[1509] 転子果長測定における大転子基準点
Keywords:大転子, 転子果長, 再現性
【はじめに,目的】
転子果長測定時は大転子が指標の一つとなる。大転子は一定の大きさを持ち,点で定義されるものではない。従って,転子果長測定時は大転子の中の特定の一点を基準点とする必要がある。転子果長の測定法を記述したテキストは複数出版されているが,テキスト間で大転子基準点位置に相違がある。従って,理学療法士間で転子果長測定時の大転子基準点位置が異なる可能性がある。
本研究は,理学療法士が転子果長測定時の大転子基準点をどの部位に定めているかを検証することを目的とする。
【方法】
対象は6つの医療施設に勤務する理学療法士33名とした(施設A:1名,B:6名,C:6名,D:5名,E:11名,F:4名)。対象の臨床経験年数は4.6±4.1年(平均値±標準偏差)であった。
右大腿骨模型を被験者に提示し,転子果長測定時に大転子の中で基準点とする部位にマーカーを貼り付けてもらった。貼付したマーカーをデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフトImageJ 1.45sを用いて,マーカー中心部座標を同定した。33のマーカーが全て含まれるような長方形の枠を大転子画像上に描き,その枠を16マス(縦横4マス)に分割した。各マスのマーカー数をカウントした。
全マーカーのうち最上部と最下部に位置したマーカーのY軸座標差から,2つのマーカーの垂直方向の高さの差を求めた。
勤務施設の違いがマーカー位置に与える影響を検証するために,マーカーX軸,Y軸座標について,施設間の差を一元配置分散分析にて検討した(1名のみ在籍の施設Aを除く5施設について分析)。加えて,臨床経験年数がマーカー位置に与える影響を検証するために,マーカーのX軸,Y軸座標と臨床経験年数との相関をスピアマンの順位相関係数にて検討した。
研究に先立ち,撮影および座標同定に関する検者内信頼性を検証する目的で,以下の実験を実施した。まず,大腿骨模型の任意の部位にマーカーを貼付し,撮影場所(模型を置く場所)を変えながら3回撮影した。この手順を5回繰り返し,任意の5カ所に貼付した5つのマーカーそれぞれについて3枚の画像を取得した。3枚の画像のマーカー中心部座標が一致するかどうかを,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients;ICC)を用いて検証した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆者の所属施設の研究等倫理審査委員会の承認を受けて実施した。対象には研究について十分に説明し,同意書を得てから研究を実施した。
【結果】
5カ所のマーカーの3枚の画像におけるX軸,Y軸座標のICCは,X軸:ICC(1,1)=0.9998,ICC(1,3)=0.9999,Y軸:ICC(1,1)=0.9999,ICC(1,3)=0.9999であった。
最も多くのマーカー(11個)が存在したマスは大転子の側方最突出部位であった。このマスの下隣のマスには2番目に多い6個のマーカーが存在し,側方最突出部付近には多くのマーカーが存在した。一方,側方最突出部付近以外にも,大転子の上端部や最後方部にマーカーが存在し,広範囲にマーカーが分布していた。最上部と最下部のマーカーの高さの差は4.1cmであった。
各施設におけるマーカー位置について一元配置分散分析を実施したが,有意差は認められなかった(X軸:p=0.747,Y軸:p=0.174)。また,マーカー座標と臨床経験年数との有意な相関は認められなかった(X軸:p=0.844,Y軸:p=0.058)。
【考察】
X軸,Y軸座標ともにICC(1,1)が高値を示し,マーカー撮影回数は1回で十分であると考えられる。
マーカーが側方突出部付近に多く存在したことは,この部位は比較的触診が容易であり,再現性に有利であることが理由であると考えられる。一方,側方突出部付近以外にも広範囲にマーカーが存在しており,最上部と最下部のマーカーの高さの差は約4cmであった。一般的に転子果長は1mに満たないため,4cmの差は無視できないものであろう。
マーカー座標の施設差や臨床経験年数との相関が認められず,基準点のばらつきの要因は不明である。他の要因として出身養成校の違いや担当患者層の違いなどが考えられる。
大転子の広範囲に基準点が存在したことから,あるPTが測定した転子果長データを他のPTが参照しづらいことが示唆される。今後,大転子基準点の統一に向けてさらに研究を進めていく必要があろう。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果により,転子果長測定における統一した大転子基準点を定める必要性が示唆された。今後の統一基準点制定に向けた動きを促進するものと考える。
