[1514] 当院における同種造血幹細胞移植患者に対するチーム医療での廃用予防への取り組み
キーワード:造血幹細胞移植, チーム医療, 廃用
【はじめに,目的】近年,造血幹細胞移植後の廃用予防を目的とした移植前後にかけての理学療法による介入が重要視されつつあり,当院でも2012年9月から実施している。しかし,諸家の報告によると,積極的な理学療法の介入にもかかわらず,移植前後では握力・下肢筋力・運動耐用能・柔軟性などが低下すると報告されている。そこで,移植患者の廃用予防のために理学療法に加えて,血液内科医師・看護師と共同して積極的にアプローチしたので,その結果について検討する。
【方法】当院における移植前後の廃用予防への取り組みは,移植前の教育入院時に血液内科医師・看護師・理学療法士にて作成した自主練習用のDVD・リハビリパンフレットの配布・説明。移植入院時は移植前から理学療法を開始しオリエンテーション・移植前評価・個別練習と自主練習メニューの作成・指導。さらに個室管理中の前処置・移植から生着までの血球減少期,個室管理解放後から退院まで理学療法を施行した。また,毎週看護師と共に患者の全身状態を踏まえた自主練習メニューの作成,チェックシートを用いた日々の達成度の確認・ポジティブフィードバックを行いチーム医療で取り組んでいる。対象は2012年9月から2013年8月までに当院にて同種造血幹細胞移植を施行した56例のうち,筋力評価が可能であった27例とした。対象者の内訳は,性別は男性14例/女性13例,年齢は40.2±15.4歳,疾患は急性骨髄性白血病10例,急性リンパ性白血病7例,骨髄異形成症候群6例,低形成白血病1例,成人T細胞白血病リンパ腫1例,慢性骨髄性白血病1例,顆粒肉腫1例,前処置の種類は骨髄破壊的前処置18例/骨髄非破壊的前処置9例,ドナーは血縁2例/非血縁25例,幹細胞は骨髄20例/末梢血5例/臍帯血2例であった。評価項目は,握力・股関節外転筋力・膝関節伸展筋力とし,評価日は移植前理学療法介入時と移植後30日とした。股関節外転筋力,膝関節伸展筋力は,徒手筋力測定器ミュータスF-1(アニマ社製)を用いて加藤らの方法にて測定した。握力はSMEDLY’S HAND DYNAMO METER(松宮医科精器製作所)を用いて文部科学省新体力テスト実施要項の方法にて測定した。筋力値は,左右各2回測定し最大値を採用した。さらに左右最大値を平均した実測値とこれを体重で除した体重比とした。統計処理は,Dr SPSS for Windowsにて移植前と移植後30日の比較に対応のあるt検定を用いて有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した。
【結果】実測値では,握力は移植前29.3±9.2vs移植後30日27.3±8.7kg(P<0.01),股関節外転筋力は移植前18.4±6.8vs移植後30日17.1±5.2kgf(N.S.),膝関節伸展筋力は移植前24.5±7.6vs移植後30日22.4±6.9kgf(P<0.01)となった。体重比では,握力は移植前0.53±0.14vs移植後30日0.51±0.15kg/kg(N.S.),股関節外転筋力は移植前0.33±0.10vs移植後30日0.32±0.08kgf/kg(N.S.),膝関節伸展筋力は移植前0.44±0.10vs移植後30日0.41±0.10kgf/kg(N.S.)となった。
【考察】移植前後における理学療法の介入による身体機能の変化については,これまでも報告がある。森下らは,無菌室おいても運動療法を施行し積極的に介入したが,実測値における握力・膝関節伸展筋力は有意に低下したと報告している。また,八並らは無菌室滞在中も理学療法を介入したにもかかわらず,握力・下肢伸展筋力は実測値・体重比共に有意に低下したと報告している。我々は廃用予防の取り組みに医師・看護師・理学療法士によるチーム医療を実施した結果,実測値では移植前後で筋力が有意に低下し諸家の報告と同様の結果となったが,体重比では筋力低下が見られなかった。実測値における筋力の低下は,移植後の合併症による口腔内痛や咽頭痛,悪心,嘔吐,倦怠感などによる摂食困難のため,体重減少に伴い筋量も低下したことが大きな要因になったと思われる。今後は栄養状態の改善が理学療法の効果につながる可能性があり,栄養課や口腔外科とより一層連携を強めることが重要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】造血幹細胞移植患者におけるチーム医療への理学療法士の介入は,多職種と積極的に関わることにより,患者の全身状態の把握が可能となり,適切な運動の量や負荷の設定など理学療法士の専門性を活かすことができる。また,廃用予防を目的としたチーム医療での取り組みは,患者の活動量の低下を軽減し,移植前後で体重比における筋力を維持できたことは,理学療法学研究として意義があると思われる。
