第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

その他2

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:大籔弘子(兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンターリハビリ療法部)

生活環境支援 ポスター

[1526] 東日本大震災後の当院リハビリテーション処方の変移

池田陽一郎, 田崎竜一, 小野田修一, 及川友好 (南相馬市立総合病院)

Keywords:東日本大震災, 高齢化, 地域リハビリテーション

【はじめに,目的】
平成23年3月11日東日本大震災の発生により,当院が位置する南相馬市は地震,津波,原子力災害の影響で人口動態,居住状況は大きく変化した。震災より3年が経過した現在でも多くの問題が存在する。南相馬市の人口は,震災前約7万人から震災直後は約1万人まで減少し,平成25年11月時点では約5万人が居住している。高齢化率は,若年層の流出により,震災前の25.9%から平成25年11月時点で33.1%まで上昇した。居住状況においては,現在も約2万人が仮設住宅や借り上げ住宅などでの避難生活を余儀なくされている。
当院は福島第1原子力発電所より23kmの旧避難地域に位置し,福島県相双地域における拠点病院であり,震災後から同地域の医療を支えてきた。
本研究の目的は,震災前後における当院リハビリテーション技術科(以下,リハ科)への処方の変移を明らかにすることであり,急速に高齢化の進んだ当地域におけるリハビリテーション専門職としての役割を述べる。
【方法】
本研究は後方視的調査である。対象は平成22年度から24年度に当院リハ科へ処方された入院患者を対象とした。
平成22年度に処方された症例を震災前年群,平成23,24年度に処方された症例をそれぞれ震災後1年群と震災後2年群に分類した。
3群において,疾患別の処方件数と処方割合,年齢群について比較した。疾患は,脳血管疾患,運動器疾患,廃用症候群の3つに分類し,脳血管疾患と廃用症候群は別とした。脳血管疾患は,脳卒中とその他脳血管疾患の2つに分類した。年齢群は,0~14歳,15~39歳,40~64歳,65~74歳,75歳以上の5つに分けた。
統計手法は,処方割合,年齢群ともカイ二乗検定,残差分析を行った。R2.8.1を用いて統計処理を行い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は対象者を匿名化したうえで,当院の個人情報保護管理規定に基づき個人情報を管理した。
【結果】
震災前年群で894件(脳血管疾患490件,運動器疾患239件,廃用症候群165件),震災後1年群で656件(脳血管疾患361件,運動器疾患150件,廃用症候群145件),震災後2年群で823件(脳血管疾患401件,運動器疾患181件,廃用症候群241件)が該当した。処方割合において,震災前年群では,運動器疾患が有意に多く(p<0.05),廃用症候群で少なかった(p<0.01)。また震災後2年群では廃用症候群が有意に多く(p<0.01),脳血管疾患は少なかった(p<0.01)。震災後1年群において,有意な差はみられなかった。
脳血管疾患では脳卒中の処方割合が震災後1年群で有意に多かった(p<0.01)。
震災後2年群において75歳以上の処方割合が有意に増加した(p<0.01)。(震災前年群429件,震災後1年群357件,震災後2年群469件)。
【考察】
震災後2年群で有意に廃用症候群の処方割合は増加している。震災の影響で地域の施設や病院は減少しており,地域の中核病院である当院を受診する患者が増えていることが,廃用症候群増加の要因と考える。現在,当地域への若年層の帰還は進んでおらず,今後も施設や他病院のマンパワーは充足しないため,当院の廃用症候群の処方割合は減少しない可能性が高い。
脳卒中の処方割合は,震災後1年群では有意に増加した。増加した要因として,及川ら(2013)は,震災後の南相馬市における脳卒中発症リスクの増大について述べている。当院は,南相馬市における脳卒中のほとんどの入院加療を担当しており,処方割合に反映されたと考える。地域住民の脳卒中発症リスクの増加を踏まえ,発症患者だけではなく,脳卒中予備軍への取り組みも不可欠である。
廃用症候群の処方増加と,脳卒中の発症リスク増大に対して,治療と予防の両方の取り組みが必要と考える。発症後の対応としては,疾患に応じた専門的な治療が必要である。当地域は,施設や療養型病院への転帰が困難なため,退院前訪問指導の積極的実施や,退院後の通所系および居宅系サービスなどとの連携強化が重要である。発症予防の対策は,地域住民に対する健康教室の実施などが考えられ,仮設住宅居住者を対象に,体操指導を実施している。
【理学療法学研究としての意義】
震災後,廃用症候群と脳卒中の処方割合が増加した。急速に高齢化の進んだ当地域は,20年後の日本の姿といわれている。本研究は,今後日本で起こりうる疾患変遷の可能性とその対策について示唆を与える。