転子果長測定時は大転子が指標の一つとなる。大転子は一定の大きさを持ち,点で定義されるものではない。従って,転子果長測定時は大転子の中の特定の一点を基準点とする必要がある。転子果長の測定法を記述したテキストは複数出版されているが,テキスト間で大転子基準点位置に相違がある。従って,理学療法士間で転子果長測定時の大転子基準点位置が異なる可能性がある。
本研究は,理学療法士が転子果長測定時の大転子基準点をどの部位に定めているかを検証することを目的とする。
【方法】
対象は6つの医療施設に勤務する理学療法士33名とした(施設A:1名,B:6名,C:6名,D:5名,E:11名,F:4名)。対象の臨床経験年数は4.6±4.1年(平均値±標準偏差)であった。
右大腿骨模型を被験者に提示し,転子果長測定時に大転子の中で基準点とする部位にマーカーを貼り付けてもらった。貼付したマーカーをデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフトImageJ 1.45sを用いて,マーカー中心部座標を同定した。33のマーカーが全て含まれるような長方形の枠を大転子画像上に描き,その枠を16マス(縦横4マス)に分割した。各マスのマーカー数をカウントした。
全マーカーのうち最上部と最下部に位置したマーカーのY軸座標差から,2つのマーカーの垂直方向の高さの差を求めた。
勤務施設の違いがマーカー位置に与える影響を検証するために,マーカーX軸,Y軸座標について,施設間の差を一元配置分散分析にて検討した(1名のみ在籍の施設Aを除く5施設について分析)。加えて,臨床経験年数がマーカー位置に与える影響を検証するために,マーカーのX軸,Y軸座標と臨床経験年数との相関をスピアマンの順位相関係数にて検討した。
研究に先立ち,撮影および座標同定に関する検者内信頼性を検証する目的で,以下の実験を実施した。まず,大腿骨模型の任意の部位にマーカーを貼付し,撮影場所(模型を置く場所)を変えながら3回撮影した。この手順を5回繰り返し,任意の5カ所に貼付した5つのマーカーそれぞれについて3枚の画像を取得した。3枚の画像のマーカー中心部座標が一致するかどうかを,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients;ICC)を用いて検証した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆者の所属施設の研究等倫理審査委員会の承認を受けて実施した。対象には研究について十分に説明し,同意書を得てから研究を実施した。
【結果】
5カ所のマーカーの3枚の画像におけるX軸,Y軸座標のICCは,X軸:ICC(1,1)=0.9998,ICC(1,3)=0.9999,Y軸:ICC(1,1)=0.9999,ICC(1,3)=0.9999であった。
最も多くのマーカー(11個)が存在したマスは大転子の側方最突出部位であった。このマスの下隣のマスには2番目に多い6個のマーカーが存在し,側方最突出部付近には多くのマーカーが存在した。一方,側方最突出部付近以外にも,大転子の上端部や最後方部にマーカーが存在し,広範囲にマーカーが分布していた。最上部と最下部のマーカーの高さの差は4.1cmであった。
各施設におけるマーカー位置について一元配置分散分析を実施したが,有意差は認められなかった(X軸:p=0.747,Y軸:p=0.174)。また,マーカー座標と臨床経験年数との有意な相関は認められなかった(X軸:p=0.844,Y軸:p=0.058)。
【考察】
X軸,Y軸座標ともにICC(1,1)が高値を示し,マーカー撮影回数は1回で十分であると考えられる。
マーカーが側方突出部付近に多く存在したことは,この部位は比較的触診が容易であり,再現性に有利であることが理由であると考えられる。一方,側方突出部付近以外にも広範囲にマーカーが存在しており,最上部と最下部のマーカーの高さの差は約4cmであった。一般的に転子果長は1mに満たないため,4cmの差は無視できないものであろう。
マーカー座標の施設差や臨床経験年数との相関が認められず,基準点のばらつきの要因は不明である。他の要因として出身養成校の違いや担当患者層の違いなどが考えられる。
大転子の広範囲に基準点が存在したことから,あるPTが測定した転子果長データを他のPTが参照しづらいことが示唆される。今後,大転子基準点の統一に向けてさらに研究を進めていく必要があろう。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果により,転子果長測定における統一した大転子基準点を定める必要性が示唆された。今後の統一基準点制定に向けた動きを促進するものと考える。