[1551] ボツリヌス療法と理学療法が静的立位バランスに及ぼす影響
Keywords:ボツリヌス療法, 片麻痺, 重心動揺
【はじめに,目的】
ボツリヌス(BTX-A)療法は,「脳卒中ガイドライン2009」で脳卒中後の上下肢痙縮の治療として推奨グレードAとされ,数多くのランダム化比較試験で,BTX-A投与が痙縮の軽減や関節可動域などの受動的機能の改善に有効であることが証明・報告されている。また,歩行能力に関しても反復投与による改善が報告されているが,米国神経学会によるガイドラインでは,能動的機能の改善については,レベルBと判断されるにとどまっている。さらに,BTX-A療法が能動的機能である立位バランスに及ぼす影響に関する報告や理学療法の併用に関する報告は少ない。そこで本研究は,脳卒中片麻痺者におけるBTX-A療法と理学療法が静的立位バランスに及ぼす影響の検証を目的とした。
【方法】
対象者は,当院にてBTX-A療法を実施したBTX-A療法前能力が補装具未使用で30秒以上立位保持可能な成人脳卒中片麻痺者10名(男性10名,60.8±12.82歳,右片麻痺7名,左片麻痺3名,発症からBTX-A投与までの日数1773±1625.34日)とした。主なBTX-A投与筋は,橈側手根屈筋,尺側手根屈筋,長掌筋,腕橈骨筋,上腕二頭筋,腓腹筋,ヒラメ筋,後脛骨筋,長母趾屈筋,長趾屈筋で1症例あたり平均345単位の投与であった。BTX-A初回投与後14日間は入院にて理学療法を行い,以降は外来での理学療法を週1回程度実施した。測定は,BTX-A初回投与前と2回目投与前(投与間日数164.7±40.30日)に重心動揺計(Medicapteurs社製Win-pod)を用いて重心動揺検査を行った。測定姿勢は,裸足となり両足を接した直立を基準とした。基準姿勢が困難な例は可能な限り両足を接した直立となるように指導した。両上肢は体側に接し自然に直立した姿勢とし,困難な例は,上肢を可能な限り下垂位とした。視点の設定は,被験者の目線の高さに設定した80cm先の視点を注視するよう指導し,1回の測定は30秒間とした。計測パラメータはポストラル分析として,軌跡長,外周面積,矩形面積,単位軌跡長,単位面積軌跡長を算出し,BTX-A初回投与前と2回目投与前を比較した。データの統計処理は,正規性の有無に従い対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
情報抽出の際は個人情報の取り扱いに最大限の配慮を行い,個人が特定できないようにした。対象者には,学術的利用を目的とした評価データの使用について同意を得た。
【結果】
BTX-A初回投与前→2回目投与前として,結果を下記に記載し,有意な差がある場合p値で示した。軌跡長(mm):663.5±249.04→776.8±464.89で有意な差はなかった。外周面積(mm2):280.3±127.69→431.9±239.24(p<0.05)で有意に増加した。矩形面積(mm2):1187.1±560.25→1826.2±1082.05(p<0.05)で有意に増加した。単位軌跡長(mm/s):22.1±8.30→25.8±15.49で有意な差はなかった。単位面積軌跡長(1/mm):2.5±0.86→1.9±0.65(p<0.05)で有意に減少した。
【考察】
研究結果より,初回投与前と2回目投与前を比較して有意に外周面積,矩形面積に示される重心動揺面積が増加するが,単位面積軌跡長が減少することが示唆された。大川らは,単位面積軌跡長は重心動揺における姿勢制御の微細さを示し,この微細な制御は深部感覚系姿勢制御機能によるものと考えられると述べている。このことから,BTX-A療法と理学療法が静的立位バランスに及ぼす影響としては,深部感覚系姿勢制御機能の改善を背景にした重心動揺面積の増大,つまり機能的な静的立位バランスの向上に関与する事が示唆された。よって,BTX-A療法と併用の理学療法では,特に深部感覚系姿勢制御機能の改善を目的としたプログラムを重点的に行うことで,より機能的な静的立位バランスの獲得に寄与できる可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
BTX-A療法と理学療法によって,BTX-A療法前にすでに構築された姿勢制御に影響を及ぼす事が示唆された。このことは,BTX-A療法と併用する理学療法プログラムの検討において有益な情報であると考える。
