[1547] Gait Solution長下肢装具が立脚終期の股関節伸展角度に与える影響
Keywords:長下肢装具, Gait Solution, 歩行
【目的】
油圧制動式足継手Gait Solution(以下,GS)は,立脚初期の踵ロッカーにおける底屈を油圧制動により補助し麻痺側への滑らかな体重移動を可能にするとされている。このため,当院においても脳卒中片麻痺患者の歩行改善のためにGSを短下肢装具と長下肢装具に採用し積極的に活用している。先行研究では,GS短下肢装具が脳卒中片麻痺患者の歩行能力を改善することを報告したものは多い。一方,GS長下肢装具に関する報告は散見する程度であり,その中でも特別な効果を示さなかったものも多く,GS長下肢装具の効果が十分に立証されているとはいえない。しかし,臨床での手ごたえとしては従来の底屈を固定した足継手よりもGSによる油圧制動の方が立脚期の体重移動は向上している印象を受ける。本研究の目的は,長下肢装具の足継手の油圧制動と底屈固定の違いが,脳卒中片麻痺患者の歩行の麻痺側立脚期に与える影響を検証することである。
【方法】
対象は,2012年12月から2013年9月の間に当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者8名(平均年齢77.6±13.3歳,男性5名,女性3名)とした。選択基準は,発症後1ヵ月以上6ヶ月以内の者,片麻痺で非麻痺側に明らかな麻痺がない者,長下肢装具を作成した者とした。その内,Brunnstrom stage下肢IIが3名,IIIが4名,IVが1名であった。評価項目は,長下肢装具を装着しての10m介助歩行における麻痺側立脚期の股関節伸展最大角度と足関節背屈最大角度,所要時間,歩幅とした。股関節と足関節角度の計測には川村義肢社製Gait Judge Systemを用いた。これはGSにポテンショメータを装着し関節角度を記録する装置である。股関節角度の計測には可変抵抗式角度計測器を骨盤帯と大腿の外側部に固定し,ポテンショメータに接続した。歩行を実施するにあたり,長下肢装具の足継手はGSとクレンザックによる底屈0度固定(以下,固定)とし,それぞれ背屈角度はフリーに設定した。介助は全て同一の者が実施し,GSと固定の順序はランダムに決定した。2条件間の歩行の評価項目は対応のあるt検定を用いて比較した。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
各項目の平均値は,股関節伸展角度がGS群11.25±7.13度,固定群5.52±6.94度,足関節背屈角度がGS群5.56±4.14度,固定群2.7±3.12度といずれもGS群で有意に大きくなった(P<0.05)。歩幅においてもGS群27.89±15.58cm,固定群24.90±12.14cmとGS群で有意に拡大した(P<0.05)。10m歩行の所要時間はGS群31.05±10.07秒,固定群33.17±8.98秒と両群間に有意差はなかったがGS群で短縮した(P>0.05)。
【考察】
本研究の結果,底屈を油圧制動にすることで立脚期の股関節伸展と足関節背屈角度は増大し,歩幅は拡大した。先行研究では,下肢装具は足関節の固定ではなくロッカー機能を引き出すような可動性のある方が歩行の再建に有効であると言われており,その中でもGSは健常歩行に近い下肢筋活動を促しやすいことが確認されている。このため,長下肢装具においてもGSによる踵ロッカーの補助は前方への推進力に繋がり,立脚相の延長に影響を与えたものと考える。具体的な理由として,底屈固定では荷重応答期に足部と下肢が一体となって急速に前方回転するため体幹の前傾を引き起こすが,GSでは足底接地が先行し徐々に下肢が前方回転するという健常歩行パターンに近い関節運動であり,体幹前傾への影響が少ないため股関節が伸展しやすい。また,筋活動においても,底屈固定では荷重応答期にMP関節に圧が集中して足関節底屈筋群の筋活動が強くなると言われているが,GSでは底屈筋群の過度な筋活動が抑制され立脚中期以降の足関節背屈角度が増大し,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋がったものと考えられる。このように健常歩行パターンに近い関節運動と筋活動を促すGSは,長下肢装具においても効果を発揮し歩行因子の改善に影響することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
