[1510] 被験者要因を完全に排除した条件下でのハンドヘルドダイナモメータによる徒手筋力計測の精度検証
Keywords:筋力測定, 定量的評価, 関節トルク
【はじめに,目的】ハンドヘルドダイナモメータ(以下,HHD)は,筋力を数値化する装置の中では比較的安価でコンパクトなため,臨床で使いやすい。計測装置や計測方法には精度検証が必要である。値(真値)が既知の対象を計測できれば,結果のバラツキから確率誤差,真値との差異から系統誤差,がわかる。しかし,ヒトを被験者とする筋力計測では発揮力が毎回同じとは限らず,かつ真値も不明である。そのため計測結果の確率誤差には被験者側の要因が含まれ,また系統誤差を求めることもできない。そこで,我々は一定の膝伸展トルクを発揮できる模擬下腿運動装置を製作し,被験者要因を完全に排除した条件下でHHDによる筋力計測の精度検証を行った。
【方法】本装置では,石膏製下腿陽性モデルにハイソックスを履かせた模擬下腿が,膝関節回転軸相当のシャフトまわりに回転する(安全のため,垂直位から±約10度の範囲に運動制限)。回転軸-足底間距離は40.5cm。水平方向のレバーアームの端(回転軸から70cm)につり下げた錘により,膝伸展トルクが発生する。装置自体の重量は,カウンターバランスで相殺される。今回は3種類の錘を用いて,約10,20,40(正確には10.1,21.2,40.7)Nmの一定トルクを発生させた。計測者は臨床経験2年目以上の理学療法士10名(男性9・女性1,年齢30.1±5.8歳,身長170.0±6.2cm,体重66.1±6.1kg)で,徒手筋力計測の臨床経験は十分にある者とした。ただし,HHD計測はあまり経験の無い者だった。模擬下腿の伸展力を,HHD(酒井医療(株)製,MT-100)で計測させた。計測開始前に装置の動きや発揮力を体感するため,手で下腿運動を止める動作と電源オフのHHDでの模擬計測を,実験には用いない約28Nmのトルク下で,各一度ずつ行わせた。練習ではHHDを下腿遠位に当てるように指示した。本番ではHHDの位置,持ち方,姿勢などは計測者の自由に任せた。レバーアームをロープで吊りあげた無負荷状態で,計測者が下腿にHHDを当てる。計測者の「いち,にの,さん」の合図で実験者が徐々にロープを緩めて放し,以後一定トルクが保持される。合図から約3秒後,下腿の静止を確認して終了し,計測値を記録した。HHDの表示部はテープで隠した。3種のトルクを各2回ずつ,ランダムな順で施行。2人ひと組で実施し,一度計測する毎に交代した。非計測時は,他の計測者の計測状況が見えないようにした。計測者の開始の合図の際,計測者の右方遠方から写真撮影した。その画像解析により,HHDと回転軸の距離などを算出した。HHDには,2点のマーカー付きの針金が取り付けてあり,HHDが手で隠れても,マーカー位置からHHD位置を算出できた。
【倫理的配慮,説明と同意】倫理審査委員会の承認を得て,参加者には事前に実験内容を説明し同意を得た。
【結果】力の計測値(平均±SD)は,負荷トルク10,20,40Nmのそれぞれで,37.2±6.4,69.5±10.6,110.8±25.1Nであり,40Nm時の最大値と最小値の差は94.2Nだった。同負荷同計測者の2回の計測結果の比(最小値/最大値)は0.9±0.1だった。HHDを当てる位置(回転軸からHHD計測面中心までの距離)は27.9±1.3cm,最大5.7cmの差があり,各計測者のレンジ(最大値―最小値)は2.0±0.8cmだった。力計測値と計測位置からトルクを計算すると,負荷トルク毎に10.3±1.7,19.3±3.1,31.1±7.1Nmであった。テコの原理からはHHD位置と力計測値には負の相関が想定されるが,負荷トルク毎の相関係数は-0.25,0.04,-0.12であり,相関はなかった。
【考察】本計測結果の系統誤差と確率誤差は,以下のように捉えることができる。力計測結果のバラツキを変動係数(=SD/平均)で示すと約20%程度となる。これは確率誤差に相当する。発揮力が大きいときには変動係数も大きかった。バラツキの原因としてHHD位置によるモーメントアームの違いが考えられるが,位置と計測値の相関はなかった。トルク換算値の変動係数も計測値のそれとほぼ同じである。トルク換算値は10,20Nm負荷では真値に近く,系統誤差は小さかったと言える。一方,40Nmの場合は小さめに計測される系統誤差がみられた。以上から,少なくともHHDの非熟練者が計測した場合には,20%以上の誤差がありえることを想定して扱う必要があること,トルクに換算しても確率誤差は解消されない場合があること,比較的大きな力は実際より小さく計測される可能性があることがわかった。今後はこれらの誤差の要因を検討し,可能であれば対策をとるべきであり,そのためにも被験者要因を排除した研究をさらに進める必要があるだろう。
