[1499] 腰椎椎間板ヘルニア患者の症状側と非症状側における除脂肪多裂筋断面積の検討
キーワード:腰椎椎間板ヘルニア, 除脂肪多裂筋断面積, 神経根症状
【はじめに,目的】
多裂筋は疼痛抑制や神経原性により萎縮すると自然回復は認められないと指摘されているため,萎縮した多裂筋に対しては選択的なアプローチが求められる。腰椎椎間板ヘルニアにおいても多裂筋は萎縮するとの報告があり,疼痛軽減後の多裂筋に対する選択的アプローチは重要であると考えられるが,多裂筋の萎縮・変性が生じている明確な部位について一定の見解は得られていない。Magnetic Resonance Imaging(以下MRI)を用いた先行研究において多裂筋横断面積と神経症状との関連性について多数報告されているが,Kangらは脂肪浸潤の影響を考慮しない従来の方法では,多裂筋の萎縮を判断するのは難しいと述べている。そこで本研究の目的は閾値処理を用いて腰椎椎間板ヘルニア患者における除脂肪多裂筋断面積(以下PMCSA)を,神経根症状を呈する症状側と非症状側で比較検討し,腰椎椎間板ヘルニア患者における罹患高位と多裂筋の萎縮部位との関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は2006年3月から2013年5月までに腰臀部痛と一側性の神経根症状を主訴として当院を受診し,MRI(PHILIPS社製Intera 1.5tesla)を使用し画像撮影を行った20歳~35歳までのL4/5間の腰椎椎間板ヘルニアと診断された24名(男性18名,女性6名,平均年齢28.3±4.8歳,平均身長172.6±8.3cm,平均体重70.2±14.3kg,平均罹病期間13±29ヶ月)とした。二椎間以上の腰椎椎間板ヘルニアがあるもの,両側性に下肢症状がみられるもの,脊椎に手術既往のあるものは除外した。MRI画像はL3,L4,L5の棘突起中央を通り椎体に平行なスライスを用いた。画像解析にはImageJ 1.47vを使用し,多裂筋の筋断面積は,棘突起外側と椎弓および筋膜で囲まれた範囲とし,閾値処理にて多裂筋のPMCSAを求めた。2回ずつ計測し平均値を算出した後,体重で正規化した。統計処理は各椎体レベルにおける症状側と非症状側のPMCSAの比較をMann-WhitneyのU検定を用いて分析した。また,症状側のPMCSAが萎縮している割合をχ2適合度検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
MRIに関しては担当医が診察時に必要と判断し,当院放射線技師にて撮影された腰椎水平面像を使用した。またヘルシンキ宣言に基づき対象者へは人権擁護がなされている旨を説明し,同意を得て行った。
【結果】
症状側と非症状側におけるPMCSAの比較では,L3レベルは症状側8.77±2.52mm2/kg,非症状側8.63±2.61mm2/kgv,L4レベルでは症状側10.60±1.45mm2/kg,非症状側11.19±1.96mm2/kgとなり各レベルにおいて有意差はなかった。一方,L5レベルでは,症状側11.30±1.92mm2/kg,非症状側12.00±1.93mm2/kgとなり有意差はみられないものの症状側が萎縮している傾向を示した(p=0.158)。全症例のうち症状側のPMCSAが萎縮していた割合はL3レベルでは50%(24例中12例)であり有意差はなかった。一方L4レベルは70.8%(24例中20例),L5レベルでは91.7%(24例中21例)となり,L4,L5レベルにおいて症状側が萎縮している割合が有意に高値を示した(L4:p<0.05,L5:p<0.01)。
【考察】
今回の結果では,腰椎椎間板ヘルニア患者は症状側の多裂筋が萎縮している傾向がみられた。さらに多裂筋の萎縮は罹患高位と関連がみられ,選択的な萎縮が起きていることが示唆された。吉原らは,多裂筋は同高位の脊髄神経後枝内側枝で支配されていることから,腰椎椎間板ヘルニア患者において罹患高位に一致した多裂筋が萎縮・変性を受ける可能性があることを指摘している。そのため本研究ではL4/5間の椎間板ヘルニアにより,L5神経根障害が起こりL5レベルの多裂筋の萎縮が起きたのではないかと推察される。またL4レベルにおいても症状側のPMCSAの萎縮割合が有意に高かった。小形は腰痛患者では反射抑制,疼痛抑制,廃用性萎縮のために多裂筋の萎縮が起こると述べている。本研究の対象者は腰臀部痛を呈していたため反射抑制,疼痛抑制が起こり多裂筋の萎縮が引き起こされたと考えられる。今回L3レベルでは症状側と非症状側との間に有意差はみられなかった。これは,多裂筋の萎縮は障害高位に隣接する高位にのみ限局してみられる可能性が考えられる。今後は,腰椎椎間板ヘルニア患者の症状側多裂筋の萎縮に対して運動療法を実施し,その効果を検証していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
腰椎椎間板ヘルニア患者の理学療法における多裂筋の選択的かつ分節的な筋再教育や筋力強化は重要であると考えられ,萎縮・変性が生じている部位の情報は,腰背筋に対するアプローチを検討する上で,効果的な治療選択の一助になると考えられる。