GS長下肢装具によって立脚期の股関節伸展は増大するという一つの傾向が示された。このことは長下肢装具を使用した効果的な歩行練習をするための一助になるものと考える。
油圧制動式足継手Gait Solution(以下,GS)は,立脚初期の踵ロッカーにおける底屈を油圧制動により補助し麻痺側への滑らかな体重移動を可能にするとされている。このため,当院においても脳卒中片麻痺患者の歩行改善のためにGSを短下肢装具と長下肢装具に採用し積極的に活用している。先行研究では,GS短下肢装具が脳卒中片麻痺患者の歩行能力を改善することを報告したものは多い。一方,GS長下肢装具に関する報告は散見する程度であり,その中でも特別な効果を示さなかったものも多く,GS長下肢装具の効果が十分に立証されているとはいえない。しかし,臨床での手ごたえとしては従来の底屈を固定した足継手よりもGSによる油圧制動の方が立脚期の体重移動は向上している印象を受ける。本研究の目的は,長下肢装具の足継手の油圧制動と底屈固定の違いが,脳卒中片麻痺患者の歩行の麻痺側立脚期に与える影響を検証することである。
【方法】
対象は,2012年12月から2013年9月の間に当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者8名(平均年齢77.6±13.3歳,男性5名,女性3名)とした。選択基準は,発症後1ヵ月以上6ヶ月以内の者,片麻痺で非麻痺側に明らかな麻痺がない者,長下肢装具を作成した者とした。その内,Brunnstrom stage下肢IIが3名,IIIが4名,IVが1名であった。評価項目は,長下肢装具を装着しての10m介助歩行における麻痺側立脚期の股関節伸展最大角度と足関節背屈最大角度,所要時間,歩幅とした。股関節と足関節角度の計測には川村義肢社製Gait Judge Systemを用いた。これはGSにポテンショメータを装着し関節角度を記録する装置である。股関節角度の計測には可変抵抗式角度計測器を骨盤帯と大腿の外側部に固定し,ポテンショメータに接続した。歩行を実施するにあたり,長下肢装具の足継手はGSとクレンザックによる底屈0度固定(以下,固定)とし,それぞれ背屈角度はフリーに設定した。介助は全て同一の者が実施し,GSと固定の順序はランダムに決定した。2条件間の歩行の評価項目は対応のあるt検定を用いて比較した。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
各項目の平均値は,股関節伸展角度がGS群11.25±7.13度,固定群5.52±6.94度,足関節背屈角度がGS群5.56±4.14度,固定群2.7±3.12度といずれもGS群で有意に大きくなった(P<0.05)。歩幅においてもGS群27.89±15.58cm,固定群24.90±12.14cmとGS群で有意に拡大した(P<0.05)。10m歩行の所要時間はGS群31.05±10.07秒,固定群33.17±8.98秒と両群間に有意差はなかったがGS群で短縮した(P>0.05)。
【考察】
本研究の結果,底屈を油圧制動にすることで立脚期の股関節伸展と足関節背屈角度は増大し,歩幅は拡大した。先行研究では,下肢装具は足関節の固定ではなくロッカー機能を引き出すような可動性のある方が歩行の再建に有効であると言われており,その中でもGSは健常歩行に近い下肢筋活動を促しやすいことが確認されている。このため,長下肢装具においてもGSによる踵ロッカーの補助は前方への推進力に繋がり,立脚相の延長に影響を与えたものと考える。具体的な理由として,底屈固定では荷重応答期に足部と下肢が一体となって急速に前方回転するため体幹の前傾を引き起こすが,GSでは足底接地が先行し徐々に下肢が前方回転するという健常歩行パターンに近い関節運動であり,体幹前傾への影響が少ないため股関節が伸展しやすい。また,筋活動においても,底屈固定では荷重応答期にMP関節に圧が集中して足関節底屈筋群の筋活動が強くなると言われているが,GSでは底屈筋群の過度な筋活動が抑制され立脚中期以降の足関節背屈角度が増大し,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋がったものと考えられる。このように健常歩行パターンに近い関節運動と筋活動を促すGSは,長下肢装具においても効果を発揮し歩行因子の改善に影響することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
GS長下肢装具によって立脚期の股関節伸展は増大するという一つの傾向が示された。このことは長下肢装具を使用した効果的な歩行練習をするための一助になるものと考える。