[1500] 思春期前後の健常男性における脊柱起立筋線維組成の違いについて
キーワード:小児, 表面筋電図, 筋疲労
【はじめに,目的】
脊柱起立筋は持久性に秀でたType1線維優位の筋線維組成を持つ姿勢保持筋である。筋線維Typeの割合を鑑別する方法として病理組織学的検査を用いることが多いが,この手法は侵襲を伴う。それに代わり,非侵襲的に筋線維組成を評価する有用な方法として筋電図パワースペクトル解析がある。これにより算出される中間周波数(MF)と平均周波数(MPF)は疲労に伴い減衰することから,それらの減衰率は筋疲労の指標となり,さらには筋線維Typeの割合を推測することが可能である。Sørensenは腰背部の筋持久力評価法としてTrunk holding testが有用であることを報告した。このTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を組み合わせた測定法は再現性が高く,算出されたMFの減衰率は脊柱起立筋におけるType1線維の割合と関連することが立証されている。また,この測定法により健常若年成人男性及び高齢男性におけるMFとMPFの減衰率を比較した結果,高齢男性の方が若年成人男性に比べ,それらの減衰率は小さいことが報告されており,加齢により脊柱起立筋の筋線維組成が変化することが示唆された。一方,小児では思春期に成長ホルモン等の分泌が活性化し,筋線維の肥大が促進され,身体が著しく発育するにも関わらず,発育による脊柱起立筋線維組成の変化に関する報告は見当たらない。本研究の目的はTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を用いて,思春期前男児と若年成人男性におけるMF及びMPFの減衰率と体格の関連性を検証した上で,両群におけるMF及びMPFの減衰率を比較・検討することである。
【方法】
対象はTanner分類stage2以下の健常思春期前男児14名と30歳以下の健常若年成人男性14名とした。被験者は充分な安静の後,SørensenのTrunk holding testに準じて能動的に可能な限り水平位を保持した。被験者の胸郭中央が2秒間2cm以上下垂した時点で測定を終了した。表面筋電導出電極を第1腰椎から両側の脊柱起立筋の筋腹中央に貼付し,不関電極を第1腰椎棘突起に貼付した。筋電計で計測した脊柱起立筋の筋活動は20-500Hzのバンドパスフィルターにかけ,A/D変換(サンプリング周波数2000Hz)してコンピューターに取り込んだ。次いで,左側の脊柱起立筋活動に対して高速フーリエ変換による周波数パワースペクトル解析を行い,1秒単位のMFとMPFを算出し,それらの減衰率を求めた。統計解析として,MF及びMPFの減衰率と身長,体重,Body Mass Index(BMI)の相関性についてはSpearmanの順位相関分析を行い,二群間の比較はMann-Whitney U testを用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
事前にヘルシンキ宣言に基づき,全ての被験者に加え,未成年者はその保護者に対して研究の趣旨,方法及び危険性を書面と口頭で十分に説明した。尚,本研究は当院の倫理審査委員会から承認を得ている。
【結果】
Trunk holding testの持続時間は両群に有意差がなかった。全ての被験者でMFとMPFは時間に伴い,有意に直線的な減衰を示した。また,両群ともにMF及びMPFの減衰率と身長,体重,BMIに有意な相関はなかった。両群におけるMF及びMPFの減衰率を比較した結果,思春期前男児の方が若年成人男性に比べ,それらの減衰率は有意に小さかった。
【考察】
思春期前男児と若年成人男性はTrunk holding testの持続時間に有意差がなく,また,その時の脊柱起立筋活動から算出されたMF及びMPFの減衰率は両群ともに体格と有意な相関を示さなかった。MF及びMPF減衰率との関連性について,MannionらはTrunk holding testから算出されたMFの減衰率が小さいほど脊柱起立筋におけるType1線維の割合が高いことを報告した。従って,思春期前男児の方が若年成人男性よりMF及びMPFの減衰率が小さいということは,脊柱起立筋の筋線維組成において,思春期前男児の方が若年成人男性よりType1線維の割合が高いことを示唆する。また,思春期におけるなんらかの影響により筋線維組成が変化した可能性が考えられるが,その詳細については更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
思春期前男児に対して理学療法を実施する際に,成人男性とは異なる筋線維組成であることを考慮する必要があるかもしれない。今回の結果は思春期前後の脊柱起立筋に関する評価及び理学療法プログラムの立案に役立つ知見となる。
