[1552] 1時間のランニングは血中CXCL-1レベルを上昇させる
Keywords:運動負荷, ケモカイン, マイオカイン
【はじめに】近年,運動器官である骨格筋の収縮によって血液中へ分泌されるサイトカインが,血流を介して全身に運ばれ,多様な生理作用を発揮することが報告されている。骨格筋から分泌されるサイトカインを総称してマイオカインと呼び,インターロイキン-6(IL-6)に代表されるように,骨格筋における脂質代謝,糖代謝をはじめ,肝グリコーゲンの分解促進や膵臓でのインスリン分泌促進など,他臓器における代謝などの内分泌機能に関わることが明らかとなっている。また,サイトカインの中でも好中球などの走化性を有するものをケモカインと呼び,近年,ケモカインであるCXCL-1が,IL-6と同様に糖代謝や脂質代謝に関与する物質として,マイオカインの一つである事が提唱されている。これまでの研究では,CXCL-1は組織損傷や感染性疾患への罹患時に,線維芽細胞や上皮細胞,血管内皮細胞,単球などから産生され,主に好中球などの白血球系細胞の走化性を惹起し,血管新生や炎症の形成,創傷治癒などに関与するとされていた。しかし,マウスを対象とした研究では,CXCL-1は骨格筋からも発現し,運動後に血中レベルが上昇し,糖代謝や脂肪分解に寄与することが報告された。しかし,我々の知る限りでは,ヒトを対象に運動による血中CXCL-1の動態変化について調査した報告は見当たらない。そのため,本研究ではヒトを対象に,運動で血中CXCL-1が上昇するかどうかを検証する事を目的とした。
【方法】被検者は健常者10名(平均年齢63.7±4.0歳,平均±SD)とし,除外基準は糖尿病の既往,心疾患,骨関節疾患,炎症性疾患を有する者とした。被験者らは,最大酸素摂取量(VO2max)ならびに最大心拍数(HRmax)の測定のために,事前に心肺運動負荷試験を受けた。2週間の後,被験者らは事前に測定されたVO2maxの70%の負荷量で,トレッドミル上で1時間の走行を行った。運動終了後は安静座位とし,採血は,運動前,運動終了直後,終了1時間後,終了2時間後,終了3時間後に行い,全ての採血終了後に実験を終了した。採血項目は,血中CXCL-1濃度,血中IL-6濃度,血中TNF-α濃度,白血球分画,HCTとした。統計学的検討には,Friedmanを行い,post hocテストとしてWilcoxon testを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした。
【説明と同意】本研究は倫理委員会の承認を得た上で行った。被験者には実験の目的,方法および危険性を書面と口頭で十分に説明し,実験参加の同意を得た。
【結果】血中CXCL-1濃度は安静時と比較して運動終了直後に有意に上昇した。終了1時間後でも上昇は維持し,終了2時間で安静レベルへ戻った。血中IL-6濃度は安静時と比較して運動終了直後に有意に上昇した。また,終了1時間後,終了2時間後,終了3時間後でも上昇を維持した。血中TNF-α濃度に変化はなかった。白血球,好中球,単球,リンパ球数は運動終了後に有意な上昇を認め,好中球は終了3時間後まで上昇を維持した。HCTは,安静時と比較して運動終了直後に上昇し,終了後1時間で安静レベルに戻った。
【考察】CXCL-1が上昇した要因について,過去の研究では,TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインの上昇後に,線維芽細胞や上皮細胞,血管内皮細胞,単球などの細胞からCXCL-1が発現すると報告されているが,本研究では運動期間を通してTNF-αの上昇を認めなかった。よって,CXCL-1の上昇は,炎症によるものではないと考えられる。また,過去の研究では,骨格筋細胞への電気刺激はCXCL-1 mRNAの発現を促し,マウスを対象とした研究では,運動による血中CXCL-1濃度の上昇が報告されている。本研究では発現機序は特定できないが,骨格筋の収縮が運動後のCXCL-1上昇に作用した可能性が考えられる。また,IL-6との関連性については,マウスを対象とした研究から,CXCL-1の発現にはIL-6が必要であると報告されている。さらに,運動によって上昇する血中CXCL-1の起源は主に肝臓であり,筋収縮によって発現したIL-6が上方制御すると報告されている。また,CXCL-1はIL-6が上昇した2時間後に上昇を認めている。