第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

生体評価学6

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (基礎)

座長:吉田啓晃(東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科)

基礎 ポスター

[1513] 立位体前屈評価と歩行時エネルギー効率の関係性

上島正光 (ハーベスト医療福祉専門学校)

Keywords:歩行, エネルギー効率, 立位体前屈評価

【目的】健常者における正常歩行はエネルギー効率がとても良いといわれる。それをもとに考えれば,歩行を的確に評価するためには,エネルギー効率の良い歩行を見分ける能力が必要となる。エネルギー効率の良い歩行では歩行時の酸素摂取量が少なく二酸化炭素排出量が少ないことが報告されている。またその一要因として後足部肢位の変化(回外・回内)は,姿勢や歩行に大きな影響を与えることも報告されている。入谷式足底板では,歩行能力評価の一助として立位体前屈評価を利用することがある。実施が簡便である立位体前屈評価によってエネルギー効率の良い歩行を見分けることが可能であれば,難しいとされる歩行評価のハードルが下がる。しかしながら立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分ける手段として有用であるかは明らかになっていない。そこで立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分けることの一助として有用であるか検証することを目的に,本研究を行った。
【方法】対象は,整形外科的および内科的疾患の既往がなく,足の実測長が23.0~24.0cmの健常人女性20名(年齢19.3±0.8歳,身長156.8±2.7cm,体重52.1±5.8kg)である。研究に先立ち,対象の後足部足底面にパッドを貼付することで後足部を回外・回内誘導し,どちらの誘導で立位体前屈動作がより向上するかを調査した。立位体前屈は,台の上に自然立位で立ち,膝関節を伸展したままで最大限に前屈動作を行った際の指床間距離(以下FFD)をメジャーにて計測した。足底部に貼布するパッドは50mm×25mm,厚さ3mm(材質:ポロン)の長方形のパッドを使用し,後足部足底面の内側および外側にパッドを貼付することで後足部の回外・回内を誘導した。本研究の測定項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス測定(酸素摂取量V(dot)O2/kg,二酸化炭素排出量V(dot)CO2/kg)である。測定には呼気ガス分析装置AE-300S(ミナト社製)を使用した。裸足で至適速度での10分間の準備歩行を行った後,歩行時の呼気ガスを1分間測定した。呼気ガス測定は,1)足底部にFFDが向上する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD向上群),2)足底部にFFDが低下する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD低下群)の2条件にて行った。2条件の測定順序は循環法を用い,各測定の間隔は5分間の休憩を挟むこととした。呼気ガス測定は各条件で1回ずつ行い,その測定値を解析データとして用いた。解析項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス分析値(酸素摂取量,二酸化炭素排出量)であり,t検定を用いて2群間で比較検討した。統計解析にはSPSS Ver12.0を使用し,有意水準は5%とした。
【説明と同意】全被験者に実験概要,データの取り扱い,データの使用目的を示す書面を提示し,口頭にて説明したのち,同意書に署名いただいた上で本研究を行った。
【結果】酸素摂取量は,FFD向上群5.93±2.28 l/min/kg,FFD低下群7.46±1.25 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量は有意に少なかった(p<0.05)。二酸化炭素排出量は,FFD向上群5.12±1.82 l/min/kg,FFD低下群7.73±2.98 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において二酸化炭素排出量は有意に少なかった(p<0.05)。
【考察】本研究は,FFDが向上する後足部誘導を行った群と,FFDが低下する後足部誘導を行った群の2群間における歩行時の呼気ガス値を比較検討したものである。後足部肢位に回外・回内の変化を加えることは,立位姿勢や歩行に影響を与えることが数多く報告されている。本研究においても,後足部誘導によりFFDに変化がみられた。他研究同様,後足部肢位が変化することで立位アライメントにも変化が加わり,結果的に全身の筋緊張が変化したことが要因と考えられる。呼気ガス分析の結果は,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量および二酸化炭素排出量ともに有意に少なかった。このことはFFD向上群において歩行時の筋活動が少なかったことを示唆し,FFD向上群では歩行のエネルギー効率が良いと言える。2群間の測定条件は後足部肢位に差異があるのみであり,後足部肢位の変化が歩行時の筋活動に影響を与えていたものと推測される。結果的にFFD向上群では姿勢保持に必要な筋活動が少なく,歩行時のエネルギー効率も良くなったと考えられる。歩行時の呼気ガス値は歩行のエネルギー効率を表す一要素でしかないが,立位体前屈評価はエネルギー効率の良い歩行を見分ける一助となる可能性があるのはないだろうか。
【理学療法学研究としての意義】歩行評価が苦手な理学療法士は多いが,エネルギー効率の良い歩行を見分けるための補助手段として,立位体前屈評価を利用できるのではないだろうか。