脊柱起立筋は持久性に秀でたType1線維優位の筋線維組成を持つ姿勢保持筋である。筋線維Typeの割合を鑑別する方法として病理組織学的検査を用いることが多いが,この手法は侵襲を伴う。それに代わり,非侵襲的に筋線維組成を評価する有用な方法として筋電図パワースペクトル解析がある。これにより算出される中間周波数(MF)と平均周波数(MPF)は疲労に伴い減衰することから,それらの減衰率は筋疲労の指標となり,さらには筋線維Typeの割合を推測することが可能である。Sørensenは腰背部の筋持久力評価法としてTrunk holding testが有用であることを報告した。このTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を組み合わせた測定法は再現性が高く,算出されたMFの減衰率は脊柱起立筋におけるType1線維の割合と関連することが立証されている。また,この測定法により健常若年成人男性及び高齢男性におけるMFとMPFの減衰率を比較した結果,高齢男性の方が若年成人男性に比べ,それらの減衰率は小さいことが報告されており,加齢により脊柱起立筋の筋線維組成が変化することが示唆された。一方,小児では思春期に成長ホルモン等の分泌が活性化し,筋線維の肥大が促進され,身体が著しく発育するにも関わらず,発育による脊柱起立筋線維組成の変化に関する報告は見当たらない。本研究の目的はTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を用いて,思春期前男児と若年成人男性におけるMF及びMPFの減衰率と体格の関連性を検証した上で,両群におけるMF及びMPFの減衰率を比較・検討することである。
【方法】
対象はTanner分類stage2以下の健常思春期前男児14名と30歳以下の健常若年成人男性14名とした。被験者は充分な安静の後,SørensenのTrunk holding testに準じて能動的に可能な限り水平位を保持した。被験者の胸郭中央が2秒間2cm以上下垂した時点で測定を終了した。表面筋電導出電極を第1腰椎から両側の脊柱起立筋の筋腹中央に貼付し,不関電極を第1腰椎棘突起に貼付した。筋電計で計測した脊柱起立筋の筋活動は20-500Hzのバンドパスフィルターにかけ,A/D変換(サンプリング周波数2000Hz)してコンピューターに取り込んだ。次いで,左側の脊柱起立筋活動に対して高速フーリエ変換による周波数パワースペクトル解析を行い,1秒単位のMFとMPFを算出し,それらの減衰率を求めた。統計解析として,MF及びMPFの減衰率と身長,体重,Body Mass Index(BMI)の相関性についてはSpearmanの順位相関分析を行い,二群間の比較はMann-Whitney U testを用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
事前にヘルシンキ宣言に基づき,全ての被験者に加え,未成年者はその保護者に対して研究の趣旨,方法及び危険性を書面と口頭で十分に説明した。尚,本研究は当院の倫理審査委員会から承認を得ている。
【結果】
Trunk holding testの持続時間は両群に有意差がなかった。全ての被験者でMFとMPFは時間に伴い,有意に直線的な減衰を示した。また,両群ともにMF及びMPFの減衰率と身長,体重,BMIに有意な相関はなかった。両群におけるMF及びMPFの減衰率を比較した結果,思春期前男児の方が若年成人男性に比べ,それらの減衰率は有意に小さかった。
【考察】
思春期前男児と若年成人男性はTrunk holding testの持続時間に有意差がなく,また,その時の脊柱起立筋活動から算出されたMF及びMPFの減衰率は両群ともに体格と有意な相関を示さなかった。MF及びMPF減衰率との関連性について,MannionらはTrunk holding testから算出されたMFの減衰率が小さいほど脊柱起立筋におけるType1線維の割合が高いことを報告した。従って,思春期前男児の方が若年成人男性よりMF及びMPFの減衰率が小さいということは,脊柱起立筋の筋線維組成において,思春期前男児の方が若年成人男性よりType1線維の割合が高いことを示唆する。また,思春期におけるなんらかの影響により筋線維組成が変化した可能性が考えられるが,その詳細については更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
思春期前男児に対して理学療法を実施する際に,成人男性とは異なる筋線維組成であることを考慮する必要があるかもしれない。今回の結果は思春期前後の脊柱起立筋に関する評価及び理学療法プログラムの立案に役立つ知見となる。