本研究では,マウスを対象とした研究とは異なり,CXCL-1は運動直後から上昇を示し,マウスとヒトでは上昇機序が異なることが考えられた。さらに,IL-6が上昇しているにも関わらずCXCL-1が基礎値に戻っていることから,ヒトの運動によるIL-6上昇とCXCL-1上昇には関連性が低いことが考えられた。また,運動直後にHCT値の上昇を認めたことから,IL-6とCXCL-1の上昇には血液濃縮が関与した可能性も考えられるが,HCTの上昇は運動直後の一過性であり,可能性は低いと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】運動効果のメカニズムを科学的に調査し,新たな知見を得ることは,リハビリテーション医学の貢献に寄与するものだと考える。
【方法】被検者は健常者10名(平均年齢63.7±4.0歳,平均±SD)とし,除外基準は糖尿病の既往,心疾患,骨関節疾患,炎症性疾患を有する者とした。被験者らは,最大酸素摂取量(VO2max)ならびに最大心拍数(HRmax)の測定のために,事前に心肺運動負荷試験を受けた。2週間の後,被験者らは事前に測定されたVO2maxの70%の負荷量で,トレッドミル上で1時間の走行を行った。運動終了後は安静座位とし,採血は,運動前,運動終了直後,終了1時間後,終了2時間後,終了3時間後に行い,全ての採血終了後に実験を終了した。採血項目は,血中CXCL-1濃度,血中IL-6濃度,血中TNF-α濃度,白血球分画,HCTとした。統計学的検討には,Friedmanを行い,post hocテストとしてWilcoxon testを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした。
【説明と同意】本研究は倫理委員会の承認を得た上で行った。被験者には実験の目的,方法および危険性を書面と口頭で十分に説明し,実験参加の同意を得た。
【結果】血中CXCL-1濃度は安静時と比較して運動終了直後に有意に上昇した。終了1時間後でも上昇は維持し,終了2時間で安静レベルへ戻った。血中IL-6濃度は安静時と比較して運動終了直後に有意に上昇した。また,終了1時間後,終了2時間後,終了3時間後でも上昇を維持した。血中TNF-α濃度に変化はなかった。白血球,好中球,単球,リンパ球数は運動終了後に有意な上昇を認め,好中球は終了3時間後まで上昇を維持した。HCTは,安静時と比較して運動終了直後に上昇し,終了後1時間で安静レベルに戻った。
【考察】CXCL-1が上昇した要因について,過去の研究では,TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインの上昇後に,線維芽細胞や上皮細胞,血管内皮細胞,単球などの細胞からCXCL-1が発現すると報告されているが,本研究では運動期間を通してTNF-αの上昇を認めなかった。よって,CXCL-1の上昇は,炎症によるものではないと考えられる。また,過去の研究では,骨格筋細胞への電気刺激はCXCL-1 mRNAの発現を促し,マウスを対象とした研究では,運動による血中CXCL-1濃度の上昇が報告されている。本研究では発現機序は特定できないが,骨格筋の収縮が運動後のCXCL-1上昇に作用した可能性が考えられる。また,IL-6との関連性については,マウスを対象とした研究から,CXCL-1の発現にはIL-6が必要であると報告されている。さらに,運動によって上昇する血中CXCL-1の起源は主に肝臓であり,筋収縮によって発現したIL-6が上方制御すると報告されている。また,CXCL-1はIL-6が上昇した2時間後に上昇を認めている。本研究では,マウスを対象とした研究とは異なり,CXCL-1は運動直後から上昇を示し,マウスとヒトでは上昇機序が異なることが考えられた。さらに,IL-6が上昇しているにも関わらずCXCL-1が基礎値に戻っていることから,ヒトの運動によるIL-6上昇とCXCL-1上昇には関連性が低いことが考えられた。また,運動直後にHCT値の上昇を認めたことから,IL-6とCXCL-1の上昇には血液濃縮が関与した可能性も考えられるが,HCTの上昇は運動直後の一過性であり,可能性は低いと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】運動効果のメカニズムを科学的に調査し,新たな知見を得ることは,リハビリテーション医学の貢献に寄与するものだと考える。