[1540] 胸椎モビライゼーションが自律神経系および疼痛閾値へ与える影響
キーワード:胸椎モビライゼーション, 自律神経, 疼痛閾値
【はじめに】
頚部痛や腰痛の原因の一つとして,胸椎の動きが低下しているために頚部や腰部へ負荷がかかることがある。そのため,これらの治療に胸椎モビライゼーションが行われることがある。しかし胸椎の動きを出す目的で行った手技であるが,末梢部の痛みが改善することもある。この改善に自律神経系が関与しているのではないかと考え,今回の研究では,胸椎モビライゼーションが,自律神経系および疼痛閾値に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性16名とし,モビライゼーション群10名(平均年齢:20.7歳(19~23歳),平均身長(標準偏差:以下S.D.):172.9(4.5)cm,平均体重(S.D.):66.3(4.4)kg)とコントロール群6名(平均年齢:20.3歳(19~23歳),平均身長(S.D.):173.7(4.5)cm,平均体重(S.D.):61.8(5.2)kg)に無作為に分類した。
介入課題として,モビライゼーション群には腹臥位脊柱屈曲・伸展中間位にてMobilization Wedgeを第3胸椎から第6胸椎横突起にあて,椎間関節牽引モビライゼーションを,一椎体につき7秒間,7セット行った。モビライゼーション強度は,痛みのない範囲でKaltenbornのGradeIIIにて施行した。コントロール群はベッド上腹臥位にて5分間の安静をとった。
介入課題前後において,両群とも唾液アミラーゼおよび筋の痛み閾値を計測した。唾液アミラーゼは唾液アミラーゼ測定器(酵素分析装置唾液アミラーゼモニター:NIPRO社製)を用いて,検査チップを30秒間舌下に置き,唾液中のアミラーゼ活性値を計測した。筋の疼痛閾値は,検者が肩甲挙筋および腓腹筋内側頭を圧痛計(総合評価システムOE-220:伊藤超短波)にて押していき,被験者が圧を痛みとして感じた時点でボタンを押し,その時の圧を計測した。肩甲挙筋は端座位にて腓腹筋内側頭は腹臥位にて,各筋3回計測し平均値を疼痛閾値とした。施行前後および群間比較はIBM SPSS 19を用い,二元配置分散分析,多重比較検定を有意水準5%にて行った。
【倫理的配慮】
すべての対象者に実験の目的・手順・予想される危険性について説明し,実験に協力することに対する了解を得た。なお,本研究は本学本キャンパス研究安全倫理委員会(承認番号13058)の承認を得て実施した。
【結果】
唾液アミラーゼは,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が32.0(6.4)/28.0(6.7)kIU/Lで,コントロール群は29.3(5.3)/32.8(5.5)kIU/Lであり,群間および前後において有意差を認めなかった。右肩甲挙筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が25.2(4.4)/22.0(3.5)Nで,コントロール群は26.5(3.4)/30.1(2.7)Nで交互作用を認め,モビライゼーション群の前後で有意差を認めた。左肩甲挙筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が22.8(4.8)/21.8(4.6)Nで,コントロール群は26.9(3.7)/33.5(3.6)Nで有意差を認め,モビライゼーション群の前後で有意差を認めた。右腓腹筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が33.6(3.4)/38.0(3.4)Nで,コントロール群は37.0(4.4)/32.2(4.4)Nで有意差を認め,両群とも前後で有意差を認めた。左腓腹筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が36.4(4.2)/43.5(3.8)Nで,コントロール群は40.2(5.4)/37.8(4.9)Nで有意差を認め,モビライゼーション群の前後で有意差を認めた。
【考察】
唾液アミラーゼは,交感神経―副腎髄質系の制御を受けており,交感神経系の指標とされている。今回の研究では消化管機能検査による自律神経については,胸椎モビライゼーションで変化を認めることはなかった。しかし,モビライゼーション施行群においてすべての筋疼痛閾値の有意な上昇を認めた。今回測定した筋は,モビライゼーション施行した部位には付着していない筋群であった。そのためこれらの閾値が上昇したのはモビライゼーションにより胸椎椎間関節の動きが改善した事によるものではなく,他の要因による改善である。胸髄・腰髄側角には交感神経細胞体が存在する。胸椎モビライゼーションがこの交感神経細胞体に作用し,筋疼痛閾値を上昇させたのではないかと推測される。しかし今回は自律神経測定指標として,唾液アミラーゼしか測定していないために交感神経についての関与については明らかにできない。今後他の評価方法にて自律神経に対する効果を明らかにしていく。
【理学療法学研究としての意義】
