[1541] 大腿領域の運動野に対する反復性経頭蓋磁気刺激の効果
Keywords:反復性経頭蓋磁気刺激, 大腿直筋, 運動誘発電位
【はじめに,目的】
経頭蓋磁気刺激(TMS)は,Bakerによって局所に非侵襲的かつ無痛で刺激可能であり,電気刺激に代わる新しい刺激方法として報告された。近年,3連発以上の刺激が可能となる反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)が運動誘発電位(MEP)などの検査や連続刺激により機能を回復させる手段として,さまざまな疾患の治療に用いられている。rTMSは,刺激部位や強度,頻度,回数の変化により大脳皮質の興奮性を変化させることが可能である。先行研究では,高頻度rTMSが大脳皮質の興奮性を増加させることが報告されている。また,低頻度rTMSよりも高頻度rTMSの刺激効果が高いとの報告もある。現在,rTMSと運動療法との併用によって脳卒中片麻痺による痙縮の軽減により,上肢の運動機能が改善するといった,上肢領域に対するrTMSの刺激効果が数多くされている。しかし,国内外問わず下肢領域に対するrTMSの刺激効果を報告したものはほとんどない。さらに,数少ない先行研究では刺激部位がcentered over the scalp positionやleg motor areaなどあいまいな記載であり,大脳運動野へのrTMSによって下肢の限定した筋に刺激しているかどうかも不明である。本研究の目的は,大脳運動野の大腿四頭筋領域に対して刺激が可能かどうかを検討し,さらに高頻度rTMSによる刺激効果を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常男性5名であり,平均年齢26±3歳(Mean±SD),平均身長165.7±4.4cm,平均体重65.4±3.7kgであった。選考基準は脳疾患の既往や現病歴がなく,てんかん発作に自覚的および他覚的な症状を認めないものとした。rTMSには,MAG PRO R100(MagVenture社製)を用い,背臥位にて8の字コイルで右側の1次運動野に刺激を行い,対側の大腿直筋に貼付した表面電極からMEPを導出した。MEPが導出可能であれば,3回導出した中の最大振幅を採用した。rTMSの設定は安全性のガイドラインであるWassermannの報告に則り,5Hzで90%の安静時運動閾値にて計600発刺激した。手順は,1)rTMS前のMEP測定,2)医師によるrTMS,3)rTMS直後のMEP測定の3工程とした。統計処理には対応のあるt検定を用いて,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に当院倫理委員会の承認後,被験者に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
対象者の全例でTMSにより大腿直筋からMEPが導出可能であった。MEPの最大振幅は,rTMS前では4.51±0.18mVであり,rTMS直後では5.32±0.15mVであった。MEPの最大振幅はrTMS前よりもrTMS直後で有意に増大していた(p<0.05)。
【考察】
本研究より下肢の大腿直筋からMEPが導出可能であり,高頻度rTMSによる刺激直後の効果も確認できた。大脳運動野における下肢領域は大脳縦列付近に局在しているため,左右の同領域への干渉に注意する必要がある。また,刺激部位が上肢と比較して極端に狭いため,目的とした部位にrTMSを実施するためには,コイルの向きや刺激強度などの細かい調整が必要であった。rTMSによるMEPに関する先行研究では,大脳運動野の上肢領域に対する高頻度rTMSによってMEPの最大振幅が増大することが報告されている。本研究では,下肢の大腿四頭筋領域に対して実施し,同様の結果が得られた。また,数少ない下肢に対する報告では,脊髄損傷後の下肢運動機能が向上し,痙縮も軽減していた。先行研究では,脳卒中片麻痺の上肢における痙縮が軽減するという報告が多く,rTMSが痙縮に対して効果があることが明らかとなっている。したがって,脳卒中や脊髄損傷などの痙縮による下肢の機能障害に対して,臨床効果が期待でき,運動療法前に実施することでより効率の良い運動が出来る可能性がある。しかし,本研究ではrTMSによるMEPの経時的な変化を観察していないため,たとえ運動療法前に行ったとしても,継続的な刺激効果(carry-over effect)がどの程度あるかは不明である。今後は,下肢に対するrTMSの症例に対する臨床効果やcarry-over effectの有無を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
従来,rTMS研究の多くは上肢に対する刺激効果に関する報告であり,下肢に対する刺激効果は不明である。本研究により,下肢に対するrTMSの刺激効果が明らかとなることで,今後rTMSによる治療の幅が広がるため,臨床的な意義は大きいと考えられる。
