第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

その他2

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:大籔弘子(兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンターリハビリ療法部)

生活環境支援 ポスター

[1525] 東日本大震災後の仮設住宅居住者と自宅居住者の運動機能の比較

佐藤啓壮, 黒木薫, 中江秀幸, 田邊素子, 齋木しゅう子 (東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科)

Keywords:介護予防, 健康増進, 転倒予防

【はじめに,目的】
東日本大震災では未だに仮設住宅にて多くの方々が生活している。震災直後から,生活不活発病が懸念され,多くのボランティアや団体が運動指導や啓蒙活動を行ってきた。しかし,被災地では介護保険の申請件数が急激に増加し,分断されたコミュニティの中で,高齢者やその家族に大きな負担がかかっている。震災後の急激な生活環境,就労環境の変化,社会的役割の喪失,震災時の過度のストレス等による閉じこもりが引き金となり,低活動・低運動状況に陥り介護度の増加を招いている。今日のような状況において生活活動レベルを上げ質の高い運動を指導へと結びつけるには,まず,仮設(自宅)から運動する機会・きっかけとして,外出の頻度を向上させることが重要であるが,仮設住宅に訪問し各種イベントへの参加を促しても,なかなか顔を出ず閉じこもる高齢者が多い事実がある。今回,我々はF県の沿岸部で津波による大きな被害を受けたS町において,震災以降,2年を経過した現在,仮設住宅居住者と自宅居住者の運動機能を調査し,震災後の住居状況の違いによる,運動機能の差を検討した。
【方法】
F県S町の町会報(2,500戸,仮設住宅も含む全戸配布)に60歳以上の運動機能検査の実施を告知し,会場であるS町保健センターに来場した参加者42名(男11名,女31名),平均年齢68.9±7.52歳を対象に平成25年8月に各種計測を行った。参加者のうち,仮設住宅居住,または,仮設住宅での生活経験者13名,自宅での居住者は29名であった。参加者には,Motor Fitness Scale(MFS),及びLife Space Assessment(LSA),介護予防基本チェックリストを聴取した。筋力測定はフォースセンサー(9311B,Kistler社)を用い,A-D変換後,パーソナルコンピュータへ取り込んだ。筋出力形態としては等尺性筋力とし,関節可動域中間位で測定した。筋力は股関節屈曲,膝関節伸展・屈曲,足関節背屈筋力を3秒間発揮させ,3回計測して加算平均し,体重で正規化(%BW)した。また,パフォーマンステストとして,片足立位時間,30-sec chair stand test(CS-30),Functional reach test(FRT),2ステップテスト,Berg Balance Scale(BBS)を計測した。得られた値は,2ステップテスト以外で非正規性を確認したため,説明変数を住居状況,目的変数を各変数としたWilcoxon検定,2ステップテストにはstudentのt検定を行った。危険率は5%と設定した。統計ソフトはJMP Pro Ver.10.0.2(SAS Institute Japan)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての参加者に本研究について口頭での説明,書面にて同意を得た上で実施した。この研究は事前に東北福祉大学研究倫理委員会にて審査,承認後に実施した。(RS1307123)
【結果】
参加者のベースラインとして,年齢や性別は住居状況による差は見られなかった。質問紙法によるLSAや高齢者チェックリスト,MFSに差は見られなかった。右膝関節伸展筋力は仮設住宅居住者が16.15%BW,自宅居住者は23.90%BWでp=0.060。左膝関節伸展筋力は,仮設住宅居住者が15.54%BW,自宅居住者は24.17%BWでp=0.036となり膝伸筋において有意な差を認めた。しかし,股関節屈曲筋力,膝関節屈曲筋力,及び足関節背屈筋力,片足立位時間,CS-30,FRT,2ステップテスト,BBSに差は認められなかった。
【考察】
震災から2年以上経ち,未だに仮設住宅に居住している高齢者は,震災前の生活リズムには中々戻ることが出来ない。S町は水産業を中心に生活が営まれ震災前は高齢者の多くも漁業に関連した作業に従事しており,日常の活動量は多かったことが予想される。震災以降,仮設住宅の限られたスペースや段差,階段の無い住宅環境など,2年を経過した今でも移動能力に重要な下肢筋力に影響を残していることが伺えた。今回,被災を受けた町内全戸への広報を見,自ら運動機能検査に参加した積極的な高齢者であったが,住環境の変化・状況により筋力差が生じたことは,重要な問題と言える。また,アンケートで積極的に運動を行っていると回答した高齢者でも筋力に差が生じている事から,今後は,運動の量だけではなく,筋力の増大を目指す必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
震災後,仮設住宅という特殊な環境に置かれ,2年を経過しても高齢者への下肢筋力に差が生じているという知見は,今後,介護予防も含めた被災地での計画的な取り組みが重要であり,理学療法士がその特殊性を理解して一躍を担うことが重要である。
この研究は平成25年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金の助成を受けて実施した。