第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅13

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:上岡裕美子(茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科)

生活環境支援 ポスター

[1521] 脳卒中患者を対象としたロボットスーツHALの動作支援効果に関する研究

河西理恵1, 武田朴2, 山口凌1 (1.東京工科大学医療保健学部理学療法学科, 2.東京工科大学医療保健学部臨床工学科)

Keywords:ロボットスーツHAL, 加速度計, 筋電図

【はじめに,目的】
ロボットスーツHAL福祉用(以下:HAL)は現在多くの医療現場に導入されており,HALによる歩行速度や歩幅の改善効果を示す報告も多い。しかし,HALの動作支援効果について生体信号を用いて定量的に示した報告は少ない。近年,高性能で安価な加速度計が開発され,様々な分野で使用されている。加速度計は簡便かつ無拘束で測定可能なため,臨床現場で簡便に使用できる定量的な評価ツールとして注目されている。今回,維持期脳卒中患者1名の立ち上がり動作について,加速度計と筋電図によりHAL装着時の体幹の姿勢変化および下肢の筋活動について検討したので報告する。なお,本研究の一部は文部科学省科学研究費の助成を受けて実施した。
【方法】
症例は約20年前に脳梗塞を発症し,左片麻痺を呈した70代男性である。Brunnstrom Stageは上下肢ともにIVで,立ち上がり動作は上肢支持にて可能である。HALは両脚用を使用した。筋電計に内蔵された3軸加速度センサを症例の腰部(L3)と頸部(C7)に固定した。立ち上がり動作の矢状面の映像をビデオカメラで撮影し,加速度計と同期させた。ビデオ映像と加速度の時系列データから,立ち上がり動作の開始,離殿,動作完了のタイミングを特定し,HAL装着の有無による動作の所要時間を比較した。測定はHAL装着前・HAL装着時・HAL装着後に各3回行い,疲労の影響を除去するため適宜休憩を取り入れた。立ち上がり動作時の前後の加速度波形から,離殿時および立位完了時の平均腰部傾斜角度(以下:腰部角)と平均頸部傾斜角度(以下:頸部角)を算出し,HAL装着の有無で比較した。筋電図の導出筋は麻痺側および非麻痺側の内側広筋とした。HAL装着前・装着時・装着後の積分筋電図の平均値を求め,麻痺側と非麻痺側の筋活動パターンを比較した。なお,加速度データはサンプリング周波数50Hz,筋電図は1000HzでAD変換しコンピュータに取り込んだ。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は東京工科大学倫理委員会の承認を得,症例には事前に研究内容を説明し,文書にて同意を得て実施した。
【結果】
立ち上がり動作に要する平均時間は,HAL非装着時が4.0秒,HAL装着時は5.8秒で,HAL装着により立ち上がりに要する時間が増加した。腰部と頸部の姿勢変化は,装着前における離殿時の腰部角41°,頸部角39°に対し,装着時の腰部角43°,頸部角21°,装着後の腰部角46°,頸部角23°となり,装着時と装着後で離殿時の頸部前傾角度が減少した。立位完了時では装着前の腰部角10°,頸部角26°に対し,装着時の腰部角15°,頸部角19°,装着後の腰部角3°,頸部角24°で,装着前に比べ装着時と装着後で体幹の伸展角度が増加した。積分筋電図の非麻痺側に対する麻痺側内側広筋の振幅比率は,装着前20%,装着時26%,装着後27%となり,HAL装着により30%程度の筋活動量が増加した。しかし,HAL装着前の筋電図の包絡線は動作開始から実際に筋放電が増加するまでに0秒から1.5秒のばらつきがみられ,かつ包絡線自体の再現性も乏しかった。一方,HAL装着時の包絡線は動作開始から離殿にかけ単調増加した後,離殿から立位完了まで単調減少し,立位完了後に振幅が小さくなり,ある程度再現性のある波形を示した。
【考察】
本研究の結果,HAL装着により立ち上がり時間が増大することが示された。これは,HAL自体の重量に加え,HALが生体電位を検出後,アシストを開始するまでの遅れを症例が認識し,HALの動作に合わせて動作を遅らせたことが原因であると推察した。立ち上がり動作における姿勢変化では,装着前に比べ装着時と装着後で離殿時に頸部の前傾角度が減少した。この原因として,離殿時にはHALが腰部の前傾をアシストするため,その対応として頸部の立ち直りが起きるのではないかと推察した。また,HAL装着時と装着後において立位完了時の頸部角と腰部角が減少したことは,HAL装着により,直立に近い立位姿勢が可能となることを示唆している。一方,筋電図は再現性のある結果が得られなかった。この理由として,脳卒中患者の場合,痙性等による異常な筋電図が混入しやすく,動作に要する時間も不安定であることが挙げられる。それに対し,加速度計による姿勢測定は脳卒中患者においても容易に実施でき,かつ再現性も良好であった。今後の課題として,被験者数を増やすとともに,これまでの知見を脳卒中患者の歩行動作に適用し,脳卒中患者における加速度計の姿勢・動作解析パラメータとしての有用性を検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
臨床現場で簡便に使用できる加速度計によるパラメータを活用し,HALの有効性について定量的な効果判定を行うことは,今後の理学療法の発展に寄与すると考える。