経頭蓋磁気刺激(TMS)は,Bakerによって局所に非侵襲的かつ無痛で刺激可能であり,電気刺激に代わる新しい刺激方法として報告された。近年,3連発以上の刺激が可能となる反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)が運動誘発電位(MEP)などの検査や連続刺激により機能を回復させる手段として,さまざまな疾患の治療に用いられている。rTMSは,刺激部位や強度,頻度,回数の変化により大脳皮質の興奮性を変化させることが可能である。先行研究では,高頻度rTMSが大脳皮質の興奮性を増加させることが報告されている。また,低頻度rTMSよりも高頻度rTMSの刺激効果が高いとの報告もある。現在,rTMSと運動療法との併用によって脳卒中片麻痺による痙縮の軽減により,上肢の運動機能が改善するといった,上肢領域に対するrTMSの刺激効果が数多くされている。しかし,国内外問わず下肢領域に対するrTMSの刺激効果を報告したものはほとんどない。さらに,数少ない先行研究では刺激部位がcentered over the scalp positionやleg motor areaなどあいまいな記載であり,大脳運動野へのrTMSによって下肢の限定した筋に刺激しているかどうかも不明である。本研究の目的は,大脳運動野の大腿四頭筋領域に対して刺激が可能かどうかを検討し,さらに高頻度rTMSによる刺激効果を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常男性5名であり,平均年齢26±3歳(Mean±SD),平均身長165.7±4.4cm,平均体重65.4±3.7kgであった。選考基準は脳疾患の既往や現病歴がなく,てんかん発作に自覚的および他覚的な症状を認めないものとした。rTMSには,MAG PRO R100(MagVenture社製)を用い,背臥位にて8の字コイルで右側の1次運動野に刺激を行い,対側の大腿直筋に貼付した表面電極からMEPを導出した。MEPが導出可能であれば,3回導出した中の最大振幅を採用した。rTMSの設定は安全性のガイドラインであるWassermannの報告に則り,5Hzで90%の安静時運動閾値にて計600発刺激した。手順は,1)rTMS前のMEP測定,2)医師によるrTMS,3)rTMS直後のMEP測定の3工程とした。統計処理には対応のあるt検定を用いて,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に当院倫理委員会の承認後,被験者に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
対象者の全例でTMSにより大腿直筋からMEPが導出可能であった。MEPの最大振幅は,rTMS前では4.51±0.18mVであり,rTMS直後では5.32±0.15mVであった。MEPの最大振幅はrTMS前よりもrTMS直後で有意に増大していた(p<0.05)。
【考察】
本研究より下肢の大腿直筋からMEPが導出可能であり,高頻度rTMSによる刺激直後の効果も確認できた。大脳運動野における下肢領域は大脳縦列付近に局在しているため,左右の同領域への干渉に注意する必要がある。また,刺激部位が上肢と比較して極端に狭いため,目的とした部位にrTMSを実施するためには,コイルの向きや刺激強度などの細かい調整が必要であった。rTMSによるMEPに関する先行研究では,大脳運動野の上肢領域に対する高頻度rTMSによってMEPの最大振幅が増大することが報告されている。本研究では,下肢の大腿四頭筋領域に対して実施し,同様の結果が得られた。また,数少ない下肢に対する報告では,脊髄損傷後の下肢運動機能が向上し,痙縮も軽減していた。先行研究では,脳卒中片麻痺の上肢における痙縮が軽減するという報告が多く,rTMSが痙縮に対して効果があることが明らかとなっている。したがって,脳卒中や脊髄損傷などの痙縮による下肢の機能障害に対して,臨床効果が期待でき,運動療法前に実施することでより効率の良い運動が出来る可能性がある。しかし,本研究ではrTMSによるMEPの経時的な変化を観察していないため,たとえ運動療法前に行ったとしても,継続的な刺激効果(carry-over effect)がどの程度あるかは不明である。今後は,下肢に対するrTMSの症例に対する臨床効果やcarry-over effectの有無を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
従来,rTMS研究の多くは上肢に対する刺激効果に関する報告であり,下肢に対する刺激効果は不明である。本研究により,下肢に対するrTMSの刺激効果が明らかとなることで,今後rTMSによる治療の幅が広がるため,臨床的な意義は大きいと考えられる。