【方法】当院における移植前後の廃用予防への取り組みは,移植前の教育入院時に血液内科医師・看護師・理学療法士にて作成した自主練習用のDVD・リハビリパンフレットの配布・説明。移植入院時は移植前から理学療法を開始しオリエンテーション・移植前評価・個別練習と自主練習メニューの作成・指導。さらに個室管理中の前処置・移植から生着までの血球減少期,個室管理解放後から退院まで理学療法を施行した。また,毎週看護師と共に患者の全身状態を踏まえた自主練習メニューの作成,チェックシートを用いた日々の達成度の確認・ポジティブフィードバックを行いチーム医療で取り組んでいる。対象は2012年9月から2013年8月までに当院にて同種造血幹細胞移植を施行した56例のうち,筋力評価が可能であった27例とした。対象者の内訳は,性別は男性14例/女性13例,年齢は40.2±15.4歳,疾患は急性骨髄性白血病10例,急性リンパ性白血病7例,骨髄異形成症候群6例,低形成白血病1例,成人T細胞白血病リンパ腫1例,慢性骨髄性白血病1例,顆粒肉腫1例,前処置の種類は骨髄破壊的前処置18例/骨髄非破壊的前処置9例,ドナーは血縁2例/非血縁25例,幹細胞は骨髄20例/末梢血5例/臍帯血2例であった。評価項目は,握力・股関節外転筋力・膝関節伸展筋力とし,評価日は移植前理学療法介入時と移植後30日とした。股関節外転筋力,膝関節伸展筋力は,徒手筋力測定器ミュータスF-1(アニマ社製)を用いて加藤らの方法にて測定した。握力はSMEDLY’S HAND DYNAMO METER(松宮医科精器製作所)を用いて文部科学省新体力テスト実施要項の方法にて測定した。筋力値は,左右各2回測定し最大値を採用した。さらに左右最大値を平均した実測値とこれを体重で除した体重比とした。統計処理は,Dr SPSS for Windowsにて移植前と移植後30日の比較に対応のあるt検定を用いて有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した。
【結果】実測値では,握力は移植前29.3±9.2vs移植後30日27.3±8.7kg(P<0.01),股関節外転筋力は移植前18.4±6.8vs移植後30日17.1±5.2kgf(N.S.),膝関節伸展筋力は移植前24.5±7.6vs移植後30日22.4±6.9kgf(P<0.01)となった。体重比では,握力は移植前0.53±0.14vs移植後30日0.51±0.15kg/kg(N.S.),股関節外転筋力は移植前0.33±0.10vs移植後30日0.32±0.08kgf/kg(N.S.),膝関節伸展筋力は移植前0.44±0.10vs移植後30日0.41±0.10kgf/kg(N.S.)となった。
【考察】移植前後における理学療法の介入による身体機能の変化については,これまでも報告がある。森下らは,無菌室おいても運動療法を施行し積極的に介入したが,実測値における握力・膝関節伸展筋力は有意に低下したと報告している。また,八並らは無菌室滞在中も理学療法を介入したにもかかわらず,握力・下肢伸展筋力は実測値・体重比共に有意に低下したと報告している。我々は廃用予防の取り組みに医師・看護師・理学療法士によるチーム医療を実施した結果,実測値では移植前後で筋力が有意に低下し諸家の報告と同様の結果となったが,体重比では筋力低下が見られなかった。実測値における筋力の低下は,移植後の合併症による口腔内痛や咽頭痛,悪心,嘔吐,倦怠感などによる摂食困難のため,体重減少に伴い筋量も低下したことが大きな要因になったと思われる。今後は栄養状態の改善が理学療法の効果につながる可能性があり,栄養課や口腔外科とより一層連携を強めることが重要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】造血幹細胞移植患者におけるチーム医療への理学療法士の介入は,多職種と積極的に関わることにより,患者の全身状態の把握が可能となり,適切な運動の量や負荷の設定など理学療法士の専門性を活かすことができる。また,廃用予防を目的としたチーム医療での取り組みは,患者の活動量の低下を軽減し,移植前後で体重比における筋力を維持できたことは,理学療法学研究として意義があると思われる。