胸椎モビライゼーションにより,筋疼痛閾値を上昇することが明らかになった。痛みを訴える筋を他の方法によりアプローチする事できる可能性を示した。
頚部痛や腰痛の原因の一つとして,胸椎の動きが低下しているために頚部や腰部へ負荷がかかることがある。そのため,これらの治療に胸椎モビライゼーションが行われることがある。しかし胸椎の動きを出す目的で行った手技であるが,末梢部の痛みが改善することもある。この改善に自律神経系が関与しているのではないかと考え,今回の研究では,胸椎モビライゼーションが,自律神経系および疼痛閾値に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性16名とし,モビライゼーション群10名(平均年齢:20.7歳(19~23歳),平均身長(標準偏差:以下S.D.):172.9(4.5)cm,平均体重(S.D.):66.3(4.4)kg)とコントロール群6名(平均年齢:20.3歳(19~23歳),平均身長(S.D.):173.7(4.5)cm,平均体重(S.D.):61.8(5.2)kg)に無作為に分類した。
介入課題として,モビライゼーション群には腹臥位脊柱屈曲・伸展中間位にてMobilization Wedgeを第3胸椎から第6胸椎横突起にあて,椎間関節牽引モビライゼーションを,一椎体につき7秒間,7セット行った。モビライゼーション強度は,痛みのない範囲でKaltenbornのGradeIIIにて施行した。コントロール群はベッド上腹臥位にて5分間の安静をとった。
介入課題前後において,両群とも唾液アミラーゼおよび筋の痛み閾値を計測した。唾液アミラーゼは唾液アミラーゼ測定器(酵素分析装置唾液アミラーゼモニター:NIPRO社製)を用いて,検査チップを30秒間舌下に置き,唾液中のアミラーゼ活性値を計測した。筋の疼痛閾値は,検者が肩甲挙筋および腓腹筋内側頭を圧痛計(総合評価システムOE-220:伊藤超短波)にて押していき,被験者が圧を痛みとして感じた時点でボタンを押し,その時の圧を計測した。肩甲挙筋は端座位にて腓腹筋内側頭は腹臥位にて,各筋3回計測し平均値を疼痛閾値とした。施行前後および群間比較はIBM SPSS 19を用い,二元配置分散分析,多重比較検定を有意水準5%にて行った。
【倫理的配慮】
すべての対象者に実験の目的・手順・予想される危険性について説明し,実験に協力することに対する了解を得た。なお,本研究は本学本キャンパス研究安全倫理委員会(承認番号13058)の承認を得て実施した。
【結果】
唾液アミラーゼは,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が32.0(6.4)/28.0(6.7)kIU/Lで,コントロール群は29.3(5.3)/32.8(5.5)kIU/Lであり,群間および前後において有意差を認めなかった。右肩甲挙筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が25.2(4.4)/22.0(3.5)Nで,コントロール群は26.5(3.4)/30.1(2.7)Nで交互作用を認め,モビライゼーション群の前後で有意差を認めた。左肩甲挙筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が22.8(4.8)/21.8(4.6)Nで,コントロール群は26.9(3.7)/33.5(3.6)Nで有意差を認め,モビライゼーション群の前後で有意差を認めた。右腓腹筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が33.6(3.4)/38.0(3.4)Nで,コントロール群は37.0(4.4)/32.2(4.4)Nで有意差を認め,両群とも前後で有意差を認めた。左腓腹筋の筋疼痛閾値は,モビライゼーション群は前/後(S.D.)が36.4(4.2)/43.5(3.8)Nで,コントロール群は40.2(5.4)/37.8(4.9)Nで有意差を認め,モビライゼーション群の前後で有意差を認めた。
【考察】
唾液アミラーゼは,交感神経―副腎髄質系の制御を受けており,交感神経系の指標とされている。今回の研究では消化管機能検査による自律神経については,胸椎モビライゼーションで変化を認めることはなかった。しかし,モビライゼーション施行群においてすべての筋疼痛閾値の有意な上昇を認めた。今回測定した筋は,モビライゼーション施行した部位には付着していない筋群であった。そのためこれらの閾値が上昇したのはモビライゼーションにより胸椎椎間関節の動きが改善した事によるものではなく,他の要因による改善である。胸髄・腰髄側角には交感神経細胞体が存在する。胸椎モビライゼーションがこの交感神経細胞体に作用し,筋疼痛閾値を上昇させたのではないかと推測される。しかし今回は自律神経測定指標として,唾液アミラーゼしか測定していないために交感神経についての関与については明らかにできない。今後他の評価方法にて自律神経に対する効果を明らかにしていく。
【理学療法学研究としての意義】
胸椎モビライゼーションにより,筋疼痛閾値を上昇することが明らかになった。痛みを訴える筋を他の方法によりアプローチする事できる可能性を示した。