[1556] 短時間の筋刺激が皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響
Keywords:EMS, TMS, MEP
【目的】
運動学習や技能獲得に関し運動前に事前に脳を準備状態にしておくことで,一時的に運動効率を高め,継続することで運動学習を促進できる可能性が示唆されている(Sharma et al, 2010)。その手法として,非侵襲的脳刺激法が挙げられるが理学療法士の立場での臨床使用に関しては困難である。近年,電気刺激を末梢神経や筋に対して与えることから生じる求心性入力により,大脳皮質運動野の活動を変化させることや脳の可塑性を誘導出来る可能性があることが報告されている(Chipchase et al, 2010)。我々は第48回日本理学療法学術大会にて,短時間の筋刺激(EMS)直後に運動課題を行うことで即時的にパフォーマンスが向上することを報告した。では,このEMS後に運動パフォーマンスが向上したとき,脳内ではどのような変化が生じているのだろうか。本研究では,経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて,EMS後の皮質脊髄路の興奮性変化を運動誘発電位(MEP)を指標に検証し,その刺激効果持続時間を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人12名(平均年齢25.8歳 標準偏差±2.7)で男性9名,女性3名であった。被験者はEdinburgh利き手検査にて全て右利きであった。全例,神経学的疾患の既往はなかった。
EMSはトリオ300(伊藤超短波製)を用い,刺激電極は右短母指外転筋(APB)に貼付した。刺激パラメーターは,周波数100Hz,パルス幅100μs,強度は運動閾値以下(2-6mA),刺激時間は120秒の連続刺激とした。
TMSは,Magstim200(Magstim社製)を使用し,8の字コイルにて左一次運動野を刺激し測定した。MEPはNeuropack MEB-2300(日本光電社製)を用いAPB,第一背側骨幹筋(FDI)の2筋から記録した。電極位置は各筋の筋腹部にディスポ電極を貼付して導出し,双極表面誘導法により記録した。TMSを行う刺激点は,目的とするAPB,FDIの各筋に最も良好にMEPを同時に誘発出来る最適刺激部位とした。その後,APBを基準として安静時運動閾値(rMT)を求めた。なお,rMTは10回の刺激中に少なくとも5回に,50μV以上のMEP振幅が得られる最低刺激強度とした。測定時におけるTMSの刺激強度は,APBのrMTの1.0,1.2,1.4倍とした。
実験手順は,EMS前,直後,10分後,20分後の4時点で測定を行い,MEPをそれぞれ10回導出し,加えてその時点でのrMTも測定した。記録したMEP波形データから,波形の最大振幅値を算出した。その値から各測定磁気のMEP振幅値を介入前のMEP振幅値で除し,MEP比を算出した。統計解析は,各測定時期でのMEP比を検討するため,反復一元配置測定分散分析を行った。多重比較にはDunett法を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当実験は本学医学部疫学研究に関する倫理審査委員会の承認を得て行われた。また,対象者には実験の内容について説明後,書面にて同意を得た。
【結果】
各測定時期でのMEP比は,EMS直後,10分後,20分後の平均値±標準誤差(SE)を求めた。APBにおいては,1.0rMT:0.72±0.18,0.75±0.23,0.76±0.18,1.2rMT:0.71±0.07,0.62±0.07,0.61±0.10,1.4rMT:0.84±0.11,0.85±0.09,0.80±0.13であり,1.2rMTではEMS前と比較して全区間でMEPの有意な減少が認められた(p<0.01)。FDIにおいては,1.0rMT:1.47±0.38,1.36±0.38,1.36±0.28,1.2rMT:0.82±0.18,0.97±0.18,0.95±0.18,1.4rMT:0.85±0.07,0.88±0.08,0.75±0.06であり,EMS前と比較してどの区間にも有意差は認められなかった(p>0.05)。また,rMTはEMS前と比べその他の区間で著明な変化を認められなかった(p>0.05)。
【考察】
本研究により,電気刺激対象筋において1.2rMTのMEPに有意な減少が刺激直後から20分後まで認められたが,1.4rMTでは減少傾向があったもの統計学的な有意差は認められなかった。これは,刺激強度の増加により,周辺に存在するAPB以外の筋を支配する神経細胞が刺激されたためと考える。また,APBとFDIでMEPの反応が異なった原因は,両筋の支配神経が異なったためと考えられる。以上から,本研究で使用したパラメーターの短時間筋刺激により,対象筋の皮質脊髄路の興奮性を抑制する可能性が示唆された。また,健常者における運動パフォーマンスとの関連性は,今後更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
