[1524] Insoleタイプの底屈補助装具の開発とその効果に関する一考察
キーワード:装具, 底屈補助, 歩行障害
【はじめに】
脳血管障害患者の歩行障害は理学療法において重要な課題のひとつであり,臨床ではエビデンスに基づき装具療法が一般的に行われている。底屈補助機能に着目すると,足関節背屈に重点を置いた中での一要素として底屈補助を有している短下肢装具は存在するものの,足関節は装具で覆われており足関節の運動は継手もしくはプラスチックの可撓性に依存しているためその運動は非生理学的である。装具を必要としない軽症例において蹴りだしを十分に行えない症例は臨床では珍しくなく,それを補助するような装具の開発と理学療法の施行は重要な課題である。そこで今回,底屈を補助する足底板装具の開発に着手し,開発した底屈補助装具の発生力の検証と歩行における効果について若干の考察を加えここに報告する。
【方法】
靴の中敷きと同様の形で足底板を作成する。素材はポリプロピレン,厚みは3mm,第1MP関節と第5MP関節を結ぶ線で25°折り曲げる。折り曲げた足底板の凸側を上向きにして靴内に挿入し歩行を行う。この底屈補助装具が持つ発生力の検証にはNMB社製荷重測定器LTS-500Nを使用し,装具が平板化する直前の値を計測した。歩行の効果検討は健常男性11名を対象とし,年齢28.5±5.3歳,体重65.2±5.2kgであった。歩行は装具非装着時(normal)と右下肢の装具装着時(insole)でそれぞれ10回歩行計測を行ない,右下肢のデータを解析した。歩行解析はリアルタイム3次元動作解析システムMAC3Dを使用し,3DマッスルシミュレーターARMOを用いて右の蹴りだしに着目して1)左踵接地から右足趾離地までの両脚支持期と2)両脚支持期における左右等荷重の時期から右足趾離地までの2通りの時期の両脚支持期時間・Y軸進行方向重心速度・Y軸進行方向床反力・底屈モーメントを計測し,底屈モーメントは積分値を算出した。Y軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から仕事率を算出し,積分して仕事を算出した。サンプリングレートは120Hz,各項目の統計処理はpaired t-testを用い有意水準は5%以下とした。統計ソフトはStatFlex V.6.0を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的,内容について説明し,拒否しても一切不利益が生じないことを文書と口頭にて説明し同意を得た。尚,本研究はヘルシンキ宣言に基づき神戸学院大学の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:HEB120827-1)。
【結果】
開発した底屈補助装具がもつ最大発生力は372.4Nであり,折り曲げる角度を5°単位・厚みをmm単位で変えてそれぞれ測定するもどれも上記の値に近いものであった。1)左踵接地から右足趾離地までの両脚支持期におけるY軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から算出した仕事はNormal:17.3±4.6J,Insole:17.6±4.3J(P=0.4476)で有意差は認めなかった。底屈モーメントの積分値はNormal:883.4±208.6Nm・sec,Insole:1000.4±142.6Nm・sec(P=0.0120),両脚支持時間はNormal:0.118±0.018秒,Insole:0.132±0.015秒(P=0.0002)と有意差を認めた。2)両脚支持期における左右等荷重の時期から右足趾離地におけるY軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から算出した仕事はNormal:3.5±1.1J,Insole:3.8±1.1J(P=0.0083),底屈モーメントの積分値はNormal:150.8±23.9Nm・sec,Insole:187.0±24.4Nm・sec(P=0.0000)と有意差を認めた。
【考察】
左踵接地から右足趾離地までの両脚支持期においてY軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から算出した仕事に有意差は認めなかったが,両脚支持時間はInsoleで有意に延長し,両脚支持期における左右等荷重の時期から右足趾離地においての底屈モーメントの積分値と仕事の両者ともInsoleで有意に向上した。このことから,両脚支持期全体の仕事はNormalとInsoleで差はないものの,Insoleの方が足趾離地の最終まで蹴り出しの効果が現れ,前方向への力学的仕事が増加することで蹴りだしを補助しているものと思われる。また,今回の被験者の体重が65.2±5.2kgから考えると両脚支持期の左右等荷重期における右下肢の床反力の値は被験者の体重の半分である約320Nであり,この底屈補助装具が持つ発生力のピーク値に近いことから,左右等荷重期以降に最も効果を発揮し前方への推進力を向上させるものと思われる。これらにより前方への推進力が得られないために発生する脳血管障害軽症例のぶん回し歩行の改善が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
足関節背屈は可能であるが蹴りだしを行なうことができない症例は臨床で存在し,これらの患者の歩行障害に対する装具の開発は重要な課題である。開発した底屈補助装具は足部の蹴りだしが不十分な症例の歩容改善の可能性を示唆しており,理学療法研究として意義があるものと思われる。
