[1511] 徒手筋力計による下肢筋力測定の別法
キーワード:徒手筋力計, 下肢筋力, 信頼性
【はじめに,目的】徒手筋力計(以下:HHD)は筋力の定量的な評価を可能とし,簡便性,コスト面においても有用と考えられている。HHDを用いた下肢筋力測定法の信頼性・再現性については数多く検討されてきているが,未だに統一された見解に至っていない。現段階ではHHDを用いた測定法はDanielsらの徒手筋力検査法(以下:MMT)に準じて行うことが望ましいとされている。しかし,実症例に対してMMTの方法は測定肢位がとれない等の理由から正確な筋力評価が行えていない場合も少なくない。我々はHHDを用いた測定法で測定肢位に苦慮する股関節伸展,外転,膝関節屈曲において実症例に対する測定し易い別法を考案し,MMTの方法による測定値との間に正の相関があることを報告した(股関節伸展:r=0.57,股関節外転:r=0.68,膝関節屈曲:r=0.58)。そこで,今回は本法における検者内及び検者間の信頼性について検討したので報告する。
【方法】測定機器にはHHD(モービィMT-100,酒井医療社製)を用い,測定単位は重量キログラム(kgf)とした。検者内の検討では1名の検者(臨床経験3年目の男性理学療法士)が30名の健常成人(男性24名,女性6名,平均年齢23.5±3.7歳)を対象に同日内での3回反復測定による信頼性を検討した。また,検者間の検討では3名の検者(臨床経験1年目の男性2名,女性1名の理学療法士)が健常成人5名(男性3名,女性2名,平均年齢24.4±2.6歳)の左右10肢を対象に測定し,3回の最大値を代表値として検討した。被験者の疲労が反映されないよう3日間に分けて測定し,測定順が同一にならないよう配慮した。また,検者には研究の目的,意義は教示せず,的確に実施できるよう測定方法と注意点のみ説明した。HHDを用いた別法は実症例で測定し易い肢位を考慮し,股関節伸展は足底と床面が離れた端座位を測定肢位とし,大腿遠位部後面と座面との間でHHDを圧迫する方法とした。股関節外転は背臥位で両側下腿遠位部にベルトを装着し,検者が対側下肢を固定した上で,被験肢の股関節外転を行わせるベルト固定法とした。膝関節屈曲は足底と床面が離れた端座位にて下腿遠位部にベルトを装着し,検者の抵抗に対し膝関節を屈曲する徒手抵抗法とした。検者内及び検者間での測定方法は統一とし,各測定時間は最大努力での約5秒間,各測定間には約30秒の休息時間を設け,計3回ずつ測定した。統計学的分析には級内相関係数(Intraclass correlation coefficients:以下ICC)を用い,検者内信頼性係数はICC(1,3),検者間信頼性係数はICC(2,3)を用いて算出した。また,統計処理にはIBM SPSS Statistics 21を用い,有意水準は1%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会で承認を受け,全対象者に十分な研究内容を説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】検者内信頼性は股関節伸展ICC(1,3)=0.97,股関節外転ICC(1,3)=0.98,膝関節屈曲ICC(1,3)=0.98であった。検者間信頼性は股関節伸展ICC(2,3)=0.81,股関節外転ICC(2,3)=0.88,膝関節屈曲ICC(2,3)=0.81であった。
【考察】ICCの評価基準として桑原ら(1993)は0.8~は良好,0.9~は優秀とし,Landisら(1977)は0.81以上をalmost perfectと述べている。本研究の結果では検者内及び検者間信頼性共に全項目で高い信頼性が得られた。股関節伸展のMMTに準じた測定方法は腹臥位をとることが必要条件となる。しかし,実症例では腹臥位がとれない対象も少なくない。平野ら(2004)は背臥位で股関節伸展の測定方法における信頼性を報告しているが,検者が2名必要であり,測定の簡便性に対しては不利となる為,今回は測定肢位を座位とした。測定結果には体重や重力の要因が加味されるため,被験者間での比較は困難であるが,臨床において個々の対象者における経時的な筋力評価には有用な方法と考える。股関節外転は測定肢位を背臥位,測定方法をベルト固定法にし,測定バイアスを最小限に留めたことで,比較的高い信頼性が得られたと考える。膝関節屈曲は臨床でより簡便性を重視した徒手抵抗法にて測定した。Reeseら(2001)はHHDを使用した測定方法の制約として,検者が十分な抵抗力を与えることができない事を挙げ,検者の抵抗力が測定結果に影響を及ぼす可能性があると報告している。しかし,本研究の結果では検者内及び検者間において高い信頼性を認め,徒手抵抗による膝関節屈曲測定法の有用性が示唆された。本研究の限界は,対象が健常成人である為,実症例で同様の結果が示せるか現段階では不明であるが,本研究結果での高い信頼性は本法の有用性を支持するものとなった。
