[1544] ADL障害が軽度な筋萎縮性側索硬化症患者に対して有効な運動療法の検証
Keywords:筋萎縮性側索硬化症, 運動療法, 日常生活活動
【はじめに,目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対して,どのような運動療法が有効であるのか,その根拠は未だに確立されていない。コクラン共同計画において,ALS患者に対する運動療法のシステマティック・レビューが報告されているが,報告に採用された論文は,わずか2編の筋力トレーニングに関する無作為化比較対照試験のみであった(Bello-Haas, et al. 2008)。一方で,歩行トレーニングや有酸素トレーニングなどの運動療法については,その有効性は検証されていない。研究が遅々として進まない主要因は,進行の速さと希少性という疾患特性により,十分なデータの蓄積が困難なためである。本研究の目的は,多施設共同研究によって多くの臨床データを蓄積し,蓄積した臨床データを統計学的に分析することで,ALS患者の日常生活活動能力(ADL)に対して有効な運動療法について検証することとした。
【方法】対象は,6つの医療機関において,2001~2011年の間に神経内科医によりALSと診断され,理学療法依頼が出された連続症例とした。分析における採用基準は,ALSの日常活動における機能評価尺度(ALSFRS-R)の得点が30点以上でADL障害が軽度な症例,気管切開および非侵襲的陽圧換気療法がなされていない症例,6ヶ月程度の追跡期間を有する症例とした。全てのデータは各医療機関において,医療記録から後方視的に抽出調査した。調査項目は,基本属性として年齢,性別,発症部位,罹病期間,ADLとしてALSFRS-Rの得点を調査した。なお,ALSFRS-Rの得点は,ベースラインと6ヶ月後の2時点での点数を調査した。さらに,実施された運動療法の内容として,ストレッチ,筋力トレーニング,自転車エルゴメーター,起立・立位トレーニング,歩行トレーニング,ADLトレーニング,呼吸理学療法のそれぞれの実施の有無を調査した。また,追跡期間中の理学療法実施回数も調査した。統計解析として,ALSFRS-Rについては,追跡後の点数からベースラインの点数を減じて,得点変化量を算出した。次に,ALSFRS-Rの得点変化量を従属変数とし,実施されていた各運動療法の交互作用項を独立変数,基本属性を調整変数とする重回帰分析にて,実施された各運動療法とALSFRS-Rの得点変化量との関連を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究に参加した全ての医療機関において,本研究の内容および方法について,研究倫理審査委員会の承認を得た。
【結果】350例のデータを収集し,分析採用基準に該当した156例のデータを分析した。分析した症例の基本属性は,平均年齢61.9±11.5歳,平均罹病期間1.6±1.8年,男性59%,球麻痺発症21.2%,四肢発症75.7%であった。また,追跡期間は6.2±0.8ヶ月間で,追跡期間中の理学療法実施回数は34.6±25.6回であった。ベースラインおよび追跡後のALSFRS-Rの得点は,それぞれ39.7±4.6点および33.0±9.0点で,追跡期間中に平均6.7±7.2点の得点低下を認めた。実施された運動療法としては,ストレッチ98.1%,筋力トレーニング51.3%,自転車エルゴメーター34.6%,起立・立位トレーニング54.5%.歩行トレーニング66.0%,ADLトレーニング87.8%であった。重回帰分析による分析の結果,ALSFRS-Rの得点変化量と関連する運動療法の内容としては,ADLトレーニングの実施(P<0.01),ADLトレーニングおよび歩行トレーニングの実施(P<0.05)が有意な正の関連を示し,ALSFRS-Rの得点変化量が有意に小さくなることが示された。