多裂筋は疼痛抑制や神経原性により萎縮すると自然回復は認められないと指摘されているため,萎縮した多裂筋に対しては選択的なアプローチが求められる。腰椎椎間板ヘルニアにおいても多裂筋は萎縮するとの報告があり,疼痛軽減後の多裂筋に対する選択的アプローチは重要であると考えられるが,多裂筋の萎縮・変性が生じている明確な部位について一定の見解は得られていない。Magnetic Resonance Imaging(以下MRI)を用いた先行研究において多裂筋横断面積と神経症状との関連性について多数報告されているが,Kangらは脂肪浸潤の影響を考慮しない従来の方法では,多裂筋の萎縮を判断するのは難しいと述べている。そこで本研究の目的は閾値処理を用いて腰椎椎間板ヘルニア患者における除脂肪多裂筋断面積(以下PMCSA)を,神経根症状を呈する症状側と非症状側で比較検討し,腰椎椎間板ヘルニア患者における罹患高位と多裂筋の萎縮部位との関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は2006年3月から2013年5月までに腰臀部痛と一側性の神経根症状を主訴として当院を受診し,MRI(PHILIPS社製Intera 1.5tesla)を使用し画像撮影を行った20歳~35歳までのL4/5間の腰椎椎間板ヘルニアと診断された24名(男性18名,女性6名,平均年齢28.3±4.8歳,平均身長172.6±8.3cm,平均体重70.2±14.3kg,平均罹病期間13±29ヶ月)とした。二椎間以上の腰椎椎間板ヘルニアがあるもの,両側性に下肢症状がみられるもの,脊椎に手術既往のあるものは除外した。MRI画像はL3,L4,L5の棘突起中央を通り椎体に平行なスライスを用いた。画像解析にはImageJ 1.47vを使用し,多裂筋の筋断面積は,棘突起外側と椎弓および筋膜で囲まれた範囲とし,閾値処理にて多裂筋のPMCSAを求めた。2回ずつ計測し平均値を算出した後,体重で正規化した。統計処理は各椎体レベルにおける症状側と非症状側のPMCSAの比較をMann-WhitneyのU検定を用いて分析した。また,症状側のPMCSAが萎縮している割合をχ2適合度検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
MRIに関しては担当医が診察時に必要と判断し,当院放射線技師にて撮影された腰椎水平面像を使用した。またヘルシンキ宣言に基づき対象者へは人権擁護がなされている旨を説明し,同意を得て行った。
【結果】
症状側と非症状側におけるPMCSAの比較では,L3レベルは症状側8.77±2.52mm2/kg,非症状側8.63±2.61mm2/kgv,L4レベルでは症状側10.60±1.45mm2/kg,非症状側11.19±1.96mm2/kgとなり各レベルにおいて有意差はなかった。一方,L5レベルでは,症状側11.30±1.92mm2/kg,非症状側12.00±1.93mm2/kgとなり有意差はみられないものの症状側が萎縮している傾向を示した(p=0.158)。全症例のうち症状側のPMCSAが萎縮していた割合はL3レベルでは50%(24例中12例)であり有意差はなかった。一方L4レベルは70.8%(24例中20例),L5レベルでは91.7%(24例中21例)となり,L4,L5レベルにおいて症状側が萎縮している割合が有意に高値を示した(L4:p<0.05,L5:p<0.01)。
【考察】
今回の結果では,腰椎椎間板ヘルニア患者は症状側の多裂筋が萎縮している傾向がみられた。さらに多裂筋の萎縮は罹患高位と関連がみられ,選択的な萎縮が起きていることが示唆された。吉原らは,多裂筋は同高位の脊髄神経後枝内側枝で支配されていることから,腰椎椎間板ヘルニア患者において罹患高位に一致した多裂筋が萎縮・変性を受ける可能性があることを指摘している。そのため本研究ではL4/5間の椎間板ヘルニアにより,L5神経根障害が起こりL5レベルの多裂筋の萎縮が起きたのではないかと推察される。またL4レベルにおいても症状側のPMCSAの萎縮割合が有意に高かった。小形は腰痛患者では反射抑制,疼痛抑制,廃用性萎縮のために多裂筋の萎縮が起こると述べている。本研究の対象者は腰臀部痛を呈していたため反射抑制,疼痛抑制が起こり多裂筋の萎縮が引き起こされたと考えられる。今回L3レベルでは症状側と非症状側との間に有意差はみられなかった。これは,多裂筋の萎縮は障害高位に隣接する高位にのみ限局してみられる可能性が考えられる。今後は,腰椎椎間板ヘルニア患者の症状側多裂筋の萎縮に対して運動療法を実施し,その効果を検証していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
腰椎椎間板ヘルニア患者の理学療法における多裂筋の選択的かつ分節的な筋再教育や筋力強化は重要であると考えられ,萎縮・変性が生じている部位の情報は,腰背筋に対するアプローチを検討する上で,効果的な治療選択の一助になると考えられる。