ボツリヌス(BTX-A)療法は,「脳卒中ガイドライン2009」で脳卒中後の上下肢痙縮の治療として推奨グレードAとされ,数多くのランダム化比較試験で,BTX-A投与が痙縮の軽減や関節可動域などの受動的機能の改善に有効であることが証明・報告されている。また,歩行能力に関しても反復投与による改善が報告されているが,米国神経学会によるガイドラインでは,能動的機能の改善については,レベルBと判断されるにとどまっている。さらに,BTX-A療法が能動的機能である立位バランスに及ぼす影響に関する報告や理学療法の併用に関する報告は少ない。そこで本研究は,脳卒中片麻痺者におけるBTX-A療法と理学療法が静的立位バランスに及ぼす影響の検証を目的とした。
【方法】
対象者は,当院にてBTX-A療法を実施したBTX-A療法前能力が補装具未使用で30秒以上立位保持可能な成人脳卒中片麻痺者10名(男性10名,60.8±12.82歳,右片麻痺7名,左片麻痺3名,発症からBTX-A投与までの日数1773±1625.34日)とした。主なBTX-A投与筋は,橈側手根屈筋,尺側手根屈筋,長掌筋,腕橈骨筋,上腕二頭筋,腓腹筋,ヒラメ筋,後脛骨筋,長母趾屈筋,長趾屈筋で1症例あたり平均345単位の投与であった。BTX-A初回投与後14日間は入院にて理学療法を行い,以降は外来での理学療法を週1回程度実施した。測定は,BTX-A初回投与前と2回目投与前(投与間日数164.7±40.30日)に重心動揺計(Medicapteurs社製Win-pod)を用いて重心動揺検査を行った。測定姿勢は,裸足となり両足を接した直立を基準とした。基準姿勢が困難な例は可能な限り両足を接した直立となるように指導した。両上肢は体側に接し自然に直立した姿勢とし,困難な例は,上肢を可能な限り下垂位とした。視点の設定は,被験者の目線の高さに設定した80cm先の視点を注視するよう指導し,1回の測定は30秒間とした。計測パラメータはポストラル分析として,軌跡長,外周面積,矩形面積,単位軌跡長,単位面積軌跡長を算出し,BTX-A初回投与前と2回目投与前を比較した。データの統計処理は,正規性の有無に従い対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
情報抽出の際は個人情報の取り扱いに最大限の配慮を行い,個人が特定できないようにした。対象者には,学術的利用を目的とした評価データの使用について同意を得た。
【結果】
BTX-A初回投与前→2回目投与前として,結果を下記に記載し,有意な差がある場合p値で示した。軌跡長(mm):663.5±249.04→776.8±464.89で有意な差はなかった。外周面積(mm2):280.3±127.69→431.9±239.24(p<0.05)で有意に増加した。矩形面積(mm2):1187.1±560.25→1826.2±1082.05(p<0.05)で有意に増加した。単位軌跡長(mm/s):22.1±8.30→25.8±15.49で有意な差はなかった。単位面積軌跡長(1/mm):2.5±0.86→1.9±0.65(p<0.05)で有意に減少した。
【考察】
研究結果より,初回投与前と2回目投与前を比較して有意に外周面積,矩形面積に示される重心動揺面積が増加するが,単位面積軌跡長が減少することが示唆された。大川らは,単位面積軌跡長は重心動揺における姿勢制御の微細さを示し,この微細な制御は深部感覚系姿勢制御機能によるものと考えられると述べている。このことから,BTX-A療法と理学療法が静的立位バランスに及ぼす影響としては,深部感覚系姿勢制御機能の改善を背景にした重心動揺面積の増大,つまり機能的な静的立位バランスの向上に関与する事が示唆された。よって,BTX-A療法と併用の理学療法では,特に深部感覚系姿勢制御機能の改善を目的としたプログラムを重点的に行うことで,より機能的な静的立位バランスの獲得に寄与できる可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
BTX-A療法と理学療法によって,BTX-A療法前にすでに構築された姿勢制御に影響を及ぼす事が示唆された。このことは,BTX-A療法と併用する理学療法プログラムの検討において有益な情報であると考える。