第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

その他3

2014年6月1日(日) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (内部障害)

座長:田仲勝一(香川大学医学部附属病院リハビリテーション部)

内部障害 ポスター

[1515] 同種造血幹細胞移植患者の移植前のサルコペニア罹患率と身体機能との関係

武清孝弘1, 宇都宮與2, 村山芳博1, 前田亜矢子1, 三石敬之3, 奈良聡一郎3, 吉田一成3, 中野伸亮2, 窪田歩2, 徳永雅仁2, 竹内昇吾2, 高塚祥芝2, 堂園浩一朗3 (1.公益財団法人慈愛会今村病院分院リハビリセンター, 2.公益財団法人慈愛会今村病院分院血液内科, 3.公益財団法人慈愛会今村病院分院リハビリテーション科)

キーワード:造血幹細胞移植, サルコペニア, 運動療法

【はじめに】
悪性腫瘍患者は,腫瘍そのものの影響や治療,活動性低下,栄養障害,悪液質などによりサルコペニアをきたしやすいと考えられている。造血器腫瘍患者に対する造血幹細胞移植において,移植前後のリハビリテーション実施は,移植患者の体力・QOL維持・改善に有効であると報告されている。しかし,移植後の身体機能変化に関する報告は散見されるが,移植前の身体機能に関した報告はほとんどない。今回,移植患者の移植前のサルコペニア罹患と身体機能・臨床パラメータとの関連について検討した。
【方法】
対象は,平成22年2月から平成25年9月までに当院血液内科で同種造血幹細胞移植を受けた造血器腫瘍患者である。男性:49名,女性:35名,年齢中央値54歳,疾患名は,成人T細胞性白血病(ATL)41名,急性骨髄性白血病(AML)16名,骨髄異形成症候群(MDS)14名,急性リンパ性白血病(ALL)7名,非ホジキンリンパ腫(NHL)4名,ホジキンリンパ腫(HL)1名,骨髄線維症(MF)1名であった。
サルコペニアは,European Working Group on Sarcopenia in Older Peopleの基準に基づき,男性:絶対筋肉量/身長2<10.75kg/m2・握力<30kg,女性:絶対筋肉量/身長2<6.75kg/m2・握力<20kgをともに満たすものと定義した。身体機能評価は6分間歩行距離(6MD)と握力を,体組成評価は生体電気インピーダンス体組成測定機器Physion MD(フィジオン社製)を用いて筋肉量を測定した。評価時期は,移植約2週間前とした。
サルコペニア罹患率とサルコペニアの有無による身体機能,臨床パラメータ(総タンパク:TP,血清アルブミン値:Alb,ヘモグロビン値:Hb,Body Mass Index:BMI)との関連について検討した。統計処理は,2群間の比較は,対応のないt検定,マン・ホイットニ検定を用いた。サルコペニアの有無に影響を及ぼす因子の検討は,サルコペニアの有無を従属変数に,独立変数は疾患,臨床パラメータ,診断から移植までの日数,移植時状態(寛解・非寛解),疾患名としてロジスティック回帰分析を行った。
【説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象者には,研究の趣旨を説明し同意を得て行った。
【結果】
評価時のADLは,全例自立しており,ECOG perforance statusは,1例(PS 2)を除き全例0または1であった。患者背景は,サルコペニア有:サルコペニア無の順に,年齢中央値(歳)54:53,診断から移植までの日数中央値(日)203:225,移植歴有(名)1:4,疾患別では,ATL(名)20:21,AML 4:12,MDS 3:11,ALL 4:3,NHL 1:3,HL 0:1,MF 0:1であった。対象84名のうち,サルコペニアは32名(男性24名,女性8名)の38.1%みられた。サルコペニアの有無に影響する変数として,BMI,TP,性別(男性),疾患(ATL)が選択された。評価項目別では,サルコペニア有:サルコペニア無の順に,筋肉量(kg)は,男性21.7:26.3,女性13.9:17.5でありサルコペニア群が有意に低かった(p<0.01)。身体機能では,握力(kg)は男性26.2:36.1,女性16.1:21.9,6MD(m)は男性449.0:509.4,女性420.1:432.1であり握力,6MD(男性)で有意にサルコペニア群が低かった(p<0.01)。臨床パラメータでは,TP(g/dl)は男性6.4:6.7,女性6.1:6.6,Alb(g/dl)は男性3.9:4.1,女性3.8:3.9,BMI(%)は男性20.5:22.7,女性19.0:21.2であり,男性はBMI(p<0.01)が,女性はTP(p=0.04)においてサルコペニア群が有意に低かった。
【考察】
移植患者は,移植前にすでに身体機能低下を起こしているといわれているが,今回,同種造血幹細胞移植患者全体の38.1%がサルコペニアを認め,BMI,TP,性別,疾患がサルコペニア罹患に関係していた。また,男性のサルコペニア症例では,筋力低下のみではなく,持久力低下にも影響を及ぼしていた。そのため,移植前早期からのリハビリテーションと栄養管理が重要と考えられる。特に,疾患ではATL,性差では男性において,化学療法開始時期から活動性を維持することの重要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の検討で,同種造血幹細胞移植患者の約4割の症例で移植前にサルコペニアを認めており,移植前からすでに身体機能や栄養状態に問題のある可能性が示唆された。移植患者は,寛解導入療法,地固め療法など移植に至るまでに多くの化学療法を受けるため,徐々に活動制約や食欲不振などのディコンディション状態に陥りやすい。そのため,移植予定患者は,化学療法を受ける時期から栄養管理や活動性維持を図ることが重要であると考えられた。本研究は,理学療法士が移植医療チームの一つとして移植予定患者に対する早期からの運動療法の重要性を示す意義あるものと考えられる。