【考察】本研究では,ADL障害が軽度なALS患者に対して,有効な運動療法の内容を検討した。結果,筋力トレーニングはADLへの有効性が認められなかったが,これはコクラン共同計画の報告とは異なる結果であった。このことから,筋力トレーニングは,全てのALS患者に有効ではない可能性があると考えられた。一方,ADLトレーニングや歩行トレーニングは,ADLの低下を抑制する可能性が示された。従って,ADL障害が軽度なALS患者に対しては,ADL動作や歩行などの動作を主体としたトレーニングが運動療法として有効である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】ALS患者に対する運動療法について,研究が不足しており未だに十分な根拠が示されていない。本研究の結果は,ADL障害が軽度なALS患者の運動療法に関して,臨床上有益な情報を提供しうると考える。
【方法】対象は,6つの医療機関において,2001~2011年の間に神経内科医によりALSと診断され,理学療法依頼が出された連続症例とした。分析における採用基準は,ALSの日常活動における機能評価尺度(ALSFRS-R)の得点が30点以上でADL障害が軽度な症例,気管切開および非侵襲的陽圧換気療法がなされていない症例,6ヶ月程度の追跡期間を有する症例とした。全てのデータは各医療機関において,医療記録から後方視的に抽出調査した。調査項目は,基本属性として年齢,性別,発症部位,罹病期間,ADLとしてALSFRS-Rの得点を調査した。なお,ALSFRS-Rの得点は,ベースラインと6ヶ月後の2時点での点数を調査した。さらに,実施された運動療法の内容として,ストレッチ,筋力トレーニング,自転車エルゴメーター,起立・立位トレーニング,歩行トレーニング,ADLトレーニング,呼吸理学療法のそれぞれの実施の有無を調査した。また,追跡期間中の理学療法実施回数も調査した。統計解析として,ALSFRS-Rについては,追跡後の点数からベースラインの点数を減じて,得点変化量を算出した。次に,ALSFRS-Rの得点変化量を従属変数とし,実施されていた各運動療法の交互作用項を独立変数,基本属性を調整変数とする重回帰分析にて,実施された各運動療法とALSFRS-Rの得点変化量との関連を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究に参加した全ての医療機関において,本研究の内容および方法について,研究倫理審査委員会の承認を得た。
【結果】350例のデータを収集し,分析採用基準に該当した156例のデータを分析した。分析した症例の基本属性は,平均年齢61.9±11.5歳,平均罹病期間1.6±1.8年,男性59%,球麻痺発症21.2%,四肢発症75.7%であった。また,追跡期間は6.2±0.8ヶ月間で,追跡期間中の理学療法実施回数は34.6±25.6回であった。ベースラインおよび追跡後のALSFRS-Rの得点は,それぞれ39.7±4.6点および33.0±9.0点で,追跡期間中に平均6.7±7.2点の得点低下を認めた。実施された運動療法としては,ストレッチ98.1%,筋力トレーニング51.3%,自転車エルゴメーター34.6%,起立・立位トレーニング54.5%.歩行トレーニング66.0%,ADLトレーニング87.8%であった。重回帰分析による分析の結果,ALSFRS-Rの得点変化量と関連する運動療法の内容としては,ADLトレーニングの実施(P<0.01),ADLトレーニングおよび歩行トレーニングの実施(P<0.05)が有意な正の関連を示し,ALSFRS-Rの得点変化量が有意に小さくなることが示された。
【考察】本研究では,ADL障害が軽度なALS患者に対して,有効な運動療法の内容を検討した。結果,筋力トレーニングはADLへの有効性が認められなかったが,これはコクラン共同計画の報告とは異なる結果であった。このことから,筋力トレーニングは,全てのALS患者に有効ではない可能性があると考えられた。一方,ADLトレーニングや歩行トレーニングは,ADLの低下を抑制する可能性が示された。従って,ADL障害が軽度なALS患者に対しては,ADL動作や歩行などの動作を主体としたトレーニングが運動療法として有効である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】ALS患者に対する運動療法について,研究が不足しており未だに十分な根拠が示されていない。本研究の結果は,ADL障害が軽度なALS患者の運動療法に関して,臨床上有益な情報を提供しうると考える。