[1496] 慢性足関節不安定性症例における片脚着地動作時の下肢関節運動パターン
キーワード:足関節機能的不安定性, 足関節捻挫, 三次元動作解析
【はじめに,目的】
足関節内反捻挫は最も一般的なスポーツ損傷であり,後遺症として慢性足関節不安定性(Chronic ankle instability:CAI)を呈することが多く,再発を経験することが多い。これらを予防するためにCAIによる下肢関節動態の変化を解明することは重要である。CAI症例における着地動作時の下肢関節運動の変化が過去に報告されているが,研究の数も少なく一致した見解は得られていない。近年,多くの特性を有する時系列データを少数のパラメータに包括評価することを目的とした主成分分析(PCA)による動作解析が注目されている。PCAは従来の角度最大値などの離散値の解析では考慮できない時系列的特徴の統計学的検討を可能とする。そこで,本研究の目的はPCAを用いCAI症例における片脚着地動作時の下肢関節運動特性を検討することとした。
【方法】
CAI群および健常群の各12例を対象とした。CAIの定義は1)免荷,固定,または破行をもたらした足関節捻挫の既往,2)過去に複数回の足関節捻挫の既往,3)複数回の足関節giving wayの経験,4)Cumberland ankle instability tool(CAIT)のスコアが27点以下,5)主観的な足関節の不安定感の訴え,があることとした。両群ともスポーツ競技活動に定期的に参加していることを条件とした。各被験者の下肢に反射マーカーを貼付し,赤外線カメラ6台と床反力計を用い40cm台からの片脚着地動作を成功3試行記録し,股・膝・足関節の角度をSIMM softwareにより算出した。PCAはMatlabカスタムプログラムを用い,以下の手順で実施した。接地後200ms間を100%に正規化した各角度波形から,72(3試行×24人)×101(100%正規化した波形データ)の行列を作成した。次にこの行列の共分散行列を固有値分解することで固有値と固有ベクトルを抽出し,各関節角度において主成分および主成分得点を算出した。PCAの主な目的は各波形データの変動性に基づいて最も重要な情報を集約することであり,本研究において各主成分は各角度波形の具体的な特徴を示す。また主成分得点は各試行の角度波形が,主成分が示す特徴にどの程度一致した特徴を有するかを説明する。各関節角度における主成分得点を対応のないt検定を用いて群間比較した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には口頭と紙面により説明し,理解を得たうえで本研究への参加に当たり同意書に署名して頂いた。また本研究は,本学倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
2群間で年齢,身長,体重に有意差を認めなかった(CAI群:21.1±0.9歳,172.9±8.2cm,64.6±8.4kg,健常群:20.7±0.5歳,172.1±8.0cm,64.7±9.3kg)。また,各群の男女比は同等であり(男性9例,女性2例),スポーツ競技活動への参加頻度も同等であった。CAI群のCAITスコアは,健常群に比べ有意に低値を示した(CAI群:20.8±4.4点,健常群:29.8±0.6点;p<0.001)。PCAにおいてCAI群は健常群に比し,股関節屈伸角度における第1主成分得点が有意に高値であった(p<0.001)。この第1主成分は着地後200ms間における屈曲角度の大きさと解釈され,CAI群は健常群に比し股関節屈曲が大きい特徴を有していた。さらにCAI群の足関節内反および外反角度における第1主成分および第2主成分の得点は健常群に比し有意に高値であった(それぞれp=0.048,0.017)。この第1主成分は着地後200ms間に渡る外反角度の小ささと解釈され,一方で第2主成分は接地直後の小さな外反角度と解釈された。それ故,CAI群は健常群よりも接地後200ms間に渡って外反角度が小さく,さらに接地直後の外反角度が小さい特徴を有することが明らかとなった。
【考察】
CAI症例は片脚着地動作において健常群よりも大きな股関節屈曲を示した。これは先行研究を一部支持する結果であり,CAI症例は健常例と比べ,より股関節を用いた戦略で着地動作を遂行することが示唆された。また,CAI症例は着地後の足関節外反角度が小さく,特に着地後早期の外反角度が小さいという特徴を有しており,これはCAI症例が経験する再発性の足関節捻挫や足関節giving wayのメカニズムに関与している可能性がある。足関節捻挫の再発予防のために接地後早期の足関節運動のコントロールが重要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,CAI症例が足関節だけでなく股関節の運動機能も変化していることを明らかにした。それゆえ,足関節内反捻挫の再発を予防するためには,臨床場面においてCAI症例の股関節機能も評価すべきであり,さらに異常な足関節運動を改善させる必要がある。
