[1519] シリコンライナーの装着肢位の違いが姿勢に与える影響
Keywords:大腿切断, 義足, 姿勢
【はじめに】
下肢切断患者において弾性包帯やシリコンライナー(以下,ライナー)は,断端の浮腫をコントロールし,創治癒を促進させ断端管理のために使用される。また拘縮を作らないよう良肢位を保持する巻き方・装着方法に配慮が必要である。弾性包帯の巻き方は,引く方向や引く力について明確にされているが,ライナーの装着姿勢は明らかにされていない。今回,股関節伸展可動域を有しているが,腰椎の前弯が増強していた両側大腿切断者に対して,ライナーの装着肢位を変更することで背臥位・立位・歩行に姿勢変化がみられたので報告する。
【方法】
症例は50歳代の女性である。2013年X月に事故による両大腿切断術を施行した。X月+3ヶ月に車いすで自宅退院し,X月+6ヶ月目に義足作製目的で当センターに入院した。本検討はX月+8ヶ月の時点である。切断長は右10cm,左15cm,関節可動域角度は股関節伸展が右5度,左10度,股関節内転が右5度,左10度である。車いすによる日常生活活動は自立していた。病棟内の歩行器歩行は自立し,理学療法中は両ロフストランド杖での見守り歩行が屋内100m程度可能であった。
背臥位での腰痛,車いす座位での鼠径部の詰まりの主訴や立位時の腰椎前弯増強,歩行時の体幹前傾が観察された。義足非装着時には両下肢の重量が軽いため,背臥位で下肢が浮き上がっていた。背臥位,座位での腸腰筋の過剰収縮および持続的な収縮が腰椎前弯を増強させ,腰痛や鼠径部の詰まりが生じていると考えられた。そのため,腸腰筋が弛緩し骨盤が後傾方向へ可動でき,下肢が伸展支持できるようライナーを股関節伸展位で装着することを検討した。股関節屈曲位である端坐位(以下,屈曲装着)と股関節を自動的に伸展した背臥位(以下,伸展装着)で比較した。比較項目は,背臥位での自然な股関節屈曲角度(以下,下肢浮き上がり角度),義足装着立位での体幹前傾角・股関節屈曲角,10m歩行時間・歩数である。また,歩行を矢状面上で動画撮影し,歩容や足趾離地(以下,TO)時の股関節伸展角度を解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
症例に本発表の目的と内容を説明し,同意を得た。また当センター倫理委員会で承認を得た(承認番号H25-14)。
【結果】
腰痛や鼠径部の詰まりは消失した。下肢浮き上がり角度は屈曲装着と伸展装着で,各々右が25度と10度,左が15度と0度であり,伸展装着で減少した。立位で体幹は右が前傾1度と前傾2度,左が前傾2度と後傾5度,股関節屈曲角は右が33度と15度,左が16度と19度であった。
両ロフストランド杖歩行では,屈曲装着より伸展装着で体幹前傾位が軽減しており,遊脚期での骨盤挙上は伸展装着の方が緩やかであった。10m歩行時間・歩数は屈曲装着で26.8秒,29歩,伸展装着で23.6秒,27歩,TOでの右股関節伸展は屈曲装着で7度,伸展装着で10度であった。症例の主観的な評価は,「伸展装着の方が鼠径部の詰まりがなく,気持ちが良い」であった。
【考察】
症例は車いす座位での鼠径部の詰まりを訴えていた。また,立位では腰椎前弯が増強し,10分程度の立位で腰部の倦怠感が生じていた。大腿切断者は,腸腰筋の筋張力から股関節屈曲拘縮を伴うことが多い。両大腿切断者にとって,股関節の伸展制限が生じることは背臥位でも立位・歩行時でも安楽な姿勢を得られにくいと考える。腰椎前弯を軽減することは腰背筋や大腰筋の過剰収縮を軽減し,大殿筋を収縮しやすい環境になると考えた。ライナーは皮膚と密着するので,装着した時の皮膚との位置関係に戻ろうとし,股関節伸展位で装着することにより,屈曲位よりも股関節伸展運動時の抵抗は減少する。また,股関節屈曲位で装着した際にライナーに収納しきれなかった殿部の軟部組織が股関節伸展運動を妨げる要因になる可能性もある。伸展装着は皮膚抵抗や軟部組織に運動が阻害されず,背臥位・立位・歩行時の股関節屈曲角度が軽減したと考えられる。義足装着時の股関節伸展方向への牽引力が増したことにより,残存能力を発揮させ歩行効率が向上したと考えられる。伸展位で装着することにより,立位や歩行時に股関節の伸張のしやすさを感じている。ライナーの装着肢位の違いにより,履き心地と機能性と歩行能力に変化がみられた。今後は矢状面だけでなく,前額面上の変化も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
ライナーの装着肢位の違いが背臥位・立位・歩行に影響することを明らかにした。大腿義足使用者はライナーが股関節を介している。ライナーの装着肢位を考慮することで,股関節機能を最大限発揮でき,歩行を改善するだけでなく,臥位姿勢や疼痛の改善にも良好な結果が得られた。日常生活活動を評価する理学療法士にとって,補装具の使用方法の指導は重要である。
