第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法20

2014年6月1日(日) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (神経)

座長:高芝潤(社会医療法人近森会近森病院)

神経 ポスター

[1548] 急性期脳卒中片麻痺患者の長下肢装具作製に関連する予測因子の検討

竹丸修央1, 田中繁治2, 岡田有司1, 上杉敦美1, 松田英希2, 藤井賢吾1, 河本佑子1, 目谷浩通3, 花山耕三3, 椿原彰夫4 (1.川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター, 2.川崎リハビリテーション学院, 3.川崎医科大学リハビリテーション医学教室, 4.川崎医療福祉大学)

キーワード:脳卒中, 早期装具作製, 予測因子

【はじめに,目的】
本邦の脳卒中発症例は,年間137万人とされている。脳卒中発症早期からリハビリテーションが実施されることが一般的になっており,その効果に関するエビデンスも蓄積されている。「脳卒中ガイドライン2009」では,脳卒中急性期のリハビリテーションの推奨レベルはグレードAであり,早期座位・立位,装具を用いた早期歩行練習などが含まれている。急性期に立位・歩行練習を行う際に,適合した装具を作製し利用することで,歩行能力を含めたADL能力を改善し,在院日数が短縮されたとの報告もある。しかしながら,脳卒中の病態は多様で機能障害の程度・回復過程も個人差が大きく,早期の装具作製時期については,帰結や痙縮の変化などの要素を含めて統合し熟考する必要がある。片麻痺患者に対する下肢装具を選択する基準の報告等はみられるが,急性期の下肢装具選択に関する一定の見解は得られていない。今回,我々は,早期装具作製の判断因子を得るため,急性期脳卒中片麻痺患者の,Stroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)評価結果と,最終的に作製した装具の関連について後方視的に検討したので報告する。
【方法】
対象)2009年4月1日から2013年7月31日までに脳卒中を発症し,当院で急性期・回復期の治療を行った片麻痺患者の261例のうち,装具を作製した48名である。
調査内容)長下肢装具(knee ankle foot orthosis:以下KAFO)が作製された25名をA群,短下肢装具(ankle foot orthosis:以下AFO)が作製された23名をB群として,各群の平均年齢,疾患名,急性期理学療法開始1週後に評価した意識(Japan Coma Scale:以下JCS),SIAS(麻痺側運動機能としてHip-Flexion Test・Knee-Extension Test・Foot-pat Test,下肢深部腱反射,下肢筋緊張,足関節ROM,体幹機能の腹筋力,垂直性テスト,視空間認知と,非麻痺側大腿四頭筋筋力)を後方視的に調査した。
統計学的解析)両群間で,年齢,疾患名,急性期理学療法開始1週後に評価したJCS,SIAS各項目の得点について有意差の有無をt検定及びχ2検定,Mann-WhitneyのU検定を用いて検討した。次に,作製装具の種類(KAFO,AFO)を従属変数,先の検定で両群間に有意差を認めた項目を独立変数とし,変数増加法(尤度比)ロジスティック回帰分析を実施した。解析を行うにあたり多重共線性の問題を考慮し,独立変数間でのPearsonの相関係数を求めた。結果,相関係数が0.9を超えるものはなく,すべての変数を投入した。これらすべての検定の有意水準は5%未満とした。統計解析にはPASW Statistics18.0を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿い当院の倫理審査で承認を得て実施した。
【結果】
平均年齢は,A群(長下肢装具)70.1±10.3歳,B群(短下肢装具)62.3±9.9歳であり,A群がより高齢であった。発症から装具作製までの期間はA群65日±39.2日,B群77.0日±33.5日であった。
t検定及びχ2検定,Mann-WhitneyのU検定で,有意差を認めた項目は年齢,体幹機能の腹筋力,垂直性テストであった。ロジスティック回帰分析の結果,最終的に有意であった変数は年齢(オッズ比1.085,95%信頼区間1.010-1.165),体幹機能の垂直性(オッズ比0.290,95%信頼区間0.128-0.659)であった。χ2検定の結果p<0.01と有意で,HosmerとLemeshowの検定ではp=0.352,モデル全体の判別的中率は74.5%であった。
【考察】
本研究では,早期装具作製の判断因子を得るため,急性期脳卒中患者を対象に,その機能障害の程度を調査することで,装具の選択に影響を与える因子を検討した。急性期の時点で,年齢が高く重度の体幹機能の障害を有する患者にKAFOが作製されていた。体幹機能の障害が重度な場合,立位・歩行時の体幹の制動が困難であることが推測される。また,体幹・股関節の協調的な制御が困難で,姿勢調節能力の回復の遅延が示唆され,KAFOが選択されたと考える。高齢者では病前の運動予備能が低い可能性が高い。今回の研究では,非麻痺側の大腿四頭筋筋力は装具の選択に影響を与えていなかった。大腿四頭筋筋力の評価は徒手筋力検査と同様の方法で実施したが,この検査は筋張力を評価しているものであり,筋の瞬発力等を評価しているものではない。高齢者ではサルコペニアによるtypeII線維の選択的な喪失が起こっており,筋張力や関節可動域だけでなく,姿勢保持能力に問題があると考えられる。そのため,立位・歩行時には非麻痺側の姿勢調節も困難となりやすく,KAFOが作製されていたと考える。今回はSIASを用いて予測を行ったが,今後は評価項目を増やし,さらなる詳細な分析を進めたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者の急性期理学療法評価は,下肢装具選択に関与する因子を抽出し,早期装具作製判断の一助となると考える。