【理学療法学研究としての意義】実症例を想定した本法の検者内及び検者間信頼性の検討において有用な結果を示せたことは,今後の理学療法分野における筋力測定法の一助になると考えられる。
【方法】測定機器にはHHD(モービィMT-100,酒井医療社製)を用い,測定単位は重量キログラム(kgf)とした。検者内の検討では1名の検者(臨床経験3年目の男性理学療法士)が30名の健常成人(男性24名,女性6名,平均年齢23.5±3.7歳)を対象に同日内での3回反復測定による信頼性を検討した。また,検者間の検討では3名の検者(臨床経験1年目の男性2名,女性1名の理学療法士)が健常成人5名(男性3名,女性2名,平均年齢24.4±2.6歳)の左右10肢を対象に測定し,3回の最大値を代表値として検討した。被験者の疲労が反映されないよう3日間に分けて測定し,測定順が同一にならないよう配慮した。また,検者には研究の目的,意義は教示せず,的確に実施できるよう測定方法と注意点のみ説明した。HHDを用いた別法は実症例で測定し易い肢位を考慮し,股関節伸展は足底と床面が離れた端座位を測定肢位とし,大腿遠位部後面と座面との間でHHDを圧迫する方法とした。股関節外転は背臥位で両側下腿遠位部にベルトを装着し,検者が対側下肢を固定した上で,被験肢の股関節外転を行わせるベルト固定法とした。膝関節屈曲は足底と床面が離れた端座位にて下腿遠位部にベルトを装着し,検者の抵抗に対し膝関節を屈曲する徒手抵抗法とした。検者内及び検者間での測定方法は統一とし,各測定時間は最大努力での約5秒間,各測定間には約30秒の休息時間を設け,計3回ずつ測定した。統計学的分析には級内相関係数(Intraclass correlation coefficients:以下ICC)を用い,検者内信頼性係数はICC(1,3),検者間信頼性係数はICC(2,3)を用いて算出した。また,統計処理にはIBM SPSS Statistics 21を用い,有意水準は1%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会で承認を受け,全対象者に十分な研究内容を説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】検者内信頼性は股関節伸展ICC(1,3)=0.97,股関節外転ICC(1,3)=0.98,膝関節屈曲ICC(1,3)=0.98であった。検者間信頼性は股関節伸展ICC(2,3)=0.81,股関節外転ICC(2,3)=0.88,膝関節屈曲ICC(2,3)=0.81であった。
【考察】ICCの評価基準として桑原ら(1993)は0.8~は良好,0.9~は優秀とし,Landisら(1977)は0.81以上をalmost perfectと述べている。本研究の結果では検者内及び検者間信頼性共に全項目で高い信頼性が得られた。股関節伸展のMMTに準じた測定方法は腹臥位をとることが必要条件となる。しかし,実症例では腹臥位がとれない対象も少なくない。平野ら(2004)は背臥位で股関節伸展の測定方法における信頼性を報告しているが,検者が2名必要であり,測定の簡便性に対しては不利となる為,今回は測定肢位を座位とした。測定結果には体重や重力の要因が加味されるため,被験者間での比較は困難であるが,臨床において個々の対象者における経時的な筋力評価には有用な方法と考える。股関節外転は測定肢位を背臥位,測定方法をベルト固定法にし,測定バイアスを最小限に留めたことで,比較的高い信頼性が得られたと考える。膝関節屈曲は臨床でより簡便性を重視した徒手抵抗法にて測定した。Reeseら(2001)はHHDを使用した測定方法の制約として,検者が十分な抵抗力を与えることができない事を挙げ,検者の抵抗力が測定結果に影響を及ぼす可能性があると報告している。しかし,本研究の結果では検者内及び検者間において高い信頼性を認め,徒手抵抗による膝関節屈曲測定法の有用性が示唆された。本研究の限界は,対象が健常成人である為,実症例で同様の結果が示せるか現段階では不明であるが,本研究結果での高い信頼性は本法の有用性を支持するものとなった。
【理学療法学研究としての意義】実症例を想定した本法の検者内及び検者間信頼性の検討において有用な結果を示せたことは,今後の理学療法分野における筋力測定法の一助になると考えられる。