第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

その他3

2014年6月1日(日) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (内部障害)

座長:田仲勝一(香川大学医学部附属病院リハビリテーション部)

内部障害 ポスター

[1516] 造血幹細胞移植1年後の身体機能の変化について

宮村大治郎1, 姫島美幸1, 門手和義1, 永井勝信1, 大黒篤1, 蘆澤正弘2 (1.自治医科大学附属さいたま医療センターリハビリテーション部, 2.自治医科大学附属さいたま医療センター血液科)

キーワード:造血幹細胞移植, 身体機能, 下肢筋力低下

【背景】
造血幹細胞移植施行患者は退院後も日常生活上の行動の制限があり以前の生活と違いが出てくるため,退院直後の早期の社会復帰は困難な事が多い。移植後1年を経過した症例において,ADLに困難さを感じているという報告もある。本研究では,移植1年後の筋力や持久力の変化を後方視的に調査することで,今後の介入方法の変更を検討する事を目的とした。
【対象・方法】
対象は,当院血液科にて2009年10月から2012年10月までの間で造血幹細胞移植を施行後に自宅退院し,1年後に理学療法評価が実施できた26例とした。調査項目は,性別,移植時年齢,原疾患,移植ソース,無菌室入室期間,入院期間,入院期間中の1日あたりの歩数量(以下,1日あたりの歩数量),再入院歴,1年後の免疫抑制剤の使用,復職状況,等尺性膝伸展筋力(μtas;アニマ社製),6分間歩行距離として,後方視的に診療録を調査した。理学療法評価期間は,移植から2週間前までの間に移植前評価を実施し,1年後評価は移植後12±1ヶ月に実施した。理学療法士の介入は入院期間中に限り基本的に週1回として,その他は自主トレーニングとした。また退院時指導は,入院期間中に指導した下肢筋力強化方法と屋外歩行による有酸素運動とした。統計解析は,移植前における両側等尺性膝伸展筋力の平均値の体重比50%を基準として筋力低下群と筋力非低下群に分け,移植時年齢,無菌室入室期間,入院期間,1日あたりの歩数量,等尺性膝伸展筋力の変化量(1年後),6分間歩行距離の変化量(1年後を移植前の値で除算)については,Mann-WhitneyのU検定を行った。また,性別,再入院歴,1年後の免疫抑制剤の使用,復職状況については,χ2乗検定を行った。有意水準は5%で有意差ありと判定した。
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言および当院の臨床研究に関する倫理指針に従って実施した。データは個人情報保護に十分に注意して調査した。
【結果】対象の性別は,男性17例,女性9例,移植時年齢は中央値44(18-64)歳,原疾患はAML13例,ALL4例,MDS3例,AA3例,その他3例,移植ソースは骨髄移植11例,末梢血幹細胞移植9例,臍帯血6例であった。移植前に筋力低下群は11例,筋力非低下群は15例であった。復職した群は15例,復職して無い群は11例であった。筋力低下群は,移植時年齢が有意に高く(54.5±9.9歳vs. 36.3±13.5歳,p=.001),1年後の等尺性膝伸展筋力は有意に低下していた(0.54±0.17 kg/kg vs. 0.78±0.20 kg/kg,p=.003)。性別,入院期間,無菌室入室期間,1日あたりの歩数量,再入院歴,1年後の免疫抑制剤の使用,復職状況,6分間歩行距離の変化量については有意差が認められなかった。
【今後の課題】
2013年のがんのリハビリテーションガイドラインによると,移植患者の4割が身体機能の回復に1年を要し,3割が体力低下のために移植後2年間職業復帰できなかったとの報告がある。我々の施設において,筋力低下群は移植後1年の両側等尺性膝伸展筋力の平均値の体重比が50%以上を越えたものの,非筋力低下群に比べて筋力低下が残存していた。また,全体の約4割が職業復帰困難となっていた。今後,移植前に筋力低下している症例や50歳以上の症例に対して介入頻度を上げる事や,実際の退院後の生活についてアンケート調査などを検討する事が必要であると考えられた。
【理学療法研究の意義】
本邦において移植1年後の身体機能についての報告はほとんどみられず,本研究において移植1年後に筋力低下の残存が認められることを示したことは,今後に造血幹細胞移植患者への介入する際の一助となり得る。