足関節内反捻挫は最も一般的なスポーツ損傷であり,後遺症として慢性足関節不安定性(Chronic ankle instability:CAI)を呈することが多く,再発を経験することが多い。これらを予防するためにCAIによる下肢関節動態の変化を解明することは重要である。CAI症例における着地動作時の下肢関節運動の変化が過去に報告されているが,研究の数も少なく一致した見解は得られていない。近年,多くの特性を有する時系列データを少数のパラメータに包括評価することを目的とした主成分分析(PCA)による動作解析が注目されている。PCAは従来の角度最大値などの離散値の解析では考慮できない時系列的特徴の統計学的検討を可能とする。そこで,本研究の目的はPCAを用いCAI症例における片脚着地動作時の下肢関節運動特性を検討することとした。
【方法】
CAI群および健常群の各12例を対象とした。CAIの定義は1)免荷,固定,または破行をもたらした足関節捻挫の既往,2)過去に複数回の足関節捻挫の既往,3)複数回の足関節giving wayの経験,4)Cumberland ankle instability tool(CAIT)のスコアが27点以下,5)主観的な足関節の不安定感の訴え,があることとした。両群ともスポーツ競技活動に定期的に参加していることを条件とした。各被験者の下肢に反射マーカーを貼付し,赤外線カメラ6台と床反力計を用い40cm台からの片脚着地動作を成功3試行記録し,股・膝・足関節の角度をSIMM softwareにより算出した。PCAはMatlabカスタムプログラムを用い,以下の手順で実施した。接地後200ms間を100%に正規化した各角度波形から,72(3試行×24人)×101(100%正規化した波形データ)の行列を作成した。次にこの行列の共分散行列を固有値分解することで固有値と固有ベクトルを抽出し,各関節角度において主成分および主成分得点を算出した。PCAの主な目的は各波形データの変動性に基づいて最も重要な情報を集約することであり,本研究において各主成分は各角度波形の具体的な特徴を示す。また主成分得点は各試行の角度波形が,主成分が示す特徴にどの程度一致した特徴を有するかを説明する。各関節角度における主成分得点を対応のないt検定を用いて群間比較した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には口頭と紙面により説明し,理解を得たうえで本研究への参加に当たり同意書に署名して頂いた。また本研究は,本学倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
2群間で年齢,身長,体重に有意差を認めなかった(CAI群:21.1±0.9歳,172.9±8.2cm,64.6±8.4kg,健常群:20.7±0.5歳,172.1±8.0cm,64.7±9.3kg)。また,各群の男女比は同等であり(男性9例,女性2例),スポーツ競技活動への参加頻度も同等であった。CAI群のCAITスコアは,健常群に比べ有意に低値を示した(CAI群:20.8±4.4点,健常群:29.8±0.6点;p<0.001)。PCAにおいてCAI群は健常群に比し,股関節屈伸角度における第1主成分得点が有意に高値であった(p<0.001)。この第1主成分は着地後200ms間における屈曲角度の大きさと解釈され,CAI群は健常群に比し股関節屈曲が大きい特徴を有していた。さらにCAI群の足関節内反および外反角度における第1主成分および第2主成分の得点は健常群に比し有意に高値であった(それぞれp=0.048,0.017)。この第1主成分は着地後200ms間に渡る外反角度の小ささと解釈され,一方で第2主成分は接地直後の小さな外反角度と解釈された。それ故,CAI群は健常群よりも接地後200ms間に渡って外反角度が小さく,さらに接地直後の外反角度が小さい特徴を有することが明らかとなった。
【考察】
CAI症例は片脚着地動作において健常群よりも大きな股関節屈曲を示した。これは先行研究を一部支持する結果であり,CAI症例は健常例と比べ,より股関節を用いた戦略で着地動作を遂行することが示唆された。また,CAI症例は着地後の足関節外反角度が小さく,特に着地後早期の外反角度が小さいという特徴を有しており,これはCAI症例が経験する再発性の足関節捻挫や足関節giving wayのメカニズムに関与している可能性がある。足関節捻挫の再発予防のために接地後早期の足関節運動のコントロールが重要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,CAI症例が足関節だけでなく股関節の運動機能も変化していることを明らかにした。それゆえ,足関節内反捻挫の再発を予防するためには,臨床場面においてCAI症例の股関節機能も評価すべきであり,さらに異常な足関節運動を改善させる必要がある。