下肢切断患者において弾性包帯やシリコンライナー(以下,ライナー)は,断端の浮腫をコントロールし,創治癒を促進させ断端管理のために使用される。また拘縮を作らないよう良肢位を保持する巻き方・装着方法に配慮が必要である。弾性包帯の巻き方は,引く方向や引く力について明確にされているが,ライナーの装着姿勢は明らかにされていない。今回,股関節伸展可動域を有しているが,腰椎の前弯が増強していた両側大腿切断者に対して,ライナーの装着肢位を変更することで背臥位・立位・歩行に姿勢変化がみられたので報告する。
【方法】
症例は50歳代の女性である。2013年X月に事故による両大腿切断術を施行した。X月+3ヶ月に車いすで自宅退院し,X月+6ヶ月目に義足作製目的で当センターに入院した。本検討はX月+8ヶ月の時点である。切断長は右10cm,左15cm,関節可動域角度は股関節伸展が右5度,左10度,股関節内転が右5度,左10度である。車いすによる日常生活活動は自立していた。病棟内の歩行器歩行は自立し,理学療法中は両ロフストランド杖での見守り歩行が屋内100m程度可能であった。
背臥位での腰痛,車いす座位での鼠径部の詰まりの主訴や立位時の腰椎前弯増強,歩行時の体幹前傾が観察された。義足非装着時には両下肢の重量が軽いため,背臥位で下肢が浮き上がっていた。背臥位,座位での腸腰筋の過剰収縮および持続的な収縮が腰椎前弯を増強させ,腰痛や鼠径部の詰まりが生じていると考えられた。そのため,腸腰筋が弛緩し骨盤が後傾方向へ可動でき,下肢が伸展支持できるようライナーを股関節伸展位で装着することを検討した。股関節屈曲位である端坐位(以下,屈曲装着)と股関節を自動的に伸展した背臥位(以下,伸展装着)で比較した。比較項目は,背臥位での自然な股関節屈曲角度(以下,下肢浮き上がり角度),義足装着立位での体幹前傾角・股関節屈曲角,10m歩行時間・歩数である。また,歩行を矢状面上で動画撮影し,歩容や足趾離地(以下,TO)時の股関節伸展角度を解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
症例に本発表の目的と内容を説明し,同意を得た。また当センター倫理委員会で承認を得た(承認番号H25-14)。
【結果】
腰痛や鼠径部の詰まりは消失した。下肢浮き上がり角度は屈曲装着と伸展装着で,各々右が25度と10度,左が15度と0度であり,伸展装着で減少した。立位で体幹は右が前傾1度と前傾2度,左が前傾2度と後傾5度,股関節屈曲角は右が33度と15度,左が16度と19度であった。
両ロフストランド杖歩行では,屈曲装着より伸展装着で体幹前傾位が軽減しており,遊脚期での骨盤挙上は伸展装着の方が緩やかであった。10m歩行時間・歩数は屈曲装着で26.8秒,29歩,伸展装着で23.6秒,27歩,TOでの右股関節伸展は屈曲装着で7度,伸展装着で10度であった。症例の主観的な評価は,「伸展装着の方が鼠径部の詰まりがなく,気持ちが良い」であった。
【考察】
症例は車いす座位での鼠径部の詰まりを訴えていた。また,立位では腰椎前弯が増強し,10分程度の立位で腰部の倦怠感が生じていた。大腿切断者は,腸腰筋の筋張力から股関節屈曲拘縮を伴うことが多い。両大腿切断者にとって,股関節の伸展制限が生じることは背臥位でも立位・歩行時でも安楽な姿勢を得られにくいと考える。腰椎前弯を軽減することは腰背筋や大腰筋の過剰収縮を軽減し,大殿筋を収縮しやすい環境になると考えた。ライナーは皮膚と密着するので,装着した時の皮膚との位置関係に戻ろうとし,股関節伸展位で装着することにより,屈曲位よりも股関節伸展運動時の抵抗は減少する。また,股関節屈曲位で装着した際にライナーに収納しきれなかった殿部の軟部組織が股関節伸展運動を妨げる要因になる可能性もある。伸展装着は皮膚抵抗や軟部組織に運動が阻害されず,背臥位・立位・歩行時の股関節屈曲角度が軽減したと考えられる。義足装着時の股関節伸展方向への牽引力が増したことにより,残存能力を発揮させ歩行効率が向上したと考えられる。伸展位で装着することにより,立位や歩行時に股関節の伸張のしやすさを感じている。ライナーの装着肢位の違いにより,履き心地と機能性と歩行能力に変化がみられた。今後は矢状面だけでなく,前額面上の変化も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
ライナーの装着肢位の違いが背臥位・立位・歩行に影響することを明らかにした。大腿義足使用者はライナーが股関節を介している。ライナーの装着肢位を考慮することで,股関節機能を最大限発揮でき,歩行を改善するだけでなく,臥位姿勢や疼痛の改善にも良好な結果が得られた。日常生活活動を評価する理学療法士にとって,補装具の使用方法の指導は重要である。