことは靭帯系への移行が座位ではより早期に行われていた可能性が考えられた。これはCallaghamらの報告を支持するものと思われる。
以上のことから,座位では背筋群をリラクゼーションすべき角度が立位よりは浅く,逆に立位では深屈曲位まで背筋群の筋活動を賦活させて脊柱安定化をはかるべきであることが示唆された。しかし仙骨の傾斜角のCVが20%であったことは,たとえ静的姿勢であっても腰椎骨盤リズムの個人差がある程度存在したと思われる。この点が今後の検討課題である。
【謝辞】
本研究はJSPS科研費25882026の助成をうけたものである。
【理学療法学研究としての意義】
動作速度や動作筋電図計測の限界の影響を受けづらい静的な筋活動での量的指標となりうる本結果は,静的保持により生じうる姿勢性腰痛に対する理学療法手法選択の有益な一指標になりうる。