第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学6

2014年6月1日(日) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (基礎)

座長:吉田啓晃(東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科)

基礎 ポスター

[1512] 足趾把持力の測定肢位の検討

相馬正之1, 村田伸2, 甲斐義浩2, 中江秀幸1, 佐藤洋介1 (1.東北福祉大学健康科学部, 2.京都橘大学健康科学部)

キーワード:再現性, 足趾把持力, 健常者

【はじめに,目的】
足趾把持力は,短母指屈筋,長母指屈筋,虫様筋,短指屈筋,長指屈筋の作用により起こる複合運動であり,手指の握力に相当するものと考えられている。この足趾把持力は,転倒リスクの評価指標,足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されているが,測定肢位について十分な検討がされていない。
手指の握力では,座位での測定よりも立位の方が,また,手関節がやや背屈位で,肘関節は伸展位の肢位が最大握力を発揮できると報告されている。測定肢位別の再現性の検討も行われており,立位で肘関節90度屈曲位が最も良好であることが示されている。一方,足趾把持力では,現行の測定肢位である股・膝関節を90度屈曲位での坐位姿勢が,立位姿勢と同等に筋力発揮でき,足関節背屈位,中間位が底屈位よりも最大発揮できることが報告されている。これらの報告から足関節の最適な肢位は,現行の中間位でよいことが示唆されるが,股関節や膝関節については,不明のままである。そのため,膝関節もしくは股関節の角度変化に焦点を当てた検証が必要と思われる。また,足趾把持力では,再現性の観点から測定肢位を検討したものはない。
そこで本研究では,坐位姿勢における膝の角度変化に焦点を当て,股・膝関節90度屈曲位,股関節90度屈曲・膝伸展坐位と先行研究で報告されている立位姿勢での足趾把持力を比較し,最大筋力の発揮できる肢位および再現性の観点から測定肢位を検討した。
【方法】
対象は,健常成人女20名(平均年齢20.8±1.0歳,平均伸長159.2±5.4cm,平均体重51.9±5.3kg)とした。
測定項目は,利き足の足趾把持力とした。足趾把持力の測定肢位は,坐位における股・膝関節90度屈曲位姿勢(以下,股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢)と股関節90度屈曲・膝伸展位姿勢(以下,股関節90度屈曲・膝伸展位座位姿勢)および立位姿勢の3条件とした。また別日に同様の手順で足趾把持力を測定した。
統計処理は,3条件での足趾把持力の比較は,2回測定の平均値を代表値として反復測定分散分析を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。また,足趾把持力の再現性には,級内相関係数(1,1)を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,研究への参加は自由意志であり,被験者にならなくても不利益にならないことを口答と書面で説明し,同意を得て研究を開始した。本研究は,本大学研究倫理委員会の承認(RS1208283)を受け実施した。
【結果】
足趾把持力は,股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢が平均19.4±3.3kg,股関節90度屈曲・膝伸展位坐位姿勢が平均16.7±2.8kg,立位姿勢が平均18.6±2.6kgであった。反復測定分散分析の結果,3群間に有意な群間差(が認められた。多重比較検定の結果,股関節90度屈曲・膝伸展位坐位姿勢での足趾把持力は,股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢,立位姿勢より有意に低値を示した(p<0.05)。
級内相関係数(1,1)は,股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢がr=0.813,股関節90度屈曲・膝伸展位坐位姿勢がr=0.494,立位姿勢がr=0.780であった。
【考察】
本結果から,足趾把持力を最大発揮できる肢位は,立位姿勢と股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢の2条件であることが示された。足関節は下腿関節面が凹型の形状を持つため,中間位から背屈時では足関節が楔としてはまり込み,安定性が得られる。そのため,これらの測定肢位では,被験者自身の自重による足関節の安定性が得られるため,最大筋力が発揮できるものと考えられた。
級内相関係数については,再現性の解釈に基づくと,股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢が「良好」,立位姿勢が「普通」,股関節90度屈曲・膝伸展位坐位姿勢が「要再考」となった。股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢が最も再現性が高くなった要因には,この姿勢での測定が重心移動を伴わず,解剖学的な制限の影響が少ないことが推測された。立位姿勢での測定は,足趾把持力発揮時に重心の後方変位に伴い,体幹の前傾などの代償運動が生じやすい。また,股関節90度屈曲・膝伸展位坐位姿勢での測定では,足趾把持力発揮時に足趾を屈曲するため,腓腹筋およびハムストリングスなどの二関節筋が伸張されることで解剖学的な制限が生じやすい。そのため,これらの測定肢位では,ばらつきが生じやすいことが考えられた。
以上のことから,足趾把持力測定は,筋力を最大発揮できる肢位および再現性の観点から股・膝関節90度屈曲位坐位姿勢が最も好ましいことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されているが,測定肢位について十分な検討がされていなかった。今回,再現性の観点からの検討をしたことで,足趾把持力測定に最適な肢位を示すことができた。