[1558] 身体的・活動機能が変化しなかったがん患者に対する理学療法の心理的影響
Keywords:がん, 心理, 理学療法
【はじめに,目的】
がん患者は,原疾患の進行に伴い,社会的地位や役割,身体機能の喪失体験により精神心理的な問題を認める。そのため,がん患者に対する理学療法(PT)は,身体機能と心理的側面の両面に対しアプローチをすることが重要である。先行研究では,身体的・活動機能の改善と精神心理面の改善を認めるとの報告はあるが,身体的・活動機能が改善しなかったがん患者の精神心理面に対するPTの効果を客観的なデータで報告した研究はみられない。本研究の目的は,身体的・活動機能が変化しなかったがん患者に対するPTの介入意義を心理的影響から検討することである。
【方法】
対象は,2013年4月~9月までに当センターに入院しPTを実施したがん患者148名のうち,Profile Of Mood States短縮版(POMS短縮版)の評価が困難であった者を除いた73名を前方視的に調査した。測定項目は,年齢や性別などの基本情報に加え,がん患者の身体的・活動機能を示すPerformance Status(PS),対象者の心理・感情を示すPOMS短縮版とし,1週間のPT介入前後に評価を行った。PTは特に今回の調査を意識せずに通常通りに行うよう各担当者に指示した。1週間のPTを行った結果,PSがPT介入前後で変化しなかった者は33名(45%)であり,性別は男性22人,女性11人,年齢(mean±SD)は67.6±6.9歳であった。POMS短縮版では各下位項目の粗得点から,性別・年齢別に標準化されている気分プロフィール換算表を用いてT得点を求め,活気以外の下位5項目のT得点の合計から活気のT得点を差し引いたTMD得点を算出した。PT介入前後におけるTMD得点から心理面の改善を判定し,改善の内訳として各下位項目のT得点,各質問項目の粗得点の変化を調べた。統計学的には,正規性の検定をShapiro-Wilk検定で行った後,正規分布に従う場合には対応のあるt検定,正規分布に従わない場合はWilcoxonの符号付き順位和検定を用いて比較した。解析ソフトは,IBM SPSS ver.22を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当センターの倫理委員会にて承認を得ている臨床研究(承認番号750)であり,全対象者に内容を説明後,文章にて同意を得ている。
【結果】
介入前のPOMS短縮版の中央値(25%値-75%値)は,TMD得点が209点(163点-241点),緊張-不安が49点(42点-56点),抑うつ-落ち込みが53点(44点-60点),敵意-怒りが41点(39点-50点),活気が41点(33点-52点),疲労が52点(43点-61点),困惑が51点(45点-61点)となり,抑うつ状態である谷型を示す傾向がみられた。介入後は,TMD得点が174(153-220)となり,有意に改善が認められた。下位項目をみると,緊張-不安,抑うつ-落ち込み,疲労で有意な改善を認められた。質問項目でみると,緊張-不安では「落ち着かない」「不安だ」「あれこれ心配だ」,抑うつ-落ち込みでは「がっかりしてやる気をなくす」「気持ちが沈んで暗い」,疲労では「ぐったりする」「疲れた」「へとへとだ」「だるい」で,有意な改善を認めた。
【考察】
KERRY S.らは貧血のがん患者を対象に,上田らは高齢がん患者を対象に,原らは周術期消化器がん患者を対象に,それぞれ身体的・活動機能と心理的な改善は正の相関があると報告しているが,相関係数だけが報告されているため,PTを行ったにもかかわらず身体的・活動機能が改善しなかった例で効果があったかどうかは明かでない。今回の我々の結果は,PSで表せないような小さな身体的・活動機能の変化を本人が感じ取り心理面に影響を与えている可能性も考えられるが,短期間ではっきりとPSが変化しなかった症例に対しても疲労やだるさを改善させ,不安や落ち込みなどの心理的側面を改善させる効果が得られることを明らかにしており,PTの適応範囲の拡大を示唆している。今後は,さらに心理面に配慮した理学療法の進め方などを検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
身体的・活動機能が変化しなかったがん患者に対しても,PTを行う事で心理面に対して良い影響を与えていることが明らかとなり,PTの介入意義を明らかにすることができた。
