第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

その他2

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM 第4会場 (3F 302)

座長:八並光信(杏林大学保健学部理学療法学科)

内部障害 口述

[1557] がん患者のストレス抑制に対する運動療法効果

井上順一朗1, 小野玲2, 牧浦大祐1,2, 酒井良忠1,3 (1.神戸大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.神戸大学大学院医学研究科)

Keywords:がん患者, ストレス, 運動療法

【はじめに,目的】
がん患者ではストレスや抑うつなどの精神機能・心理面の症状が高頻度に認められ,がん患者全般では38%,進行がん患者では54%に抑うつや譫妄などの精神機能障害を認めることが報告されている。近年,がん患者のストレスや抑うつが患者の生命予後やQuality of Life(QOL)と関連すると報告されており,ストレスや抑うつを抑制することは介入すべき重要課題の一つである。運動療法はがん患者のストレスや抑うつを改善すると期待されているが,がん患者のストレスに対する運動療法効果については未だ報告されていない。また,がん患者に対する精神機能の評価指標は,Profile of Mood States(POMS)などの自己記入式の質問票による主観的評価がなされているが,客観性に乏しく,また項目が多く患者への負担が大きいという欠点がある。本研究では,客観的かつ簡便に測定が可能な唾液アミラーゼ活性をストレスの指標として用い,がん患者のストレスを客観的に評価し,運動療法前後でのストレスに対する即時的効果について検証した。
【方法】
対象者は,2013年8月~11月に当院入院中に運動療法を実施したがん患者20名(男性12名,女性8名,平均年齢64.9±11.2歳)。原疾患は,食道がん4名,腎がん3名,乳がん3名,前立腺がん2名,悪性リンパ腫2名,急性骨髄性白血病2名,骨髄異形成症候群,大腸がん,肺がん,淡明細胞肉腫 各1名。ECOG Performance Statusは,PS1:6名,PS2:7名,PS3:3名,PS4:4名であった。対象者に対して,ストレッチ,筋力トレーニング,エルゴメーター,ADL練習などの運動療法(運動強度:Borg Scale 12~13「楽である~ややきつい」)を20~30分実施し,運動療法(ex)前,ex直後,ex10分後,ex30分後に唾液アミラーゼ活性の評価を唾液アミラーゼモニター(ニプロ,CM-2.1)を用いて行った。唾液アミラーゼ活性の成人の基準値は0~30kIU/Lであり,高値ほど強いストレスを感じていることを表している。また,ex前とex30分後に自覚的ストレスの程度をNumerous Rating Scale(NRS)(0「まったくストレスを感じていない」~10「これ以上にないストレスを感じている」)にて評価した。統計解析は,Wilcoxon符号付順位和検定を用い,5%未満を統計学的有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究への参加には,研究の目的・方法および個人情報の保護について説明し,対象者より同意を得た。
【結果】
唾液アミラーゼ活性は,ex前191.0±140.0 kIU/L,ex直後240.3±109.7 kIU/L,ex10分後120.3±56.7 kIU/L,ex30分後63.0±34.6 kIU/Lと,ex前との比較において,ex直後で有意に上昇し(p<0.01),ex10分後(p<0.05),ex30分後(p<0.01)では有意に低下した。また,自覚的ストレスの程度は,ex前NRS 5.0±2.5,ex30分後NRS 2.5±1.0と有意に低下していた(p<0.01)。
【考察】
唾液アミラーゼ活性は交感神経系の活性を反映しており,不快な刺激では上昇し,快適な刺激では低下するとされており,POMSによる主観的評価とも相関が認められると報告されている。また,交感神経系の活性による直接神経作用では,唾液アミラーゼ活性の応答時間は1~数分とレスポンスが速いという特徴を有する。本研究の結果では,ex前においては唾液アミラーゼ活性が高値を示しており,がん患者は高いストレス状態にあったと考えられる。また,運動療法を実施することで,さらに交感神経系が賦活され,ex直後で有意に唾液アミラーゼが上昇したと予想される。運動終了とともに交感神経活性は低下し,相対的に副交感神経の活性が上昇したことが,ex10分後,ex30分後の唾液アミラーゼ活性の低下,すなわち,ストレスの軽減につながったのではないかと考えられる。自覚的ストレスの程度もex前後にて唾液アミラーゼ活性の低下に伴い低下していることからも,運動療法による介入ががん患者のストレス抑制に有効ではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
ストレス評価は質問紙などの主観的評価が主流であるが,負担が大きいため,がん患者には適切ではない。唾液アミラーゼ活性は客観的かつ簡便にストレスの評価が可能であり,がん患者のストレスの評価には最適である。また,がん患者のストレスに対する運動療法効果についての報告はほとんどなく,運動療法が身体機能の改善だけではなく,精神機能・心理面の改善にもつながることは,がん患者のQOL向上に非常に有用である。