【理学療法学研究としての意義】HHDの計測値で障害の程度やその変化を評価する場合に,どの程度の誤差を見込む必要があるかを,被験者要因を排除した条件下での実証値として定量的に示した。
【方法】本装置では,石膏製下腿陽性モデルにハイソックスを履かせた模擬下腿が,膝関節回転軸相当のシャフトまわりに回転する(安全のため,垂直位から±約10度の範囲に運動制限)。回転軸-足底間距離は40.5cm。水平方向のレバーアームの端(回転軸から70cm)につり下げた錘により,膝伸展トルクが発生する。装置自体の重量は,カウンターバランスで相殺される。今回は3種類の錘を用いて,約10,20,40(正確には10.1,21.2,40.7)Nmの一定トルクを発生させた。計測者は臨床経験2年目以上の理学療法士10名(男性9・女性1,年齢30.1±5.8歳,身長170.0±6.2cm,体重66.1±6.1kg)で,徒手筋力計測の臨床経験は十分にある者とした。ただし,HHD計測はあまり経験の無い者だった。模擬下腿の伸展力を,HHD(酒井医療(株)製,MT-100)で計測させた。計測開始前に装置の動きや発揮力を体感するため,手で下腿運動を止める動作と電源オフのHHDでの模擬計測を,実験には用いない約28Nmのトルク下で,各一度ずつ行わせた。練習ではHHDを下腿遠位に当てるように指示した。本番ではHHDの位置,持ち方,姿勢などは計測者の自由に任せた。レバーアームをロープで吊りあげた無負荷状態で,計測者が下腿にHHDを当てる。計測者の「いち,にの,さん」の合図で実験者が徐々にロープを緩めて放し,以後一定トルクが保持される。合図から約3秒後,下腿の静止を確認して終了し,計測値を記録した。HHDの表示部はテープで隠した。3種のトルクを各2回ずつ,ランダムな順で施行。2人ひと組で実施し,一度計測する毎に交代した。非計測時は,他の計測者の計測状況が見えないようにした。計測者の開始の合図の際,計測者の右方遠方から写真撮影した。その画像解析により,HHDと回転軸の距離などを算出した。HHDには,2点のマーカー付きの針金が取り付けてあり,HHDが手で隠れても,マーカー位置からHHD位置を算出できた。
【倫理的配慮,説明と同意】倫理審査委員会の承認を得て,参加者には事前に実験内容を説明し同意を得た。
【結果】力の計測値(平均±SD)は,負荷トルク10,20,40Nmのそれぞれで,37.2±6.4,69.5±10.6,110.8±25.1Nであり,40Nm時の最大値と最小値の差は94.2Nだった。同負荷同計測者の2回の計測結果の比(最小値/最大値)は0.9±0.1だった。HHDを当てる位置(回転軸からHHD計測面中心までの距離)は27.9±1.3cm,最大5.7cmの差があり,各計測者のレンジ(最大値―最小値)は2.0±0.8cmだった。力計測値と計測位置からトルクを計算すると,負荷トルク毎に10.3±1.7,19.3±3.1,31.1±7.1Nmであった。テコの原理からはHHD位置と力計測値には負の相関が想定されるが,負荷トルク毎の相関係数は-0.25,0.04,-0.12であり,相関はなかった。
【考察】本計測結果の系統誤差と確率誤差は,以下のように捉えることができる。力計測結果のバラツキを変動係数(=SD/平均)で示すと約20%程度となる。これは確率誤差に相当する。発揮力が大きいときには変動係数も大きかった。バラツキの原因としてHHD位置によるモーメントアームの違いが考えられるが,位置と計測値の相関はなかった。トルク換算値の変動係数も計測値のそれとほぼ同じである。トルク換算値は10,20Nm負荷では真値に近く,系統誤差は小さかったと言える。一方,40Nmの場合は小さめに計測される系統誤差がみられた。以上から,少なくともHHDの非熟練者が計測した場合には,20%以上の誤差がありえることを想定して扱う必要があること,トルクに換算しても確率誤差は解消されない場合があること,比較的大きな力は実際より小さく計測される可能性があることがわかった。今後はこれらの誤差の要因を検討し,可能であれば対策をとるべきであり,そのためにも被験者要因を排除した研究をさらに進める必要があるだろう。
【理学療法学研究としての意義】HHDの計測値で障害の程度やその変化を評価する場合に,どの程度の誤差を見込む必要があるかを,被験者要因を排除した条件下での実証値として定量的に示した。