がん患者は,原疾患の進行に伴い,社会的地位や役割,身体機能の喪失体験により精神心理的な問題を認める。そのため,がん患者に対する理学療法(PT)は,身体機能と心理的側面の両面に対しアプローチをすることが重要である。先行研究では,身体的・活動機能の改善と精神心理面の改善を認めるとの報告はあるが,身体的・活動機能が改善しなかったがん患者の精神心理面に対するPTの効果を客観的なデータで報告した研究はみられない。本研究の目的は,身体的・活動機能が変化しなかったがん患者に対するPTの介入意義を心理的影響から検討することである。
【方法】
対象は,2013年4月~9月までに当センターに入院しPTを実施したがん患者148名のうち,Profile Of Mood States短縮版(POMS短縮版)の評価が困難であった者を除いた73名を前方視的に調査した。測定項目は,年齢や性別などの基本情報に加え,がん患者の身体的・活動機能を示すPerformance Status(PS),対象者の心理・感情を示すPOMS短縮版とし,1週間のPT介入前後に評価を行った。PTは特に今回の調査を意識せずに通常通りに行うよう各担当者に指示した。1週間のPTを行った結果,PSがPT介入前後で変化しなかった者は33名(45%)であり,性別は男性22人,女性11人,年齢(mean±SD)は67.6±6.9歳であった。POMS短縮版では各下位項目の粗得点から,性別・年齢別に標準化されている気分プロフィール換算表を用いてT得点を求め,活気以外の下位5項目のT得点の合計から活気のT得点を差し引いたTMD得点を算出した。PT介入前後におけるTMD得点から心理面の改善を判定し,改善の内訳として各下位項目のT得点,各質問項目の粗得点の変化を調べた。統計学的には,正規性の検定をShapiro-Wilk検定で行った後,正規分布に従う場合には対応のあるt検定,正規分布に従わない場合はWilcoxonの符号付き順位和検定を用いて比較した。解析ソフトは,IBM SPSS ver.22を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当センターの倫理委員会にて承認を得ている臨床研究(承認番号750)であり,全対象者に内容を説明後,文章にて同意を得ている。
【結果】
介入前のPOMS短縮版の中央値(25%値-75%値)は,TMD得点が209点(163点-241点),緊張-不安が49点(42点-56点),抑うつ-落ち込みが53点(44点-60点),敵意-怒りが41点(39点-50点),活気が41点(33点-52点),疲労が52点(43点-61点),困惑が51点(45点-61点)となり,抑うつ状態である谷型を示す傾向がみられた。介入後は,TMD得点が174(153-220)となり,有意に改善が認められた。下位項目をみると,緊張-不安,抑うつ-落ち込み,疲労で有意な改善を認められた。質問項目でみると,緊張-不安では「落ち着かない」「不安だ」「あれこれ心配だ」,抑うつ-落ち込みでは「がっかりしてやる気をなくす」「気持ちが沈んで暗い」,疲労では「ぐったりする」「疲れた」「へとへとだ」「だるい」で,有意な改善を認めた。
【考察】
KERRY S.らは貧血のがん患者を対象に,上田らは高齢がん患者を対象に,原らは周術期消化器がん患者を対象に,それぞれ身体的・活動機能と心理的な改善は正の相関があると報告しているが,相関係数だけが報告されているため,PTを行ったにもかかわらず身体的・活動機能が改善しなかった例で効果があったかどうかは明かでない。今回の我々の結果は,PSで表せないような小さな身体的・活動機能の変化を本人が感じ取り心理面に影響を与えている可能性も考えられるが,短期間ではっきりとPSが変化しなかった症例に対しても疲労やだるさを改善させ,不安や落ち込みなどの心理的側面を改善させる効果が得られることを明らかにしており,PTの適応範囲の拡大を示唆している。今後は,さらに心理面に配慮した理学療法の進め方などを検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
身体的・活動機能が変化しなかったがん患者に対しても,PTを行う事で心理面に対して良い影響を与えていることが明らかとなり,PTの介入意義を明らかにすることができた。