脳血管障害患者の歩行障害は理学療法において重要な課題のひとつであり,臨床ではエビデンスに基づき装具療法が一般的に行われている。底屈補助機能に着目すると,足関節背屈に重点を置いた中での一要素として底屈補助を有している短下肢装具は存在するものの,足関節は装具で覆われており足関節の運動は継手もしくはプラスチックの可撓性に依存しているためその運動は非生理学的である。装具を必要としない軽症例において蹴りだしを十分に行えない症例は臨床では珍しくなく,それを補助するような装具の開発と理学療法の施行は重要な課題である。そこで今回,底屈を補助する足底板装具の開発に着手し,開発した底屈補助装具の発生力の検証と歩行における効果について若干の考察を加えここに報告する。
【方法】
靴の中敷きと同様の形で足底板を作成する。素材はポリプロピレン,厚みは3mm,第1MP関節と第5MP関節を結ぶ線で25°折り曲げる。折り曲げた足底板の凸側を上向きにして靴内に挿入し歩行を行う。この底屈補助装具が持つ発生力の検証にはNMB社製荷重測定器LTS-500Nを使用し,装具が平板化する直前の値を計測した。歩行の効果検討は健常男性11名を対象とし,年齢28.5±5.3歳,体重65.2±5.2kgであった。歩行は装具非装着時(normal)と右下肢の装具装着時(insole)でそれぞれ10回歩行計測を行ない,右下肢のデータを解析した。歩行解析はリアルタイム3次元動作解析システムMAC3Dを使用し,3DマッスルシミュレーターARMOを用いて右の蹴りだしに着目して1)左踵接地から右足趾離地までの両脚支持期と2)両脚支持期における左右等荷重の時期から右足趾離地までの2通りの時期の両脚支持期時間・Y軸進行方向重心速度・Y軸進行方向床反力・底屈モーメントを計測し,底屈モーメントは積分値を算出した。Y軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から仕事率を算出し,積分して仕事を算出した。サンプリングレートは120Hz,各項目の統計処理はpaired t-testを用い有意水準は5%以下とした。統計ソフトはStatFlex V.6.0を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的,内容について説明し,拒否しても一切不利益が生じないことを文書と口頭にて説明し同意を得た。尚,本研究はヘルシンキ宣言に基づき神戸学院大学の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:HEB120827-1)。
【結果】
開発した底屈補助装具がもつ最大発生力は372.4Nであり,折り曲げる角度を5°単位・厚みをmm単位で変えてそれぞれ測定するもどれも上記の値に近いものであった。1)左踵接地から右足趾離地までの両脚支持期におけるY軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から算出した仕事はNormal:17.3±4.6J,Insole:17.6±4.3J(P=0.4476)で有意差は認めなかった。底屈モーメントの積分値はNormal:883.4±208.6Nm・sec,Insole:1000.4±142.6Nm・sec(P=0.0120),両脚支持時間はNormal:0.118±0.018秒,Insole:0.132±0.015秒(P=0.0002)と有意差を認めた。2)両脚支持期における左右等荷重の時期から右足趾離地におけるY軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から算出した仕事はNormal:3.5±1.1J,Insole:3.8±1.1J(P=0.0083),底屈モーメントの積分値はNormal:150.8±23.9Nm・sec,Insole:187.0±24.4Nm・sec(P=0.0000)と有意差を認めた。
【考察】
左踵接地から右足趾離地までの両脚支持期においてY軸進行方向重心速度×Y軸進行方向床反力から算出した仕事に有意差は認めなかったが,両脚支持時間はInsoleで有意に延長し,両脚支持期における左右等荷重の時期から右足趾離地においての底屈モーメントの積分値と仕事の両者ともInsoleで有意に向上した。このことから,両脚支持期全体の仕事はNormalとInsoleで差はないものの,Insoleの方が足趾離地の最終まで蹴り出しの効果が現れ,前方向への力学的仕事が増加することで蹴りだしを補助しているものと思われる。また,今回の被験者の体重が65.2±5.2kgから考えると両脚支持期の左右等荷重期における右下肢の床反力の値は被験者の体重の半分である約320Nであり,この底屈補助装具が持つ発生力のピーク値に近いことから,左右等荷重期以降に最も効果を発揮し前方への推進力を向上させるものと思われる。これらにより前方への推進力が得られないために発生する脳血管障害軽症例のぶん回し歩行の改善が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
足関節背屈は可能であるが蹴りだしを行なうことができない症例は臨床で存在し,これらの患者の歩行障害に対する装具の開発は重要な課題である。開発した底屈補助装具は足部の蹴りだしが不十分な症例の歩容改善の可能性を示唆しており,理学療法研究として意義があるものと思われる。