短時間の筋刺激により,対象筋に対する皮質脊髄路興奮性の減少に伴う脳の可塑性を誘導し,有効な治療効果を得る方法につながる可能性が示唆された。
運動学習や技能獲得に関し運動前に事前に脳を準備状態にしておくことで,一時的に運動効率を高め,継続することで運動学習を促進できる可能性が示唆されている(Sharma et al, 2010)。その手法として,非侵襲的脳刺激法が挙げられるが理学療法士の立場での臨床使用に関しては困難である。近年,電気刺激を末梢神経や筋に対して与えることから生じる求心性入力により,大脳皮質運動野の活動を変化させることや脳の可塑性を誘導出来る可能性があることが報告されている(Chipchase et al, 2010)。我々は第48回日本理学療法学術大会にて,短時間の筋刺激(EMS)直後に運動課題を行うことで即時的にパフォーマンスが向上することを報告した。では,このEMS後に運動パフォーマンスが向上したとき,脳内ではどのような変化が生じているのだろうか。本研究では,経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて,EMS後の皮質脊髄路の興奮性変化を運動誘発電位(MEP)を指標に検証し,その刺激効果持続時間を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人12名(平均年齢25.8歳 標準偏差±2.7)で男性9名,女性3名であった。被験者はEdinburgh利き手検査にて全て右利きであった。全例,神経学的疾患の既往はなかった。
EMSはトリオ300(伊藤超短波製)を用い,刺激電極は右短母指外転筋(APB)に貼付した。刺激パラメーターは,周波数100Hz,パルス幅100μs,強度は運動閾値以下(2-6mA),刺激時間は120秒の連続刺激とした。
TMSは,Magstim200(Magstim社製)を使用し,8の字コイルにて左一次運動野を刺激し測定した。MEPはNeuropack MEB-2300(日本光電社製)を用いAPB,第一背側骨幹筋(FDI)の2筋から記録した。電極位置は各筋の筋腹部にディスポ電極を貼付して導出し,双極表面誘導法により記録した。TMSを行う刺激点は,目的とするAPB,FDIの各筋に最も良好にMEPを同時に誘発出来る最適刺激部位とした。その後,APBを基準として安静時運動閾値(rMT)を求めた。なお,rMTは10回の刺激中に少なくとも5回に,50μV以上のMEP振幅が得られる最低刺激強度とした。測定時におけるTMSの刺激強度は,APBのrMTの1.0,1.2,1.4倍とした。
実験手順は,EMS前,直後,10分後,20分後の4時点で測定を行い,MEPをそれぞれ10回導出し,加えてその時点でのrMTも測定した。記録したMEP波形データから,波形の最大振幅値を算出した。その値から各測定磁気のMEP振幅値を介入前のMEP振幅値で除し,MEP比を算出した。統計解析は,各測定時期でのMEP比を検討するため,反復一元配置測定分散分析を行った。多重比較にはDunett法を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当実験は本学医学部疫学研究に関する倫理審査委員会の承認を得て行われた。また,対象者には実験の内容について説明後,書面にて同意を得た。
【結果】
各測定時期でのMEP比は,EMS直後,10分後,20分後の平均値±標準誤差(SE)を求めた。APBにおいては,1.0rMT:0.72±0.18,0.75±0.23,0.76±0.18,1.2rMT:0.71±0.07,0.62±0.07,0.61±0.10,1.4rMT:0.84±0.11,0.85±0.09,0.80±0.13であり,1.2rMTではEMS前と比較して全区間でMEPの有意な減少が認められた(p<0.01)。FDIにおいては,1.0rMT:1.47±0.38,1.36±0.38,1.36±0.28,1.2rMT:0.82±0.18,0.97±0.18,0.95±0.18,1.4rMT:0.85±0.07,0.88±0.08,0.75±0.06であり,EMS前と比較してどの区間にも有意差は認められなかった(p>0.05)。また,rMTはEMS前と比べその他の区間で著明な変化を認められなかった(p>0.05)。
【考察】
本研究により,電気刺激対象筋において1.2rMTのMEPに有意な減少が刺激直後から20分後まで認められたが,1.4rMTでは減少傾向があったもの統計学的な有意差は認められなかった。これは,刺激強度の増加により,周辺に存在するAPB以外の筋を支配する神経細胞が刺激されたためと考える。また,APBとFDIでMEPの反応が異なった原因は,両筋の支配神経が異なったためと考えられる。以上から,本研究で使用したパラメーターの短時間筋刺激により,対象筋の皮質脊髄路の興奮性を抑制する可能性が示唆された。また,健常者における運動パフォーマンスとの関連性は,今後更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
短時間の筋刺激により,対象筋に対する皮質脊髄路興奮性の減少に伴う脳の可塑性を誘導し,有効な治療効果を得る方法につながる可能性が示唆された。